トーテム・リドル★
『『『ようこそ
ようやく現れた扉の前に立つ(建つ?)、沢山の奇妙な顔を持つトーテムポールが快活に言いました。
もちろん生物ではありません。
魔法によって創造された、
https://kakuyomu.jp/users/Deetwo/news/16818023211788879325
『『『さあ、心構えはいいか、客人よ!』』』
「ハ、ハモるなよ、気持ち悪りぃ」
「な、なにこの気持ち悪いの?」
骸骨を組み上げて造られたトーテムポールに、田宮さんも嫌悪感を露わにします。
「扉の番人だろう。先に進むには問いに答えなければならない」
「や、やめとくか? 引き返してさっきのわかれ道を調べるのもありだぜ」
嘆息気味に答えた隼人くんに、たじろぎ気味に提案する早乙女くん。
「坊主が骨を怖がってどうする。少しは枝葉を見習え」
「俺は別に「まって、この座標!」」
憤然と五代くんに言い返す早乙女くんを、安西さんが制止ます。
「どうしたのです?」
「今のこの座標、落盤で塞がれた “ルーソの店” の先だよ!」
ハッと全員が、安西さんの広げる地図を覗き込みます。
そうして顔を見合わせ……。
「……どうやら目的地には達したようだな」
「……みたいね」
呟いた隼人くんにも、答えた田宮さんにも、黙り込んだままのメンバーの顔にも、達成感は微塵もありません。
それはそうでしょう……
「「「「「「……はぁ~~~」」」」」」
連帯感が高まる一瞬。
こういう時にこそパーティの絆は深まるのです。
「聞こう、その問いを」
深々とした溜息のユニゾンのあと、隼人くんが気持ちを切り替えて訊ねました。
トーテムポールはいくつもある顔で満足げにうなずくと、朗々と語り出します。
『『『
我は大河。
あらゆるものを彼方へと運び去る者。
その流れは
波立たず、逆巻かず、
世界をあまねく押し流す者なり。
我は生を呼ぶ者。
我は死を招く者。
我はその両者を見守る者。
我は大河。
されど母なる海にはたどり着けぬ河。
我は永遠に流れ続ける
――答えよ、我とは?
』』』
ポールの複顔が期待に充ちた表情で、わたしたちを見つめます。
再び顔を見合わせるパーティ。
「答えは……あれよね?」
「ああ、あれだろうな」
「でも簡単すぎねえか?」
「うん……簡単すぎる」
「――おい、答えが間違ってたらどうなるんだ?」
田宮さん、五代くん、早乙女くん、安西さんの会話の後、隼人くんが質します。
『『『……』』』
奇妙な顔たちはニヤニヤと笑うばかりで、答えてはくれません。
「このポールが門番であるなら、電撃のひとつも落ちてくる覚悟は必要でしょう」
「でもそれにしては問題が簡単すぎない? これじゃ門番になってないじゃない」
わたしの言葉に田宮さんが疑問を呈します。
「いえ、最初の最初を思い出してください。この先にあるのは、時の賢者ルーソ様の “店舗 兼 研究室” です。お客さんを迎え入れる扉の謎かけなら、これぐらいの難易度でちょうどいいではないでしょうか」
「それは……確かにそのとおりかも」
「錬金術師の店を訪れる人間になら、このほど度の謎かけは挨拶代わりってわけか」
「逆に知能の低い魔物には効果あるしね」
おのおの納得する、田宮さん、隼人くん、そして安西さん。
「じゃ、どうする?」
「答えてみる。離れててくれ」
早乙女くんの言葉に隼人くんが、トーテムポールに向かって進み出ます。
「待ってください」
わたしは隼人くんに近づき、
「魔法には効果が薄いですが、物理的な危険はこれでかなり軽減できるはずです」
「助かる」
「それでも充分に気をつけてください」
隼人くんはうなずき、奇妙な顔たちに向き直りました。
『『『答えよ、我とは?』』』
「それは
『『『汝の答え、偉大なり!』』』
骸骨で組み上げられたトーテムポールは快哉し、その直後、光の粒子となって分解していきました。
誰もが黙り込んだまま、動けずにいます。
「ひ、冷や汗が出るぜ」
ようやく早乙女くんが、額に浮いた汗を手の甲で拭います。
「確かに謎かけというより挨拶……ううん、
「時の賢者のお店ですから。“答えよ
田宮さんの呟きに、うなずきます。
「中がドワーフの坑道になってないことを祈ろう」
隼人くんがあとに残された、
扉はすでにわたしたちを招き入れるように開いていて、罠の有無を確認する必要はありません。
念のために
扉の奥は南北に二
ひとまず北に進路を取り、東に曲がります。
回廊は曲がり角の先でやはり、真っすぐに伸びていました。
一区画進んだところで “
回廊はそこでさらに南に折れています。
回廊の長さは一辺が五区画。
ここまでの構造から想像するに、この一画は……。
「どうやら三×三の玄室を取り囲んでいる通廊っぽいな」
うむ! とうなずいて見せたのは……いつもの彼。
「一回りしてからじゃないと断定はできないが――確かにその気配はある」
慎重にですが隼人くんも同意します。
三×三の玄室。
つまり “ルーソ様の店舗 兼 研究室” をぐるりと巡っている通廊に、今わたしたちはいるというわけです。
「あの角を曲がればわかるわ。さっさと行きましょう」
田宮さんが若干いらついたように言い、パーティは再び歩き出します。
そして突き当たりを南に折れた先に見えたものは――。
「な、なんだ、あの扉!?」
ギョッとした声音で早乙女くんが叫び、
「たしかに気色悪い」
珍しく感情の籠もったで、五代くんが同意しました。
南に二区画先の西側、入口の扉と同じ
「また骸骨……ルーソって意外と趣味悪い?」
「生を呼び、死を招き、その両者を見守る者だからな。象徴なのかもしれない」
田宮さんと隼人くんの声色にも、忌避感が滲んでいます。
「でもこれでルーソさんに会えるんだよね? 元の時代に帰れるんだよね?」
対照的に弾んだ表情を見せたのは、安西さんでした。
希望が先走り過ぎるのは危険なのですが、たしなめることはできません。
わたしは代わりに、
「“ヤカン先生” の言葉を信じましょう」
とだけ言いました。
「行くぞ」
隼人くんが前進を指示し、パーティは扉の前まで進みます。
巨大で見るからに頑丈そうな
中央部の人間の頭蓋骨にしては大きすぎる
「ノッカーがないわね」
「
全員がうなずき扉と回廊の先を警戒する中、隼人くんが大音声で呼びかけました。
「時の賢者ルーソ! 俺たちは過去からきた冒険者だ! 危害を加える気はない! 話がしたい! いるなら出てきてくれ!」
反応は……ありません。
「ルーソ! 出てきてくれ! ――時の賢者ルーソ!」
回廊に迷宮に、隼人くんの切実な声が響きますが、鉄の扉が開くことも髑髏が喋り出すこともありませんでした。
「くそっ! 居留守を使う気かよ!」
早乙女くんが憤懣に充ちた顔で、閉ざされたままの扉を睨み付けます。
「どうするの?」
「押し通る――五代」
緊迫する田宮さんに、隼人くんが底堅い声で答えました。
五代くんが前に出て慎重に扉を調べ始めます。
全員が固唾を呑んで作業に見入ってしまったので、わたしは警戒に専念です。
チラ見すると、どうやら中央に嵌められた髑髏に鍵穴があるようですが……。
小さな作業音がしばらくの間、通廊に響きます。
そして五代くんが立ち上がる気配。
「ど、どうだ?」
たまらずに訊ねた早乙女くんに、五代くんは食い入るように扉を見つめながら答えます。
「駄目だ。専用の鍵で
「瑞穂」
わたしはうなずき、五代くんと入れ替わります。
“黄金の鍵”
“宝石の錫杖”
“悪魔の石像”
探索で手に入れた鍵だけでなく、それ以外のアイテムすべてを試します。
……ですが。
わたしは扉から離れ、頭を振りました。
「そ、そんな……」
安西さんの唇から絶望が震えとなって零れます。
わたしたちはここまで来て……あと一歩でルーソ様に会える場所まで辿り着いて、進行不可に陥ってしまったのです。
「これが……迷宮探索です」
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※スピンオフ第二回配信・開始しました!
『推しの子の迷宮 ~迷宮保険員エバのダンジョン配信・第二回~』
https://kakuyomu.jp/works/16817330665829292579
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出演:小倉結衣 他
プロの声優による、迫真の迷宮探索譚
下記のチャンネルにて好評配信中。
https://www.youtube.com/watch?v=k3lqu11-r5U&list=PLLeb4pSfGM47QCStZp5KocWQbnbE8b9Jj
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