第2章 忘却の祠  現代~古代~未来

 「ちょっとあなた達!いくら何でも神頼み過ぎない!?私のカードはそんな万能じゃないわよ。」


 ここは古代チャロル草原。青々とした新緑と荘厳な滝が流れる大自然、その滝つぼでアルド達は稀代(?)の占い師、ラディカと再開を果たした。久しぶりの再会だというのに、事情を説明するや否や、いきなり怒鳴られる。思わず苦笑するアルド。

 

「分かっているよラディカ、無茶なお願いだって。でも、今は他に頼れる人がいないんだ。」

とアルドが言う。


「フィーネ殿が倒れた今、事態は一刻を争うでござる。」

「今はただ寝ているだけだけど、いつどうなるか分からないの!」

 サイラスとエイミが畳みかける。


「そうは言われても・・・そんな重大なこと、自信ないよ・・・」


弱気になるラディカ。


「大丈夫デス、ラディカ。この方法で解決策がミツカル可能性は1%以下です、ノデ。」

悪げもなくリィカが言う。アルドも続ける。


「そうだよラディカ。物は試しさ。とりあえず占ってくれないか。」

「そこまで当てにされていないっていうのも癪に障るわね!いいわ!フィーネも心配だし。私の本気の占いを見せてあげるわ!」


顔を赤らめて怒るラディカ。アルド達は占いを頼りにリンデに戻るのであった。


 *

 ラディカを連れてきたアルド達は、患者用テントに入り、クレルヴォとポムと合流した。


「すやすや気持ちよさそうに寝ていますわ。」

フィーネのほっぺをツンツンしながらポムが言う。


「今のところ、変わりはないですわ。呼吸も安定しています。本当に、ただ寝ているだけですわ。」

「他の患者もそうだ。しかし、手の甲には皆、円形の斑紋が現れている。大きさは様々だが、フィーネに現れている斑紋が一番大きく、鮮明だ」


腕組みしながらクレルヴォが言う。斑紋を見たラディカが何かに気付く。


「あれ?なんかこの円形の模様、見た記憶が・・・」

「本当か!?どこで見たんだ!?」


詰め寄るアルド。


「ちょっと待ってよ。そんなすぐ思い出せないわ・・・でも、こういった円形の模様、輪、というのは神事や祭りごとでは、循環や生命の流転、つまり輪廻を模しているの。」


「輪廻?」


「ええ、円環は生命の始まりと終わりをつなげ、命あるものが転生を繰り返し、無限に循環する様を示唆しているの。」


皆、怪訝な顔になる。


「確かに、ガルレアではわら人形や雪だるまの例もある。科学では説明がつかない現象だ。」

クレルヴォが呟く。


「ガルレア大陸では土偶を崇拝しているところもあるしね。」

とエイミも賛同する。


「そう、ガルレアよ!この紋様を見たのは。」

 ラディカが急に昔を思い出した。


「ガルレアにこの紋様があるのか!?」

アルドが聞く。


「幼い頃、占いの修行で各地を回った時に見たことがある気がするの。あまり正確には思い出せないけど。」

「むう、アルド殿、ガルレアに向かうでござるか?」

「いや、まだ手がかりが少なすぎる。ラディカ、やっぱり占ってくれないか?」

「そうよね、ちょっと待ってて。準備するわ。」


 そう言ってラディカは近くの机をベッドの前に持ってきた。カードを取り出し、フィーネの手をとって占いを始める。カードが縦横無尽に駆け巡る。その中から4枚のカードが選ばれた。天空に浮く島のカード、天と地の住人のカード、暗い地下道を暗示するカード、恐ろしい魔物が描かれたカード。


「このカードは・・・」

ラディカが呟く。顔が青ざめる。


「どうしたんだラディカ?そのカード、どういう意味があるんだ?」

 アルドが聞くと、ラディカが一呼吸おいて答える。


「・・・まずは順に説明するわね。一枚目のカードは前に見たことがある通り、未来を表しているわ。二枚目は天空にも地上にも人がいるところから、未来ガルレアと思って間違いない。三枚目は地下や暗い場所を表しているわ。そして、四枚目・・・」


ラディカが続ける。


「私のアルテナカードには3枚、魔物のカードがあるの。見て。」


そう言って3枚のカードを出す。3枚にはそれぞれ、可愛い小動物、屈強なゴーレム、そして先ほどの魔物が描写されていた。


「この2枚は私たちと実力が低いか、同等を表しているの。でもこのカードは・・・」

深刻そうに話すラディカ。顔が曇る。



「実力が遥かに上の時しか出ないの。しかも、私が占いをやっていて、初めて引いたカードよ。」




皆、唾をゴクリと飲む。


「出たカードから推測すると、未来ガルレアの地下の何処かに、元凶となる何かがいるわ。ただ、そこには恐ろしい何かがいる・・・。大きな危険が伴うのは間違いないわ。私達では歯が立たない程の敵がいるかもしれない。」


 ラディカの声が低くなり震える。占いの結果に一同、押し黙ってしまった。あの巨大な腕をもつ怪物を目の当たりにしているだけに、その元凶かもしれない存在の恐ろしさは想像に難くない。



「うーん、でもとりあえず未来ガルレアに行ってみるか。」

不穏な空気をアルドがさらっと打ち破る。


「ちょっと!私の話聞いてた!?」

「聞いてたよ。でも、このままここでじっとしているわけにはいかないだろ?」

「確かにそうでござるな。百聞は一見に如かず、今回の病の原因も分かるかもしれぬ」

「そうデス。そもそもラディカさんの占いが当たる確率は1%未満なノデ。」


「あなたはくどいわ!!」

と怒るラディカ。


「ありがとう、ラディカ。おかげで手がかりが掴めた。それに本当に危なくなったらラディカが教えてくれるだろ?そうなったら一旦逃げればいい。今は何とかしてフィーネを目覚めさせる手がかりを見つけないと。」


アルドがラディカに言う。

(そう、この人は万事この調子だ。どんな困難があっても、仲間の力を信じて疑わない。皆を巻き込んで、問題を解決してしまう・・・)


ため息をつくラディカ。


「そうね、占いはあくまで占い。自分たちの意思と力で未来はいくらでも変えられる。あなたに教わったことだわ。わたしも一緒に連れてって。」

「分かった。助かるよ。」

 アルドは、ラディカの申し出を笑顔で快諾した。


「アルド、私も同行したい。今回の病の原因を突きとめたい。ここはポムとミグランスの看護師で問題ない。」

クレルヴォも同行を申し出る。


「クレルヴォ、ありがとう。よし!みんな、まだ分からないことだらけだけど、未来ガルレアへ行こう!淀みの地を探索する!」



 こうして、アルド達は未来ガルレアへ向かった。




断章3 逃亡の果てに


このままじゃ、あの子が死んでしまう!

何とかしないと。でも、どうしたら・・・

ユニガンはダメ!リンデにもあいつの刺客がいるかもしれない。

ああ・・・時間がない・・・誰か、誰か助けて・・・


セレナ海岸で逡巡するボロボロの少女。そこに人影が忍び寄る。



「みーつけた。」



少女の顔が絶望に染まった。


 

「ここか。」


 アルドが呟く。淀みの地の東方面(以前、時の女神の教会が消えた場所のさらに奥)にそれはあった。暗く淀んだ瘴気が辺りを包み、巨大な洞穴が佇んでいた。洞穴の内部は闇に包まれており、一寸先も見渡すことができない。辺りには、祠を思わせる鳥居や神具の名残が見受けられたが、寂れた風貌も相まって不気味さを助長させていた。ただ、その洞穴から漂う異様な瘴気は、巨大な腕を持つ獅子と同様の負のオーラを漂わせており、ここが元凶であることを示唆していた。


「いやな空気でござるな。」

とサイラスがのどを鳴らしながら言う。


「ああ、不気味だな。」

アルドの額にも汗が垂れる。


「この洞穴の中がサーチできません。中に何があるのか、まったくワカリマセン。」

リィカも動揺しているのだろうか、大きな耳をぐるぐる回している。


「暗いところは嫌だな・・・」

ラディカも震える。


「それは大丈夫デス。私がライトで照らします、ノデ。」

リィカの目がパッと光り、辺りを照らす。


「お主、そんなこともできるでござるか!?」

サイラスが驚く。


「アルド、ここから先は危険だ。いつでも脱出できるよう、慎重に行くぞ。」

クレルヴォが言う。


「分かった。みんな、慎重に行こう。」


アルド達は洞穴に足を踏み入れた。


 *

 洞穴の中は暗闇に包まれており、リィカのライトが無ければ進むことも困難だった。内部は入り組んでおり、分岐や狭路が多く、地図もレーダーも無い中、神経をすり減らしながら、少しずつ洞穴の奥へと進んでいった。


 徐々に瘴気が濃くなるのを感じるアルド達、突如目の前に大きな空洞が広がった。しかし、そこには濃密な瘴気が漂っており、前方に進むことができなかった。


「この嫌なモヤモヤは何でござるか?前に進めぬでござるよ!」

苦労して進んできたサイラスは怒り心頭、モヤモヤに斬撃をしかけるも、刀は空振りに終わる。


「サイラス、落ち着け、この先に何かいるぞ。」

クレルヴォが冷静にサイラスを窘める。


「ええ、巨大な気配を感じるわ」

洞穴探索で髪がボサボサになったラディカが言う。

 

 その時、瘴気がアルド達の周りを包みこんだ。そして、瘴気は次々と獅子の怪物を模した姿になり、アルド達を囲い込んだ。その数、10体以上。

 臨戦態勢をとるアルド達。敵の獅子一体が攻撃を仕掛けてくる。アルドは避け様に攻撃を放とうとしたが、ふと脳裏にあの戦いの記憶が蘇り、力を緩める。剣先が怪物の左腕を掠めたが、同時にアルドの左腕も同じ場所が出血した。


「っつ・・・やっぱり。みんな!!気を付けろ、こいつらも攻撃を反転させてくるぞ!!」

 アルドの声が響く。


 ヘレナ、リィカ以外は、攻撃を躱し続けるしかない状態に陥ってしまった。リィカがハンマーで煙の怪物に攻撃し撃退するも、すぐさま元通りに復元する。


「アルド殿、切りがないでござるよ!しかもこいつらどんどん増えているでござる!!」

サイラスが攻撃を防ぎながら嘆く。


「この敵からは生体反応が感じられまセン。アルド、このままではこちらがヤラレテしまいマス。」

ハンマーを振りながらリィカが危険信号を告げる。


「ラディカ!何か手はないか!?」


「ごめん、分からない!奥の瘴気の塊に何かいるのは間違いないけど。そこまで近づけない!キャっ!!」

敵の攻撃を受け、倒れるラディカ。アルドがすぐ駆け寄り、敵の攻撃を剣でいなし続ける。


「くっ、アルド!一旦撤退するぞ!」

クレルヴォが言う。


「分かった!リィカ、ヘレナ!頼む!」


 反転ダメージがほとんどない二人を殿に、アルド達は脱出を試みた。空洞から洞穴の狭路に避難した瞬間、煙の怪物たちは追撃をやめ、もとの煙に戻っていった。元凶が近くにいるにも関わらず、攻め入ることができない歯がゆさを感じながら、アルド達は敗走した。


 洞穴を脱出したアルド達は、その場にへたり込む。


「暗いし、ジメジメしてるし、敵は強いし、ここはもうイヤ!」

髪の毛が蜘蛛の巣まみれのエイミが泣く。


「こりゃ参ったでござる。アルド、あの煙の怪物、戦いようが無いでござるよ。」

ぼろぼろになったサイラスも泣き言を言う。


「私達がいくら攻撃しても手応えが無かったわ。」

ヘレナが言う、リィカも頷く。この状況にアルドも困惑する。戸惑う一行にラディカが口を開く。




「みんな、提案があるんだけど・・・古代に行かない?」



 ラディカの提案は至極全うだった。古代ガルレアの同じ場所に行けば、この洞穴が昔何だったのか分かるかもしれない、という考えだ。ラディカが修行時代に見た手の甲の模様の謎もしかり、皆、ラディカの提案に同意し、古代ガルレアに向かった。


 次元戦艦に乗り、古代に向かったアルド達は、山の国ガダロで情報収集し、未来で洞穴があったと思われる場所(タルガナ山道の北東部)に向かった。ガダロの村長に話を聞いたところ、そこには古くから神を祀る寺院があるとのことであった。


 長い山道を登り目的地に着いたアルド達の眼前に、素晴らしい風景が広がっていた。雲に手が届きそうな高地に寺院が築かれており、本殿を中心に建立された建造物は荘厳であり、一つの古代遺跡を思わせた。


「はあ、すごい、こんなところがあるなんて・・・」

エイミが感嘆の声を上げる。一同、その風景にしばらく心奪われた。


 観光気分で寺院を散策していると、本殿と思われる一際大きな、塔を思わせる建立物があった。そこには、屋根の上に獅子を模した銅像が飾られていた。


「あれは!?」

見つけたアルドが驚く。


「あの怪物に似てるでござるな」

サイラスも同意する。


「みんなをこの門を見て!」


ラディカが叫ぶ。塔の門には、フィーネや患者達の手の甲に現れた斑紋と同様の模様が描かれていた。だが、模様の周りに三眼の鬼のような怪物が描かれており、輪をがっしりと掴んでいた。


「やっぱり、ここだったのね・・・。」

とラディカが呟く。


「ここに手掛かりがあるに違いない。でもこの三つ目の鬼は何なんだ?」

アルドが言う。


 門前で思案しているアルド達に、寺院の僧侶と思われる老婆が話しかけてきた。


「旅のお方達、この寺院に何の用かね?」


「あなたは?」

エイミが尋ねる。


「わしはこの寺院『スーリャ』の住職であり案内人じゃ。お主達のような、旅人や参拝にくる人たちを案内しておるのじゃ。」


「この門に描かれている輪のような模様なんだけど、これは一体何を表しているの?」

ラディカが問いかける。


「これは輪廻図じゃ。この世は六つの階層に分かれ、万物全ての生命はその中で、死と転生を繰り返す様を表しているのじゃ。」


「輪廻図っていうのか・・・。ばあさん、輪廻図を掴んでいるこの三つ目の鬼は何だ?」

アルドが聞く。待ってました、とばかりに老婆が話す。


「輪廻の外側で全ての生命を見守り、次の生へと導くといわれている神、無常大鬼『キールティムカ』様じゃ。」


「無常大鬼・・・」

オーガベインが呟きかすかに震える。


「この寺院はムカ様を祀り、次の生をより良くする事を願うために建てられて寺院なのじゃ。」


「おばあちゃん、この紋様が人の手に現れるなんてことある?」

エイミが聞くと、老婆は驚き口を開く。


「それはムカ様に恩寵を受けた者の証じゃ。その者は一世代に一人しか現れん。ちょうどいい。こちらへ来なさい。」


そう言って、老婆は本殿の中へアルド達を案内してくれた。



 本殿で待っていたのは、一人の少女と小さい獅子のような獣であった。その獣はアルド達が戦ってきたあの怪物とあまりにも酷似していた。


「私はイーシュワラ。旅の方々、山岳寺院スーリャへようこそ。」


イーシュワラと名乗った少女は慇懃に頭を下げ、アルド達を歓迎した。その立ち振る舞いは威厳に満ちており、少女ということを忘れさせるほどだった。


「そして、この子はターラ。ムカ様の化身と言われています。」

と言って小さい獣を紹介した。ターラは得意げに鼻を鳴らし、イーシュワラのそばから離れない。


「我々の信仰や寺院について聞きたいことがあれば、イーシュワラ様にお聞きくださいな。この方は、ムカ様の神子であられます。」


確かに、少女の右手にはフィーネに表れた文様と酷似していた。イーシュワラの紹介を済ませた老婆は、一礼し退出した。


 老婆の足音が聞こえなくなるのを確かめたイーシュワラは、突然アルド達に詰め寄った。



「ねえねえ!あなた達!どこから来たの!?外の世界はどんな感じ!?大きいカエルのペットが流行っているの!?最近の土偶はピンクでカラフルなのね!」

目をキラキラさせて一方的に捲し立てる。


「えぇ!?」

先ほどの態度とは全く違う少女にアルド達は驚いた。


「吾輩はペットでは無いでござる!!」

怒るサイラス。


「うわ~~!カエルがしゃべった~~~!」

溢れ出る好奇心が抑えきれないイーシュワラ。


「言っとくけど、私たちは土偶じゃないわよ。」

とヘレナ。


「ワタシはエルジオンのKMS社製アンドロイド、リィカです。」

自己紹介するリィカ。


「エルジオン!?アンドロイド!!??なにそれ~~~!?あなた達、面白すぎるわ~!!」


あまりの態度の豹変にたじろぐアルド。

「あの・・・ええと・・・イーシュワラ、ちょっといいか?」


「イーシュワラなんて呼ばないで!私にはちゃんと『リディ』って名前があるんだから。」


 リディの話によると、『イーシュワラ(統治するもの)』という名称は、代々、手の甲に輪廻の斑紋が発現したものが冠する名前であり、斑紋は一世代に一人しか発現しないらしい。発現した者は神の子として崇められ、生涯をこの寺院で祈祷しながら過ごすことを余儀なくされるとのことだった。

 

 リディに斑紋が発現したのが4歳の時、現在14歳になるリディは両親の熱心な信仰もあり、山岳寺院から一歩も出ることなく、祈祷するかない日々を過ごしていた。

 旅人や参拝客から外の情報を得るしかないのだが、神子となって以来、制限された環境下において、まさに今こそがリディの好奇心を満たす唯一無二の機会なのであった。


 リディの招待により、アルド達は寺院より歓待を受け、寺院本殿での宿泊を許可された。日々が退屈なのか、リディはアルド達とずっと喋り続けた。リディの境遇にいささかの憐憫を感じつつも、弾丸のようにあれこれ聞いてくるので、アルド達も今までの出来事をリディに話した。


 時を超えること、様々な時代の話と今までの冒険、そして現在リンデに起きていること、ターラに類似した怪物と戦ったこと・・・


 ふとターラを見るリディ。

「この子のことは、私も正直よく分からないの。輪廻斑が受け継がれた人にしか懐かないみたい。でも、危害を加えるような事は絶対しないわ。私の唯一の相棒なのよ。」

 愛おしい目でターラを見つめ、喉を撫でる。まるで猫のような仕草をして甘えるターラに、あの怪物のような悪意はまるで感じない。


「そうなのか・・・二人は本当にいい友達なんだな。」

アルドが言いながらターラを撫でようとする。その手を拒むことなく、気持ちよさそうに撫でられたターラは、アルドの膝の上に乗り毛づくろいを始めた。


「私以外に懐いたの初めて見た・・・。」

 驚くリディ。ターラはしばらくアルドと戯れ、穏やかな時を過ごした。リディと皆の会話は夜遅くまで続いた。


 翌朝、寺院を去ろうとしたアルド達に、リディは護符を人数分授けてくれた。守護の祈りを込めた護符は、とりまく闇を払う効果があるとのことだ。リディとターラに礼を言い、アルド達は山岳寺院を後にした。


 ラディカの提案でついでに現代の山岳寺院の様子を見に行くことにした。地理的にナグシャムの東側の山岳地帯が該当する場所だったので、次元戦艦に乗り空中から様子を伺った。しかし、寺院らしきものは見つからず、あるのは寂れた温泉街であった。

 次元戦艦を降りたアルド達は、温泉街の宿の女将に話を聞いてみた。しかし、寺院のことは一切分からないという返答であった。


 かつて栄えた山岳寺院スーリャは消え去ってしまった。辛うじて、神を祀る祠はあるものの、俗物的な観光地の一風景となってしまっていた。

 様変わりをした光景に、アルドは何とも言えない寂しさを感じた。ふと、ターラに似た気配を感じる。


(ターラ、お前もどこかからこの景色を眺めているのか?)


 温泉街を後にしたアルド達は再び未来へ向かった。あの、不気味な洞穴へ。


続く

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