異世界信長公記~次期魔王に転生したので、異世界で天下統一を目指す!~

渋川宙

第1話 本能寺の夜の変

 天正てんしょう10(1582)年6月2日――

 この日、織田信長おだのぶながの命が炎の中に消えようとしていた。

「ここで、終わるのか。俺の夢は」

 意外な場所で終わってしまうものだなあ。天下統一までもう少しだったというのに。

 なんと口惜しいことか。

 薄れゆく意識の中、信長がそんなことを考えていた同じ時、別の世界であることが行われていた。


「強い魂が堕ちようとしています。これを利用すれば、王子様を復活することが可能です」

 強い反応を受けて、ずっと強い怨嗟を含む魂を探していたサリエルが、急いで玉座にいる魔王に告げる。

「よく見つけた。すぐに準備せよ。ああ、これでようやく、我らの天下も安心して目指せようというもの」

「はっ。すぐに大広間にて始めます」

 その報を待ち望んでいた魔王・ベリアルは、大きく頷いてほっと溜め息を吐いた。

 天界との戦争中に死んだ我が息子。その復活は彼にとって悲願だった。ここ数年、自らが軍を率いて戦いながらも、考えることは息子のことばかりだった。

 それが今日、ようやく終わる。

 魔族はたとえ死んだとしても復活することが可能だが、それには様々な制約がある。その一つが、強い怨嗟を含む人間の魂を贄とすることだ。これがなかなか見つからず、非情にもどかしかった。

 ベリアルが大広間に向うと、復活の準備が急ピッチで進んでいた。魔法陣が描かれ、中心には息子の骸を納めた棺桶が置かれている。

「さあ、戻って来い、我が息子よ」

 ベリアルの言葉を合図に、復活の魔術が開始される。


「さあ、戻って来い、我が息子よ」

 その言葉が信長の耳に届く。

「戻って来い。はん、ふざけんな」

 薄れゆく意識の中、信長は明確に反発した。

 これは俺の人生で、俺の歩んできた結果だ。

 たとえ謀反を起こされようと、負けて戻るなんてあり得ない。

 信長は自分の父親の顔を思い出し、そう悪態を吐く。

「俺は俺だ。俺は貴様に勝った! 少なくとも、尾張おわりの田舎で終わった貴様にはな!!」

 そしてかっと目を見開くと、小さい頃から抱き続けた不満も相俟って、そう叫ぶ。それから大笑いしていた。

「ははっ、ここで死のうとも、俺は誰にもなせなかった場所までやって来たのだ!」

 魔王になると誓って。

「我は第六天魔王だ!」


 その言葉が、異世界で思わぬ化学変化をもたらすことになる。


「た、魂から強い波動を感知」

「術が不安定になっています」

「堪えろ。王子様のため、押さえ込むのだ」

 復活の魔術に奇妙に干渉する何か。

 それが、贄にしようとしている魂だと気づくも、術を止めることは出来ない。

 待ち望んだ強い、そして負の感情を溜め込んだ魂。恨みにまみれた魂。怨嗟を纏う魂だ。これを逃すことは出来ない。

「うわああっ」

 どんっという大きな音がして、術を行使していた悪魔たちが吹き飛ばされる。サリエルは消されることはなかったが、それでも、壁際まで吹き飛ばされた。

「な、何事だ」

 魔王・ベリアルは予想外の事態に狼狽えてしまう。しかし、息子の復活を賭けた術の結果だ。もうもうと立ち込める煙から目を離すことは出来ない。

「あっ、ここはどこだ? 本能寺、じゃねえよな。熱くないし、痛くねえ」

 聞こえてきたのは、息子とは思えない言葉。しかし、声は息子のものだ。

「い、一体」

「なんだ、こりゃ。あれ、なんだ、これ」

 戸惑う声とともに現われたのは、息子の姿そのものだった。しかし、目つきが明らかに違う。

 その目は幾重もの戦を切り抜けてきた、武将の目。

「お、お前は」

「俺は織田信長。てめえは・・・・・・南蛮人なんばんじんか? って、何がどうなってるんだ?」

 こうして、復活の術は信長の魂が打ち勝ち、信長が魔王の息子の肉体に宿って復活することになるのだった。

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