亡国の覇王

第122話 皆……どこにいるの……?



「皆……どこにいるの……?」


 か細い声が、廃墟に静かに響き渡った。

 崩れた柱、建物、荒れた道。

 とうの昔に置き去りにされ、忘れさられたような人の跡。


 そんな廃墟を、力のない足取りでアメリアは歩く。

 今にも泣きそうな、辛そうな顔。

 幼子が迷子になったかのような、思わず庇護欲を駆り立てられるような表情。


 そんな顔で、寂しげな声を出しているというのに──エドガー達五人は崩れかけた壁を背にして、アメリアから姿を隠していた。


 バク、バク、バク、と。心臓が激しく暴れまわる。

 緊張で、口の中が乾ききっていた。

 まるで凶悪な魔物から身を隠しているような、そんな有様だ。


「……エドガー……どこにいるの……? お願い、早く出てきてよぉ……!」

「──ア、アメリア……!」

「しっ! ダメですっ!」


 とうとう静かに泣き出してしまったアメリアに、エドガーは思わず飛び出しかけた。

 

 しかし、エドガーを胸に抱えていたフィーリアに、ギュと強く抱きしめられる。


 ヒソヒソと声を潜めながらも強い口調で、フィーリアは厳しくエドガーをたしなめる。


「出てっちゃダメですよ! 今出たらどうなるか、わかっているでしょう!?」

「それは……いや、しかしだな……!」


「しかしもかかしもねぇだろうが! お前が出てったらあたしらまで巻き込まれんだぞ!」

「そうですよ! 大人しくしていてください!」

「気持ちは分からんでもないが、状況を考えろ! お前死ぬ気か!?」


 フィーリアだけではなく、他の三人にまで責められ、むぐぅとエドガーは呻いた。


 いつまでも現れないエドガー達に、アメリアはくしゃりと顔を歪ませる。

 それを見て、エドガーは胸が締め付けられるようだった。


 今すぐにでも飛び出して、僕はここだよと叫び、安心させてあげたかった。

 だが、


「エドガー……お願いだから、早く出てきてよ……来てくれたら、きっと……」


 ──ゴウンッ。


「──苦しまず殺してあげるから」


 アメリアの周囲で、炎が燃え盛った。

 まるで地獄の業火を思わせるような、禍々しい炎。

 そんな炎に囲まれながら、無表情でアメリアは呟いた。


 なんの感情も見えず、淡々とした声音が逆に怖い。

 それが己の使命なのだと、必ずやるという決意が見えた。


「はっ、はわわっ。はわわわわわっ……!」

「エ、エドガー様っ! 落ち着いて、落ち着いてくださささいっ。だ、大丈夫でっ……私も、ここにいいいい、居ますからっ!」


 エドガーを守るように、フィーリア自身も顔を青くしながら強く抱きしめる。しかし、それでもエドガーの怯えは止まらない。ガタガタガタと、恐怖のあまり身体が震えていた。


 その恐怖を煽るように、炎の向こう側から、ゆらりとなにかが見えた。


 それは、肩を落とし力なく歩いているだけの、ただの人間だった。まるでヒモに吊り下げられた人形のようであり、気味の悪さに背筋がぞっとする。しかもその数が普通ではない。


 老若男女問わず、数十、数百は優に達する人数が、アメリアに付き従うように歩いている。しかも、それぞれの手には鍬や鎌といった農具や、ナイフから剣といった武器を持っていた。


 高すぎる殺意に、五人共が恐怖に震えていた。何かの間違いであって欲しいと、切に願いながらひたすらに身を隠す。もはやエドガーの頭の中ですら、アメリアを慰めてやりたいという気すらなくなっていた。



 なぜアメリアが多くの人を連れ、仲間であるはずの五人を殺すべく追い回しているのか?


 それを語るには、数日ばかり時を戻す必要がある。





 ──今回はまぁ、少々同情の余地がなくもない。




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