続・コロナ離婚(仮)

佐倉銀

第1話 言葉の殴り合い

こんなことを書き始めると、あれでなんでまだ一緒に暮らしているの? なんて言われそうな気がしなくはない。そうだ、よくまぁ、私もまだだらだらと旦那と一緒にいるものだと思う。いや、旦那と呼ぶより、彼の方がいいのか、ヤツでもいいのだが…

 子供らにはとても申し訳ないのだけれど、もう、愛情だの、感情だの、彼に関して持っているものはない。憎しみでもなく、悲しみでもなく、哀れみでもなく、まぁ、いうなればあきらめだろう。

 あの状況でよくまぁ離婚してないのか?


 二人での話し合いに際し、聞くところによると、いつからか、彼が頑張って働いているお金を私や子供らにむしり取られているような気がしていたらしい。本人の言うところによると、これだけ頑張っているというのに、自分は放置され、勝手にお金を使われ、ごちゃごちゃした家に住まわされているという気持ちなのだそうだ。

 どの口が何を言ってんだ?

 と思った。

 確かに私は専業主婦ではあるけれども、洗濯は毎日しているし、掃除も適度にしてる。足りない日用品の補充、銀行への出入金、口座の管理、ガス・水道・電気の管理、エアコン、季節の着るものの補充の助言と本人がいなくとも買えるものは買っているし、子供の面倒など私に丸投げである。

 休日など、基本、昼過ぎに起きてきて、パソコンをいじる以外のことをしない彼。

 買ったゲーム機はテレビの近辺に散らかりまくり、埃をかぶる。髪の毛も自分で切にもいかないから伸び放題で、スーツも先日義母さんにこんなヨレヨレを着ているの!?と、驚かれる始末。ちなみに言うと、髪も切りに行け、スーツや服を新調しよう! などの助言を私はしている。しているけれども、五回に一回行けばいい方なので、私に不備はないと思う。それともなにか、私が採寸してスーツとって来いってか。オイオイ。

 これだけの健康管理&メンテナンスをして、働くだけにしているというのに何が気に入らないのか。まぁ、そもそも、彼はなんというか、自分以外のことになんら興味を持たない。私が掃除機をかけようが、掃除をしようが、ご飯を作ろうが、それは当たり前のことで、完璧にできていないなら、怠けていて、ダメな専業主婦の最たるものとなるらしい。こんな簡単なことを何故にできないのかと。自分はこれだけ頑張っているというのに…自分可哀想なのだそうだ。

 

 大体、彼には元々結婚に覚悟がない。

 同棲し、子供が出来、入籍し、出産し…流されるように十数年経て、成長してないのは彼だけだ。そもそも、子供が大きくなればいうことは聞かないし、約束は破るものだし、ふてぶてしくも開き直るし、嘘もつく。しかし、それが悪いかと言われればそうでもないと私は思う。だって、この世の中で自我を保ち、生き抜くためには重要なスキルではないだろうか。極端な話、殺人も、盗みも、傷害も、詐欺も…おおよそ、犯罪と思しきこともせず、学校から呼び出しもくらわず、きちんと暮らせているのだから、私はそれでいいと思う。しかし、彼はそれではダメなのだという。彼の言うことを聞き、彼の約束を守り、彼の気の触らないような行動をする子供でなければならないらしい。そんな子供、気持ち悪いだろう。私はそんな子供を見たら、どんな闇を抱えているのか背筋が寒くなる。

 大体、彼や私を見て、子供らは大きくなっているのだ。子供の悪いところは全部彼の行動のせいで、子供の良いところは全部私の行動のせいとはいわないけれど、子供は我々の鏡のように行動する。つまりは子供らの悪いところはそのままそっくり、彼と私の悪いところということになるだろう。人の振り見て我が振り直せである。

 家事にしたってそうである。

 居間のリビングダイニングに、ぬいぐるみが転がっているだけで散らかっているのだそうだ。寒いからとコタツの上で子供が食べた朝食の…卵賭けご飯の…しょうゆさし一瓶残っているだけで、怠けているのだそうだ。たまたま、息子の問題集にはさまれたしおりが落ちているだけで、私はダメな専業主婦なのだそうだ。(義母にも実母にもリビングを見てもらい、これで散らかっているかきいてみたが答えはNOであった)

 そんな状況下の中、彼はこのように言ってきた。

 家事を完璧にこなすか、もしくは、自分が行ったことを全部して、他のことは全くするな。私はどちらも選べないと言った。

 そうすると、また、一週間ほど経た後、

 家事を完ぺきにこなすか、それができないなら、せめて、自分の生活費ぐらいは稼げ。


 一緒にいるメリットなくね?


 結局、自分の生活費を稼いだところで、家事はさせられるのであるなら…たまったものではなくはないか。しかも、これを承諾したところで、また更なるハードルを上げてくるのではなかろうかとも考えられなくもない。

 しかも、見知らぬ女と遊べないぐらいなら、私などいらないとのことである。

 なぁ、私、奴隷か? どこから、買われてきたの? 彼、どこで私を買ったの?

 この現代において、日本でこんなことがありうるのかねえ?

 つまりは住居のみで、そのメンテナンスなどを任され、なおかつ、外で自分の生活費を稼ぎ、浮気まがいなことまで許さねばならないなんて、それは妻ではない。母親ですらないだろう。

 これが世に言う、モラハラなんだなぁ~と逆に感心した。


 感心して、眠れなくなったのである。

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