第15話 マックレイカーズ

「ねえ、コーラー」

 オブライエンは、自ら設計したラボにいた。


「お待たせ、ジェニー」

 コーラーは、ふじ・王林・世界一を掛け合わせた、りんごの”さしゃ”を皿に盛った。


「あら、気が利くのね」

 伝説の剣を象ったピックで、オブライエンはさしゃをかじった。リンゴが赤くなると、医者は青森をうとむ。


 ジェニーの研究風景は、周囲の思惑とはずいぶん様相を異にする。意図的にネット環境を遮断しないと、広大な世界が矮小化されてしまう。


「ジェニーの考えていることは、なんとなく分かるよ」

 リンゴのことではない。世界を駆け巡っている一連のニュースについて、ジェニーが無関心でいるはずがなかった。




「私はね、政治的イデオロギーを持ち合わせていないつもりなんだけど、オネーギンのことを思うと、ね」

 フォローレンスを脱獄したオネーギンだが、まだジェニーは再会できていない。


「P国があんな事になってはね」

 コーラーは腕を組み、人差し指で2回叩いた。


「フェイクニュースという言葉が盛んに聞かれるけれど、市井しせいの人があらゆるメディアをチェックしようとも、ザイオンの息の掛かっていないところは、もはやどこにも存在しないわ。無論、ネット上もね」

 真実情報を発信したところで、たちまち反対勢力にかき消される。


「でもね、ジェニー。ここに来て世界情勢がとたんに動き出した気がするんだけど、やはりあの少年のせいなのかい?」

 コーラーは腕組をほどいた。


「コーラー。信じてもらえないかもしれないけど、映画や小説と違って、そうしたフィクサーはごくごく普通の人達なのよ。彼を厄介者扱いするだけなら、とっくに消してるはずだわ」

 地球を機能させるには、矛盾したものを同時に存在させなければならない。


「ヘブル文書には、この結末が書かれているんだよね?」

 どこにも所属しないコーラーだが、不埒者の流れ弾で死んでしまうのはまっぴら御免だと思っている。


「ええ。ただ人類は、エデンからは、まだ出られないわ」

 さしゃが、燃えるような赤光しゃっこうを放っていた。



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