第9話 海は駄目、空はオッケー
隆景は魔導師服、利家は騎士の服を身につけ、再び図書室に集まった。
ここが一番密談に向いているという。
まあ、信長としてはどうでもいいが、作戦を考えている時に余計な邪魔が入るのは困る。
「似合ってるじゃねえか」
二人の格好に信長はにやにやと笑ってしまう。
その笑い方は信長特有の、唇の右側がより釣り上がるもので、利家は本当にこの人は信長なんだなあと、そんなことを考えていた。
「よく解らない格好ですが、もういいです。それよりさっさと作戦会議をしましょう」
一方、隆景は早く帰してくれという気持ちで一杯だ。信長の脅威が去って一安心していたというのに、信長の部下として戦うなんて悪夢でしかない。
「それもそうだな。俺もよく解ってねえし。おい、サリエル、地図を用意しろ」
信長はもっとからかって遊びたかったが、敵が気になるのは事実だ。後ろにいたサリエルに、ここの地図を寄越せとせっつく。
「人使いが荒いですね」
サリエルは文句を言いつつも、羊皮紙に描かれた地図を持ってきた。すると、それに三人はテンションが上がる。
「ほう。これは南蛮人が持っていたものと同じですな」
利家はやっぱりこちらは紙じゃないんですねと顎を擦る。
「羊の皮を使っているのでしたっけ」
隆景は初めて手に触れると、地図を撫でる。
「紙より破れにくいというのはいいよな」
信長は便利だよなとそんな考察をする。
「ええっと、説明を始めてもいいですか?」
妙なところに感心する異世界人だなと思いつつ、サリエルは地図の西側の、その真ん中を指す。
「ここがベリアル様が支配されている場所、つまりこの城がある場所です」
「ほう」
「こっち側は海ですか」
隆景はさらに西側の何も描かれていない場所を指す」
「はい。魔界は一つの大きな大陸のようなものだと考えてください。そして四方は海に囲まれています。しかし、この海を渡るのはかなり危険です。海を根城にする悪魔や魔物がわんさかいて、船を沈めようとしますからね」
「へえ。つまり海からの攻撃は考えなくていいのか」
それは便利だなと、隆景は制海権を巡って争った経験から、そんな感想を持つ。
「はい。基本は陸路、たまに空です」
サリエルの説明に、空だってと利家が驚く。
「これがあるからか」
しかし、信長は自分の背中にくっついている翼に触れた。まだ動かそうと思ったことはないが、これで飛べるだろうことは解る。
「そうです。他にもドラゴンなど飛べる魔物を使役する場合があります」
「ど、どらごん」
「龍みたいなやつだろ。ルイスの奴が言ってたぜ」
困惑する利家と違い、何かと宣教師から西洋の文化について教えてもらっていた信長は知っていた。
「龍ですか。そんなものがいるんですか」
困った場所ですねと、利家は腕を組んだ。どうやって戦えばいいのか、まったく想像出来ない。
「ええっと、続けますよ。今、我々が交戦中なのはここの領土の南側、ここを支配するアスタロトです。二つの領土の間には砂漠地帯が広がっていて、なかなか攻めにくいのですが、アスタロトは自らの支配域を広げるべく、この砂漠を制そうとしているのです」
サリエルはそう言って、南側を指差した。
大きな大陸を十三の王が分割しているので、境界線は複雑だ。そして、少しでも勢力を伸そうと、その複雑な境界線で戦が多発している。
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