第4話 信長の実力
鏡に映った姿は今までとはまったく異なるもので、信長は興味津々に覗き込んでしまう。
優男の顔立ち、年齢は二十代だろうか。しかし、南蛮人は年齢がよく解らない。これで十代かもしれない。
背は高く、生前の背丈よりも随分と大きくなっている。
さらに背中には黒い翼、頭には牛のような角、お尻からは尻尾が出ていた。どうやらこれが悪魔の姿であるらしい。
「はあ、まったく違う姿だな。これをルイスに見せたら面白がっただろうか。それとも南蛮僧を呼んで大騒ぎしただろうか。まあ、利家は確実に腰を抜かしただろうな」
服を着替えながら、信長は面白いなあと感心しきりだ。
「ノブナガ様。ルイスやトシイエとはどなたですか?」
シャロンが信長の衣服を整えつつ、聞き慣れない名前について訊ねる。
「ああ。ルイスはお前らみたいな感じの男だ。いや、宣教師だからお前らの敵か。利家は俺の部下だよ」
信長は適当に答えつつ、タイがきついなと首元を緩めようとする。しかし、すぐにシャロンによって戻されてしまった。
「ノブナガ様はベリアル様の後を継ぎ、魔王になられる御方ですよ。身だしなみはきっちりなさってください」
「ちっ。口うるさい様子は光秀のようだな。って、あの男に殺されたんだ。くそ腹立つ」
信長は苦々しいという顔をしたが、おかげでこの世界にやって来れたのだから、むしろ感謝すべきか。感情の処理に困ってしまう。
そう言えば、あの後の日本はどうなってしまうのだろう。まさか光秀が天下を取るのか。いや、如才ない秀吉が掠め取るか。どっちにしろ腹が立つ話だ。
「ん?」
そんなことを考えていると、廊下の方からがやがやと煩い声が聞こえてきた。数人が怒鳴り合っているかのようだ。
「何だ?」
「少々お待ちを」
信長が動く前にサリエルが確認しようと動いた。しかし、ドアノブに手を伸す前に、何かに気づいて後ろに下がった。と同時に、ドアが吹き飛ばされる。
「きゃあああ」
ベレザが驚いて悲鳴を上げる。
「貴様か。カフシエル様の身体を乗っ取ったという奴は!」
しかし、そんな悲鳴を無視し、ドアを吹き飛ばした奴、大柄な男が信長を指差した。どうやら敵らしい。
「ガープ。貴様、王子に対して不敬であるぞ」
サリエルがその男、ガープに向って叫んだが、ガープは鼻で笑う。
「はん。貴様が術を失敗するのがそもそもの問題だろう。だが、もう一度死ねば、復活の呪法が可能なはずだ」
ガープはこの手で捻り殺してやると息巻く。
「なるほど、面白い」
命を狙われているのは慣れていると、信長はにやっと笑った。すると、ぶわっと炎が巻き上がる。
「なっ」
「ほう。俺は炎を操れるのか。では、試してやろう」
信長はガープを焼き殺せと、自分の周囲にある炎に命じた。すると、炎は真っ直ぐにガープへと飛んで行く。
「ぎゃあああ」
「ウンディーネ!」
炎に包まれて叫ぶガープに向けて、サリエルがすぐに水の精霊を召喚した。おかげで大惨事は避けられたが、ガープは大やけどを負っている。
「なっ、なっ」
カフシエルの身体に宿ってまだ一時間しか経っていないのに、炎を操っている。その事実にガープは目を白黒させていた。
「ほう。色々と使えるんだな」
一方、信長はこの世界の戦い方に興味津々だ。
「この男ならば、ルシファー軍にも勝てるかもしれないな」
そんな二人を見比べて、恐ろしい男を捕まえてしまったものだと、サリエルはぐっと拳を握り締めていた。
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