第3話 文化が違うからなあ

 ベリアルが信長を受け入れることを決めたため、一先ず信長をカフシエルとして扱うことが決まった。

 とはいえ、これに多くの者は納得していない。それを信長は肌で感じ取っていた。ともかく部屋にと案内される中、廊下ですれ違う悪魔たちの苦々しい顔やびびっている顔を見えると、思わず笑ってしまう。

「面白い」

「よく笑っていられますね」

 術に失敗し、信長の教育係に任命されてしまったサリエルは、案内のために先に歩きながらも、この状況を楽しんでいる様子に呆れてしまう。

「慣れているからな。俺は生まれてこの方、こういう空気の中にいた。戦が続いている世の中じゃあ当たり前だぞ」

 そんなサリエルに、悪魔なのに何を言ってるんだと信長は一層笑ってしまう。

 確か、悪魔とは好き勝手に生きている連中ではなかったか。日本で言うところの地獄に相当する場所で、そこで気ままにやっているのではなかったか。

「人間の認識は極端ですね。まあ、この世界にいる人間も多くはそう思っていますが、気ままにやっているだけで国が成り立たないことは、向こうで王だったあなたならばお解りでは?」

 サリエルは支配者として考えれば解るだろと冷たく返す。

「ふん。王ではないが、確かに人を支配し、土地を支配するには好き勝手にやっているだけでは駄目だな」

 信長が少しだけ悪魔の認識を改めたところで部屋に到着した。ここはカフシエルの使っていた部屋だという。

「部屋にあるものは好きに使ってもらって構いません。あなたはカフシエル様の肉体に宿っているんですからね」

「ふうん。この身体はカフシエルって奴のものってことか。復活に失敗したそのカフシエルはどこに言ったんだ?」

「あなたの代わりに冥界へ旅立った、ということになるでしょうね。再び復活するには相当な時間を要することになります」

「へえ」

 部屋の中は豪華なものだった。家具のどれもが最高級品だと解るものだ。しかし、総てが西洋のものなので、信長が知らないものも多い。テーブルと椅子は解るが、何とも落ち着かない場所だ。

 信長は一先ず部屋の中を歩き、気になったドアを開けてみる。すると奥は寝室になっていて、大きなベッドがあった。部屋は一つではなく、いくつかが連なっているのだと知る。

「まずはお召し替えを。今の服装は棺桶に入っていた時のままですからね」

 興味津々に歩き回る信長に着替えを促しつつ、サリエルは部屋にあった呼び鈴を鳴らした。

「それは」

「召使いを呼ぶためのものです。ノブナガ様も何か用があればこれで呼んでください」

「便利だな」

 信長は呼び鈴をしげしげと見つめてしまう。壁にボタンが埋め込まれているだけなのだが、これで召使いに来いという指図が出せるらしい。

「お呼びでございますか」

 そうしていると、男女一人ずつが部屋に現われた。どちらも若々しく、それでいて綺麗な顔立ちだ。思えばこのサリエルも作り物のような顔だな、と信長は三人の顔をしげしげと見つめてしまう。

「男がシャロン、女がベレザといいます。ノブナガ様の専属になりますので、身の回りで困ったことがあれば、彼らが対応します」

 サリエルは何でじろじろと自分も見られているんだろうと思いつつ、二人を紹介した。シャロンとベレザは静かに頭を下げる。

 シャロンは燕尾服、ベレザはメイド服姿だ。が、信長は初めて見るファッションである。

「そういう服に着替えるのか?」

 だから信長はそう訊ねたが

「彼らの服は召使いの制服です。ベレザ、平服をお持ちして」

 あっさり否定され、サリエルが代わりに指示を出す。

 それに、色々と困りそうだなと信長は顎を擦った。文化が総て南蛮人と同じなのだ。ルイス=フロイスから色々と聞いていても、実際に手に取ったことがあるものは少ない。

「こちらです」

「ああ、これはシャツとズボンだな。知っている」

 信長が着たこともあるというと、ベレザはほっとした顔をした。着たこともないと言われたら困っただろう。

「鏡はこちらです」

「ああ」

 ここでようやく信長は自分の今の顔を見て、あのベリアルと同じく優男なんだなと、そんな感想を持つのだった。

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