第7話 利家、魔導書で殴られる

 ≪召喚術で小早川隆景と前田利家まえだとしいえが召喚されました≫


「って、こんなに簡単に召喚されても困るんですけどね」

 サリエルはマジかよと呆れ顔。

 一方、召喚されたおっさん二人もぽかんとしている。

「こ、ここは」

「ってか、あんた誰?」

 隆景が何事と戸惑うと、同じ日本人だが互いに面識がないから解らないと、利家は隆景の肩を掴んで混乱している。

「おい、お前ら」

 と、そこに呼んだのは俺だからと割って入るのは信長だ。

 だが、見た目が大幅に変わってしまっている。今の信長は彼らと同じ見た目ではなく、がっつり悪魔だ。

「な、何者だ?」

 だから利家が腰の刀に手を当てて訊ねてきたとしても当然なのだが

「俺の顔を忘れるとはいい度胸だ!」

 信長は利家を魔導書で容赦なくぶん殴るのだった。



 場所を城の図書室に移し、ようやく隆景と利家に状況の説明が行われた。普通ならば信じがたい話だが、召喚されて妙な館にいるとなれば信じるしかない。しかも、信長は二人の名前を間違えることなく知っている。

「信長様が本能寺で亡くなられたのは知っていますが、まさか南蛮人に生まれ変わっておられたとは」

 隆景は出された紅茶を緑茶のように啜りつつ、凄いですねえと呆れている。

「お労しい。総てはあの憎き光秀のせいで、殿がこんなお姿になってしまうとは」

 一方、魔導書で殴られて左頬を腫らした利家は、信長が南蛮人になんてと、テーブルを叩いて悔しがっている。

「ああ、そう言えば俺が死んだ後ってどうなったんだ? 光秀では天下は治められんだろう。猿がのさばっているのか?」

 そんな二人の反応を楽しみつつ、信長は簡単に部下が手に入ったことに気をよくし、気軽に自分の死後について訊ねる。

 それに隆景と利家は顔を見合わせると

「そうですね。明智殿はすでに討たれております」

「柴田殿が粘ってますけど、まあ、猿が勝つでしょうな」

 と答えておいた。そして、やっぱり中身は信長なんだと納得。

勝家かついえか。どうなるだろうなあ。いちは心配だが、猿にくれてやるよりは勝家の方がいいだろうし」

 その信長はまた旦那が死ぬなと軽く言ってくれる。

 いや、最初の旦那の死はあんたのせいです。と、二人が思ったのは言うまでもない。

 ともかく、目の前のキラキラ優男が信長であることは認めなければならない。そして自分たちは信長に望まれてこっちにやって来てしまったわけだ。

「ええっと。それでどうして私たちが呼ばれたのでしょうか。というより、前田殿は解りますが、どうして私まで?」

 隆景は敵でしたよねと、思わずそこを確認してしまう。文は何度も交したし、同い年くらいだから、何かと互いの動向が気になる相手ではあったが、召喚される謂れはないはずだ。

「簡単だ。お前はあの猿が手を焼くだけの戦略を立てられる。こっちに来てまで猿の顔は見たくないから、お前に戦の手立てを任せたい」

 それに対し信長は、こっちで天下取りするから手伝えと軽かった。

「は、はあ。っていうか、毛利の家が心配なんですけど」

 どうしてくれるんですかと、隆景は思わず信長の後ろに控えているサリエルを見てしまう。

「大丈夫だ。元の場所、元の時間に戻すことが出来る」

 それにサリエルは、お前たちは召喚されただけだからなと、そう保証しておいた。

 尤も、信長が返してやろうと言わなければ帰れないのだが、そこは黙っておく。

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