第16話 あの橋を、渡るとき

「何かが変わる気がするんだよね」

 メシヤは伊勢大橋の鉄の弧を渡っている。


「昔は橋を渡るのが命がけだったって言うわよね」

 助手席に座るマリア。


「橋の前にお地蔵さんが立ってたりするのも、そういうことなんだろうな」

 王様は像を造りたがるが、王子像はあまり見掛けない。


「橋を渡ると異世界に通じている、なんてお伽噺もあるようですわ」

 愛知から三重県境を越えると、伊勢界に突入する。


「日本には世界最長の吊り橋もあるネ!」

 エリにとって、立ちブリッジと逆立ちブリッジは、お手の物である。


「そうそう、橋ってそういう曰くが多いよね」

 走って渡るのは危ないのでやめておこう。


「またなんかくだらないこと考えてるんじゃ無いの?」

 メシヤの扱いは慣れっこのマリア。




「ランガートラスとかボルチモアトラスとか色々橋の種類ってあるけどさ。こう、トラス構造の一本一本を塗り分けしたいんだよね」

 レインボーブリッジはライトアップこそすれ、塗装そのものが虹色というわけでは無かった。


「バトゥ洞窟の階段がカラフルに色分けされて、人気の観光スポットになりましたわ!」

 レマの目が、オパールのように輝いた。


「橋を渡るのが楽しくなりそウ!」

 エリも賛成のようである。


「ワーレントラスくらいなら簡単そうだけど、ペンシルヴァニアトラスとかキャメルバックトラスとか、気が遠くなりそうだわ」

 こうした意見も貴重だ。


「費用云々よりも、誰もやろうとしなかったってのが実情かもな。結構考えるのを面倒くさがる業界人は多いんだ」

 他業種の人間のアイデアから、物事が進展するケースもある。


「面白そうでしょ? 車も選べるカラーが増えたけど、基本的、一台に対して一色だけだよね。塗り分け文化が浸透してきたら、楽しいと思うよ」

 車の塗り分けは、ツルンとした車よりも、デコボコした車の方が、映える。


「車のボディをわたしの髪色にして、ホイールをゴールドにしたいですわ!」

 カラーシミュレーションが出来ると、客も決断しやすい。


「トラスを本数分すべて色を変えるのは難題だが、三色くらいでパターンをまとめるなら現実的だし目を引きそうだ」

 これも良い案だろう。


「そう考えると、道路はなぜそもそも黒しかないのかって話になっちゃいそうね」

 カラーアスファルトは、まだまだ高価である。


「オレンジロードはホントにオレンジ色にすればいいんだと思うよ」

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