辺境の村
がたんっ、と大きく車体が揺れる。
ケリュネイアの身体は一瞬小さく浮かび上がって、そして硬質な木床に臀部を打ち付ける。その衝撃で彼女は目を覚ました。
「お嬢さん、大丈夫かい」
と、何処からか声が聞こえてくる。
まだ半分ほど微睡みの中にいたケリュネイアだったけれど、からから、がらがら、パカパカと響く車輪の音や地面が削れる音、そして馬の蹄の音などを聴いている内に段々と頭上を覆う靄のようなものが取り払われていく。昔の夢を見ていたようだった。彼女は何故か痛む臀部を摩りながら、ゆっくりと瞼を開く。閉じる。また開く。周囲を見渡すと、そこには薄暗い屋内の景色があった。
ケリュネイアは馬車の荷台に乗っていた。
薄暗いのは荷台に帆が張ってあるからである。そして兎に角狭い空間だった。ケリュネイアの隣には大きな木箱が幾つもある。この馬車の持ち主である男が、次の街の市場で売りさばく為の商品が入っている。
ケリュネイアの知る由もないが、この馬車の持ち主である男は毛織物や絹織物、亜麻布や染色料材料などを売る遍歴商人である為、同乗しているのはもちろんそれに類する物ばかりである。
がたんっ、とまた大きく車体が揺れる。
「お嬢さん、大丈夫かい」
木箱の山の先から声が聞こえてくる。
「うん」
ケリュネイアは短く答えた。
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