異世界信長公記~次期魔王に転生したので、異世界で天下統一を目指す!~
渋川宙
第1話 本能寺の夜の変
この日、
「ここで、終わるのか。俺の夢は」
意外な場所で終わってしまうものだなあ。天下統一までもう少しだったというのに。
なんと口惜しいことか。
薄れゆく意識の中、信長がそんなことを考えていた同じ時、別の世界であることが行われていた。
「強い魂が堕ちようとしています。これを利用すれば、王子様を復活することが可能です」
強い反応を受けて、ずっと強い怨嗟を含む魂を探していたサリエルが、急いで玉座にいる魔王に告げる。
「よく見つけた。すぐに準備せよ。ああ、これでようやく、我らの天下も安心して目指せようというもの」
「はっ。すぐに大広間にて始めます」
その報を待ち望んでいた魔王・ベリアルは、大きく頷いてほっと溜め息を吐いた。
天界との戦争中に死んだ我が息子。その復活は彼にとって悲願だった。ここ数年、自らが軍を率いて戦いながらも、考えることは息子のことばかりだった。
それが今日、ようやく終わる。
魔族はたとえ死んだとしても復活することが可能だが、それには様々な制約がある。その一つが、強い怨嗟を含む人間の魂を贄とすることだ。これがなかなか見つからず、非情にもどかしかった。
ベリアルが大広間に向うと、復活の準備が急ピッチで進んでいた。魔法陣が描かれ、中心には息子の骸を納めた棺桶が置かれている。
「さあ、戻って来い、我が息子よ」
ベリアルの言葉を合図に、復活の魔術が開始される。
「さあ、戻って来い、我が息子よ」
その言葉が信長の耳に届く。
「戻って来い。はん、ふざけんな」
薄れゆく意識の中、信長は明確に反発した。
これは俺の人生で、俺の歩んできた結果だ。
たとえ謀反を起こされようと、負けて戻るなんてあり得ない。
信長は自分の父親の顔を思い出し、そう悪態を吐く。
「俺は俺だ。俺は貴様に勝った! 少なくとも、
そしてかっと目を見開くと、小さい頃から抱き続けた不満も相俟って、そう叫ぶ。それから大笑いしていた。
「ははっ、ここで死のうとも、俺は誰にもなせなかった場所までやって来たのだ!」
魔王になると誓って。
「我は第六天魔王だ!」
その言葉が、異世界で思わぬ化学変化をもたらすことになる。
「た、魂から強い波動を感知」
「術が不安定になっています」
「堪えろ。王子様のため、押さえ込むのだ」
復活の魔術に奇妙に干渉する何か。
それが、贄にしようとしている魂だと気づくも、術を止めることは出来ない。
待ち望んだ強い、そして負の感情を溜め込んだ魂。恨みにまみれた魂。怨嗟を纏う魂だ。これを逃すことは出来ない。
「うわああっ」
どんっという大きな音がして、術を行使していた悪魔たちが吹き飛ばされる。サリエルは消されることはなかったが、それでも、壁際まで吹き飛ばされた。
「な、何事だ」
魔王・ベリアルは予想外の事態に狼狽えてしまう。しかし、息子の復活を賭けた術の結果だ。もうもうと立ち込める煙から目を離すことは出来ない。
「あっ、ここはどこだ? 本能寺、じゃねえよな。熱くないし、痛くねえ」
聞こえてきたのは、息子とは思えない言葉。しかし、声は息子のものだ。
「い、一体」
「なんだ、こりゃ。あれ、なんだ、これ」
戸惑う声とともに現われたのは、息子の姿そのものだった。しかし、目つきが明らかに違う。
その目は幾重もの戦を切り抜けてきた、武将の目。
「お、お前は」
「俺は織田信長。てめえは・・・・・・
こうして、復活の術は信長の魂が打ち勝ち、信長が魔王の息子の肉体に宿って復活することになるのだった。
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