第2話 魔王の息子になった
死にかけていたというのに不思議なことだと、信長は思った。どうして生きているのだろう。
そして次に、ここはどこだという疑問に辿り着く。
目の前で尻餅をついているのは、どう見ても南蛮人だった。しかも羽と尻尾、さらに角まで生えている。
「南蛮人の鬼か?」
名を問われたので名乗ったが、ひょっとして拙かっただろうか。
信長は首を傾げ、自分の頭を触って何かがおかしいと気づく。
そう、自分の頭にも目の前の男と同じような角があった。
なんじゃこりゃ。ひょっとしてここは地獄か。そして自分は地獄に堕ちて鬼になったのだろうか。
いやいや、だったら鬼が南蛮人っておかしいよな。
信長は訳が解らずに困惑してしまう。
「貴様、カフシエル王子の身体から去ね!」
と、そこで吹っ飛ばされていた魔術師の一人が復活し、信長に向けて叫ぶ。
かふしえる王子。なんじゃそりゃ。
信長は訳が解らないものの、何だかムカついたのでそちらを睨む。ついでに
「うるせえ!」
と一喝してみたら、炎が生まれて魔術師目がけて飛んでいった。
「ぎゃああ」
魔術師は炎を避けきれず、炎に襲われてのたうち回っている。
「こ、これは」
そこでようやく、とんでもない事態に陥ったことを認めたベリアルが復活した。そして立ち上がると、信長に近づく。しかし、相手の間合いに入ることはなかった。
「あんたは、雑魚じゃなさそうだな」
その様子で信長も目の前にいた男がそれなりのものだと認めた。そしてじいっとそいつを見つめる。
顔は優男そのものだ。綺麗な顔立ちをしている。そして奇妙な角。獣のような角が頭に生えている。しかし、纏う気配は優男に似合わないものだった。轟々と燃え盛る炎を前にしているかのような、桁違いの威圧感を持っている。
「我が名はベリアル。魔界の西方を治める王である」
そのベリアルはようやく信長に向けて名乗った。すると、信長の目が鋭くなる。
「魔界の王」
信長は口に出して言うと、なるほどと頷く。どうやら自分は異界に紛れ込んでしまったようだ。それは理解した。
そんな信長の落ち着いた態度にほっとしたベリアルは、こうなった経緯を話すことにする。
「我らは天界との戦いで封印された息子を復活させようとしていた。それには人間の強い魂が必要で、それに反応したのが其方だった。地獄へと向おうとする其方の魂を贄に、息子のカフシエルの復活を目論んだのだ。しかし」
「俺が勝っちまったってことか、そのカフシエルに」
信長は面白いなと、からかうような口調で返した。しかし、ベリアルの目は真剣そのものだ。それに、信長は続けろと顎をしゃくる。
「本来ならば悪魔に人間が勝つなどあり得ない。しかし、其方が人間として行った所業が悪魔にも等しいものだったのだろう。勝つことが可能だった。そう、私は考えている」
「ふふっ、まあな」
この手で殺した人間の数を考えれば、南蛮人どもが信仰する神の対立にある悪魔の所業と言われても、当然だろうと思うまでだ。
一方、あっさり認められてベリアルは困った魂を使おうとしたものだと溜め息を吐く。ただ単に怨嗟にまみれているだけではない。その魂はあらゆる悪事に染まっていたということらしい。
しかし、これは使えるとベリアルはすぐに判断していた。
何よりこの男の目が戦いになれている。今、天界と戦争状態になっている自分たちにとって、息子を復活させるのと同等の力を発揮するのではないだろうか。
「息子の肉体に其方が宿ったのも、何か意味があるのだろう。ノブナガと言ったな。我が息子として、これから他の魔王を相手に戦ってくれないか」
だから、ベリアルはそう誘う。それに対して信長はにやりと笑うと
「天下取りか。まさか地獄で続けられるとはな」
断る理由はないと、受けて立つのだった。
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