第14話 沼気に勝機

「非常事態の時ってエネルギーの確保が肝要だけど、日本は自給率も低いし心配だわ」

 我が国のエネルギー自給率は、11.8%しかない。


「食糧自給率もね」

 こちらは、カロリーベースで37%である。


「有事が起こったら、首根っこを掴まれてるのも同然だな」

 飢えの苦しみは、筆舌に尽くしがたい。


「有事というものは、平時において、“そんなこと絶対に起こらない”と高をくくってしまうものなのです」

 有事を経験した世代が存命のうちはそうでも無いのだが、未経験世代が社会の中心を占めてくると、歴史を振り返ることを忘れてしまう。


「日本は海に囲まれてるってのガ、それ自体、要塞みたいなものだよネ」

 大陸諸国は、歴史の変遷が目まぐるしい。



「話を自給率に戻すとさ、世界中の人が肉を食べるようになって、温暖化が懸念されてるんだよね。だからと言って、肉食を人類がやめれるかっていうと、これも難しい」

 メシヤのポリシーは、“肉はヘルシー”である。


「メタンガスよね。牛のげっぷや排泄物が原因って言われてるけど、その数値が想像以上なのよね」

 メタンガスによる温室効果は、二酸化炭素の25倍である。


「メタンと言ったら、都市ガスの主成分だよな。宇宙ロケットにも使われてるんだがなあ」

 メタン(CH₄)は、もっとも分子量の小さい炭化水素であり、和名は沼気しょうきという。


「そうそう。牛のメタンを抑制する飼料添加物なんて話が出てるけど、それよりもメタンを有効活用できればいいよね」

 牛の糞尿を堆肥にする取り組みは、バイオマスとしてすでに行われている。古くて新しい技術なのだ。


「田舎の方に行くト、ただで牛糞をくれるって看板を見掛けるネ!」

 軽トラックがあれば、わざわざ肥料を買う必要も無い。


「牛のげっぷ・排泄物から、バイオガスと液肥ですわね。環境問題の悩みの種となっていたものが、そうした転用で一気に解決出来そうですわ」

 問題は、いかにしてそのサイクルを作るか、である。


「う~ん、オブライエンさんの出番かな?」

 世話役のコーラーではないが、もはや何でも屋である。


「綺麗は汚い。汚いは綺麗ね」

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