第6話 召喚術で武将召喚

 毛利と言えばさんざん苦労させられた相手だ。

 いや、正確には死ぬ直前まで戦っていた相手である。

「あそこは軍師が優秀だからなあ」

 信長は自室に戻った後、ソファに寝転びながら、今戦っているというアスタロトより、毛利のことを考えていた。

 戦略に長けるというのならば、何か戦い方を参考に出来ないかと考えたためだ。

「ううん。毛利は猿に任せっぱなしだったからなあ。しかし、あそこの軍師を務める小早川を落とせば何とかなると言っていたか」

 しかし、そうなると戦い方は調略で、信長にとっては面白くない。その調略部分は誰かにやってもらいたいところだ。

「猿をここに呼ぶことが出来れば・・・・・・いや、あいつは煩いからな。それに嫁のねねまでくっついて来そうだ。代わりに、そうだ。毛利の軍師だという小早川が来てくれないかな」

 あの猿、羽柴秀吉はしばひでよしを苦しめる相手だ。それに何度か文を交した感触からして、面白そうな奴であることは間違いなさそうだった。

小早川隆景こばやかわたかかげ、こっちに来ねえかな。もしくは類似する奴ってここにいるのか」

 信長がぶつぶつとそんなことを呟いていると

「異世界の者を召喚することは出来ますよ」

 と、そんな返事があった。振り向くと、いつの間にかサリエルがそこに立っていた。

「本当か」

「ええ。ただし、ノブナガ様が術を行使すれば、ですが」

 サリエルはそう簡単に習得できる術でもないし、それにその人物をしっかりと思い浮かべられなければ駄目だという点を伏せたまま、そう言った。

「ほう。面白そうだな。その術とやら、教えてくれ」

 信長は難しいとは知らないので、にやにやと笑って気軽にサリエルに教えろと言った。

「いいでしょう」

 サリエルとしてはこの男をどうにか御したいところであったので、望むところである。

 いくら力が強いとはいえ、勝手気ままに振る舞われては困る。下手すればベリアルの名を傷つけることになるのだ。だから、織田信長ではなく、ちゃんとベリアルの息子のカフシエルとして振る舞ってもらいたい。

「では、あちらの広間へ」

「ここじゃ出来ないのか」

「魔法陣を描ける場所が必要です」

「ふうん」

 信長は魔法陣って何だと思いつつも、この世界のことは何でも目新しくて面白いので、素直について行った。

 広間は信長がこちらの世界に復活した場所だった。そこに着くと、ベリアルがチョークを使って魔法陣を描き始める。

「本当はこれもノブナガ様が描けることが望ましいですが、最初ですので私がやります」

「おう」

 答えつつ、こんな七面倒な図形は描きたくねえなと思う信長だ。他の誰かが描いても出来るんだったら、誰か適当な奴に練習させようと算段する。

「出来ました。ノブナガ様、この魔導書をお持ちください」

 サリエルはどうせ出来ないからと内心にやにや笑いつつ、それでも召喚術を真面目に教えた。後で嘘だとばれると面倒そうだからである。

「ほう。これは魔導書というのか」

「はい。魔術を使いやすくするためにあります。その魔導書の532ページを開いてください」

「ふむ」

 信長は言われたとおりのページを開く。すると、魔導書が勝手に青白く光り始めた。

「ま、まさか」

 出来るのかと、サリエルは驚く。もしそうならば、信長の魔力は桁違いだ。

「おい、どうするんだ?」

 そんな驚くサリエルと違い、信長はやり方を教えろとせっつく。それにサリエルははっとなると

「呼びたい者の名前を唱えてください」

 すでに魔導書が呼応しているから、詠唱は不要だと判断してそう言った。

「よし。出て来い、小早川隆景!」

 信長がそう叫ぶと、ぶわっと煙が巻き上がった。

「なっ、ええっ」

 その煙の先からは戸惑う男の声がする。煙が晴れると、東洋人がきょっとんとした顔をして座っていた。

「簡単だな。利家も呼ぶか」

 現われた着物姿の男を見て、信長は呼び放題じゃんとにやっと笑っていた。

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