再び、整理する
「……こいつは、なんとも複雑な
大きな執務机に広げられた地図を見て、ラーラさんが唸りました。
腹心であり、鼻梁から両の頬にかけて一文字の傷がある
「これ、全部でいくつの
踏み台の上でさらに爪先立ちをするノームのジーナさんが、地図から顔を上げて、わたしを見ました。
「現在のことろ地下四階で確認されているのは、四つの区域です。
1.ジグルルーの信託銀行
2.鏡の広間 & 時の賢者ルーソ様の店舗 兼 研究室
3.樹林帯
4.盗賊のアジト
――この四つです。
これらの区域は今言った順に、崩落や
わたしは地図に指を滑らせながら、説明しました。
「第二禁区の崩落さえなければ “盗賊のアジト” だけでも先に調べられてたのにね。そうすれば聖女たちもあそこまで苦労はしなかったのに……」
ジーナさんが爪先立ちのまま、渋い顔で腕組みをしました。
“盗賊のアジト” のさらに北側にある
「問題はこの “時の賢者ルーソ” の研究室だ。ここにあった “骸骨が嵌められた扉” が開かず、諦めるしかなかった」
隼人くんがわたしを引き継ぐ形で、地図の一画を指し示しました。
「気色の悪い骨の “トーテムポール” の
あの時の憤然とした気持ちが甦ったのか、鼻息を荒げる早乙女くん。
「扉を開けるのに必要な
「でもどこにあるのかな?」
「それが分かれば苦労は――痛て!」
田宮さんが形のよい顎に手を当て呟けば、安西さんが首を傾げ、無粋なツッコミを入れた五代くんがその安西さんに “二の腕にパンチ” をもらいます。
雨降って地固まり、晴れて、おめでたく、ふたりは付き合い始めたのです。
「そのキーアイテムだけどな、装備を改めてたらこんな物が出てきた」
五代くんが二の腕をさすりながら執務机の上に、ピッ!と何かを投げました。
「革鎧の隙間に挟まってたんだが、心当たりのない品だ」
それはわたしたちの世界で言うところのトランプ――絵札のジャックにそっくりなカードでした。
「トランプの11? あの “
「多分な。それまではなかった」
怪訝な顔の早乙女くんに、五代くんが肩を竦めます。
「これがルーソ様の研究室の鍵なの?」
「“頭蓋骨の扉” の鍵が “トランプのJ” ……あまりピンと来ないわね」
安西さんの呟きに、今度は田宮さんが小首を捻りました。
「どう思う?」
「蓋然性というか、符号は合わないように思えます。同じ階にあった “悪魔の顔” が掘られた壁を思い出してください。あの壁を開いたのは “悪魔の石像” でした」
隼人くんに意見を求められたわたしは、難しい顔で答えました。
「枝葉の言うとおりだぜ。“金塊貯蔵庫” の扉を開けたのも “黄金の鍵” だったしな。きっとどこかに “骨の鍵” みたいのがあるに違いないぜ」
「まったく可能性がないとは言い切れませんが――ええ、同じ意見です」
気張った顔でうなずく早乙女くんに、微笑み返します。
「――だとすると、次に調べるのは地下五階、第五層だね」
「それなんだけどさ、“悪魔の石像” も “黄金の鍵” も三階で手に入ったんでしょ? ならその “骨の鍵” とやらがあったとして、やっぱり三階にあるんじゃないの?」
ラーラさんの言葉に、ジーナさんが釈然としない顔を浮べました。
「いえ、無理に法則性を見い出すよりもまずは行ける場所にはすべて行って、それで何も見つからなければ、見逃した場所がないかもう一度調べた方がいいでしょう」
わたしは頭を振りました。
迷宮探索に限らず、とかく人間とは、関連する事象の中に自分に都合のよい法則を見い出してしまうものなのです。
「そっか! そうだね、あい!」
「~あんたは聖女さまの言うことなら、なんでも “あい!” だね」
「当然よ、あたいにとって聖女さまは、女神さまも一緒なんだから」
和やかな苦笑が湧き起こります。
「五階を調べるにしても、地図には下層への梯子が見当たらないが――」
ドッジさんが隼人くんを見ました。
「俺たちが踏破した
「なら、やはりおまえたちは運がいい。ちょうど第一禁区の瓦礫の撤去が終わって、二階に下りられるようになったところだ」
「あそこには、二階から五階まで行き来できる
ドッジさんの言葉を、ラーラさんが補足します。
だから “
「待てよ、四階には昇降機なんてなかったぞ!?」
そんな物があればあんな苦労はしなかった――とばかりに、早乙女くんが勢い込みます。
「昇降機が止まるのは四階の五つ目、それも独立した区域というわけですね」
「どうやら次に探索する場所の目星がついたな」
わたしの言葉に、隼人くんの表情が引き締まったその時、
バン!
勢いよく執務室の扉が開いて、ラーラさんの部下が駆け込んできました。
「ララ、大変だ! 第一禁区から下りてすぐの広間に、巨大な目玉の化け物が!」
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