第5話 この世界の構造

 ガープを倒したという話は一気に城内に伝わった。おかげで信長にケンカを売ろうとする輩はいなくなり、むしろ恐れるようになっていた。

「ふん、くだらない」

「そう言うな。ガープは我が軍の将軍格の悪魔だぞ。それを一撃で倒したとなれば、周囲の見方が変わるのは当然だ」

「ふうん」

 あの男、そんなに強い奴だったのか。信長は出された赤ワインを飲みつつ、面白くなかったなとつまらなく感じた。

 現在、現魔王のベリアルと食事中だった。椅子とテーブルでナイフとフォークによる食事というのは、さすがの信長も初体験のことだったが、箸で食べるより楽でいいなと、これにもすぐに馴染んでいた。

「それで、これからのことだが」

 つまらなさそうな顔をしている信長に、城内以外に敵は多くいるぞとベリアルは唆した。

「たしか天下取りをしたいんだったな。ここは、ええっと」

「魔界だ。この世界には他に人間や魔物が暮らす中間世界があり、さらに天界が存在している」

 サリエルは魔界が地下にあり、天に向けて世界がグラデーションのように変化していくのだと説明する。

「ぐらでーしょん? それってつまり、明確に分かれていないって意味か?」

 まだまだこっちのことは何も解らないに等しく、言葉も難しく感じる信長は、これで合っているかと確認する。

「それで合っている。魔界と中間世界の間は特に治安も悪く、悪魔と人間、その他の魔物が対立し、戦を繰り返している地域だ。無法地帯と言っていい。逆に中間世界と天界の間は試練の世界と呼ばれ、天界に入るために様々な試練が降りかかると言われている」

 サリエルはざっくりとこんな感じだと説明する。それに信長は頷くと

「しかし、そんなに広い世界なのに、お前はこの魔界という地域で手こずっているんだな」

 と訊いた。

 その言い方にはやや不満があるが、サリエルはそうだと頷く。

「魔界は今、私を含めて十三の王が分割して統治している。しかし、真の王、サタンを倒してその座を奪いたいと、戦が繰り返されている」

「真の王? 日本でいうところの帝みたいなもんか。そいつは十三の王に加えられていないんだろ?」

「いや。入っている。だが、最も広大な土地と権力を持っているのがサタン王だ」

「ふうむ」

 文化が違うんだな。信長は出てきた鴨肉を食べながら、料理も味付けがまったく違うなと顔を顰めてしまう。

 だが、味がはっきりしているので好みだ。京料理のような薄味だったら我慢できないが、胡椒が利いているようで美味い。

「これ、美味いな」

 だから思わず、食べた料理を褒めていた。するとベリアルは嬉しそうに笑う。

「口に合うようで良かったよ。食は戦の基本だからな」

「確かにね。で、十三人いるっていう王様の一番になればいいのか?」

 信長は残りの鴨肉を食べつつ、どう進めていくんだと訊く。

 せっかくこの世界の王子とやらになったのだ。今度こそ天下統一をし、総てをひれ伏してやると意気込んでいる。

「そうだ。まずは領土を接しているアスタロト王との戦いとなる。だが、アスタロトは戦略に長けた王で、ここ数年ずっと戦っているが攻略できないままだ。しかもその戦の最中に」

 息子のカフシエルが死んだのだとサリエルは悔しそうに唇を噛む。それに信長はふうんと顎を擦ると

「戦略に長けるねえ。毛利みたいなもんかな」

 と、中国地方を治め死ぬ直前まで戦っていた毛利家を思い出していたのだった。

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