第10話 戦いは多方向で

 つまり、あちこちで戦が頻発している。これは戦国時代真っ只中の日本と変わらない。

「この北側はどうなんですか?」

 隆景は挟撃される心配はないのかと、地図の北側を指差して訊く。

「それは大丈夫です。うちと接している北側の領土はレヴァイアタンという王が治めていますが、そこはうちと東側を接しているバエルという王と交戦中です。さらにレヴァイアタンは背後のアバンドンの動きも気になり、それほど大きな戦を仕掛けることは出来ません」

 今、うちと戦っている余裕はないとサリエルは断言した。

「なるほど。この西側だけでも六名の悪魔がいるわけですね」

 隆景は数が多いなあと頭を掻く。とはいえ、このくらいの数は日本でも常に考えなければならない。問題はいつ東に打って出るかというところか。

「俺はそういう細かいことを考えるのは面倒だなあ」

 利家は解らないことだらけだしと、すでに会議に飽きている。

「だからこの小早川を呼んだんだろうが。おい、お前が欲しい手下は誰だ? 兄貴か?」

 信長も王の名前が覚えられないなと、すでに隆景に丸投げ気味だ。

「止めてください。ここで兄まで召喚されたら、当主の輝元てるもと様が困ります。それに広域での戦は信長様が得意とするところでしょう。自らの家臣を呼んでください」

 うちに被害を及ぼさないでくれと、隆景は困り顔だ。というか、なぜ自分を呼んだのか。最大の謎だ。

「ふうん。こっちに来てまで嫌いな奴と一緒にいたくないからな」

 しかし、呼ばれた理由はこれに集約されている。

 信長はこの世界で秀吉を使う気はさらさらないのだ。なぜなら、奴の顔は見飽きたし、やり方もそんなに好きじゃない。

「戦いながら考えればいいと思いますよ。うちにも優秀な兵は沢山おりますから」

 サリエルはこれ以上増やさないでくれとばかりに、そう進言しておく。

 この信長、すでに凄まじい力を有していることが解っている。その彼が召喚した奴らも、信長の力の影響を受けて強い。あまり勢力を拡大してほしくないところだ。

「ふん。俺に一撃で倒されるような将軍がいるのにか」

 が、信長は本当に強いのかねえとせせら笑ってくれる。

 まあ、そうなるよな。

 サリエルは勢いだけで攻め込んで来たガープを、今、心の底から憎んだ。

「まあいい。使える駒は多い方がいいからな。それにあちこちと戦をしなければならないのは明確なようだ。今はアスタロトとかいう奴だというが、そいつが落ちれば一気にここが狙われるのは間違いないだろ」

 信長はそうだよなと、サリエルと隆景を見る。

「間違いないでしょう」

「そうなるはずです」

 二人は均衡が崩れれば一気に戦になるのは間違いないと頷いた。

「ならば、先の先まで考えながら戦う必要がある。つまり、東側と北側も防御のための策が必要というわけだ。よし、利家はまずこのアスタロトという奴がどういう戦い方をするのか見てこい。その間にこの二方向の要となる場所に築城だな。うむ、何か眠いし、築城を任せる奴を召喚するのは明日にしよう。小早川、その間に攻める手順を考えておけよ。サリエル、他の王についてもこの男に教えておけ」

「ええっ」

 結局は丸投げされる羽目になる隆景は、思わず不満の声を上げる。が、サリエルにぽんっと肩を叩かれ、諦めろと諭されてしまった。

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