なりきる職業、なりきり師。

第166話 なりきり師、閃く。

　ヤバイよね？どう考えてもヤバイよね？手を離したらバレちゃうし、離さなかったら人間焼き肉だよ？

　なんでこの貴族おれが転生人かどうかなんて聞いてんの？どうやってそこに行き着いたの？

　ヤバイヤバイヤバイヤバイ……考えろ！この状況打破の方法を考えろ…

「何を言っておるんじゃシーマ？」

「すみませんがギルマスは少し黙っていてください。どうした？答えられないのか？」

「………」

　答えらんねぇよ！答えたらバレちゃうじゃねぇか！貴族に転生人ってバレたら……あっ！

「もう一度聞こう。冒険者ユウキ、君は転生人なのか？」

「シーマよいい加減にせんか！そんな事を聞いても…」

「いいえ。」

　おれは真実の追求具を手に乗せたままいいえと答えた。結果は何も起こらない。一か八かだったけどどうやら上手くいったらしい。

「すいません。転生人がなんなのかわからなくて、なかなか答えられませんでした…。

だって、もしそうだったらこの道具でなんかなっちゃうんですよね？ふぁ〜よかった！何も起きなくて……」

「そんなはずは無い！これだけの状況証拠が揃っていて私を騙せると思っているのか！」

「騙すってなんですか？おれがその転生人じゃないってのはこの道具が絶対的に証明したんじゃないんですか？

それこそ状況証拠なんて曖昧な証拠じゃなくてね…。」

「それは…」

「ギルマス？これって嘘付いてたら何が起きるんですか？」

「え、あっ…その道具が瞬時に熱を発しとても持っておれん。」

「そう言う道具だったんですか？危ないなぁ…怪我する可能性があるなら先に教えておいてくださいよシーマ伯爵…。」

「くっ…」

「もしかしてまだ疑ってます？それならこれ触ります？故障を心配するなら嘘を付く質問をして貰ってもいいですよ。

でもその時はすぐ離しても許してくださいね？冒険者なので剣が握れなくなると困りますので…。」

　フハハハハ！これからはこっちのターンだ！おれの頭の回転の速さを甘く見たなシーマ伯爵。

　おれが手を差し出すとシーマ伯爵は真実の追求具にチョンと触れた。熱くないって言ってんのにな…

「……で、では質問だ。君は冒険者か？」

「いいえ。って熱っつ！何これ！？こんなに熱いの？掌四角く火傷してるんですけど！

すぐ離せば大丈夫なんじゃないんですか？」

　嘘じゃなくてマジで熱かったんだけど…拷問器具じゃん！おれ結構防御力ある方なんだけど？これ我慢とかの次元じゃないよ！

「それはそう言う代物じゃよ。じゃからこそ我慢もできんし、その魔道具の前では嘘が付けんのじゃよ。」

　えっ？この貴族確かあの時喜んだよね？ギルマスが質問してこうなるかもって思って喜んだんだよね？………おまわりさーん！！！

「ふぅふぅ…でもだったらこれで証明はできましたよね？」

「まだだ！まだ冒険者ホークの証明はできていない！」

「ホークまで疑うんですか？いい加減にしてくださいよ！その転生人がなんなのかも結局教えてくれないし…

おれたちは盗賊を倒しに来たんだって言ってるでしょ！」

「いいよユウキ。おれが受けて違うってわかるならその方が早いよ。」

　ナイスホーク！おれの転生人を知らない体の意図を理解してくれたんだね。

「でももしそうならこんな風に火傷しちゃうぞ？いいのか？」

「う〜ん…良くはないけどいいよ！実際にやったらシーマ伯爵も納得してくれるはずだよ。

さっきも言った通りおれたちはシーマ伯爵と喧嘩をしに来たんじゃないんだから。

これを掌に乗せればいいんだよね？…準備完了！いつでもいいよ！」

「では。冒険者ホーク、君は転生人だな？」

「いいえ！」

　もちろんホークは転生人じゃないので何も起こらない。

「これでおれたちがその転生人じゃ無いって証明できましたよね？」

「……そのようだな。疑ってしまい申し訳無かった。深く反省しよう。」

「その言葉、口先だけにしないでくださいね……。って事で仲直りですね！

ところでギルマス？転生人って何なんですか？いい加減に教えてくれてもいいですよね？おれたちは違うってわかったんですから。」

「う、うむ。転生人とは違う世界から来た特別な力を持った異世界人の事じゃ。

戦闘職、非戦闘職に関わらずあらゆる分野で特化した能力を持っているとされる者の事を転生人と言うんじゃ。」

「へぇ〜そうなんですね？何の能力も持ってない転生人はいないんですか？」

「いないとは言い切れんのぉ。じゃが儂が会った事のある転生人は皆優れた能力を持っておった。可能性は低いかもしれんのぉ。」

「それでちょっと奥義を多く覚えたおれを転生人と間違えたんですね？これは偶然覚えただけなのに…」

「シーマよ、もしユウキやホークが転生人じゃったらどうするつもりじゃったんじゃ？」

「我が家でちゃんと匿うつもりでした。野放しにされている転生人など争いの種にしかなりません！

下手をすれば国同士で転生人を巡って戦争になりかねません。例え転生人でなくても目立つ存在は多方面から狙われます。

と言う訳で君達さえよければ我が家の護衛にならないか？」

　う〜わ…何物騒な事言ってんの？シルバさん達が言ってた事マジじゃん……

　と言う訳でってどう言う訳だよ！結局は最初から護衛が欲しかっただけだろ！転生人を囲い込みたかっただけだろ！

　これはもっと具体的に説明しないとしつこそうだな…

「おれたちは冒険者なんで一箇所に留まるつもりなんてありませんよ。

おれたちは世界中にあるダンジョンを回りたいんです！色んな場所に行って、色んなモンスターと戦って、色んな世界を見たいんです。

だってその為に冒険者になったんだもんな！」

「うん！やっと夢が叶ったんだもん、まだまだ色んな所に行きたいよね。」

「どうやらフラレてしまったようじゃの。じゃが君ならこの子達の気持ちもわかるのではないか？」

「そうですね…。君達のその真っ直ぐな夢を追う心が羨ましいよ。大人になると諦める事に抗う事が少なくなっていってしまうんだ。

かつての私も冒険者を続けていれば……ってこんな事は若い子に話すような内容じゃないね。

ただ一つだけ聞かせてくれ。私が街で聞いた話は事実なのか教えてくれないか？」

　貴族にも色々あるのかな？重い話をしそうで警戒したけど思い止まってくれてよかった。

「……わかりました。能力の事はあまり話したくないけど誰にも話さないって約束してくれるなら…」

　こう言った時の為に積み重ねた偽情報を話します。

「約束しよう。」

「それではまず回復の方から…。見ててください。」

　おれはさっき火傷した右手を差し出した。

「奥義・エボリューションヒール」

　右手の火傷が回復していく。さっきまであった四角い火傷が綺麗に無くなった。

「なっ！？」

「これは段階に分けてブーストをかけて回復力を強めていく奥義です。街で使ったのはこれの最上級エボリューションエリアヒーリングです。

ただこの奥義は反動が激しくて使っているとおれ自身が疲労で倒れてしまうんです。実際に今回も教会で倒れてしまってホーク達に迷惑をかけてしまいました。

だから滅多には使えない奥義なんですけど今回は緊急事態だったので少し無理をしたんですよね。」

　いやぁ人間倒れておくもんだね。実際は神の世界に連れて行かれただけだけど、普通の人は知りようが無いから疲労で倒れたってのも理由さえ肉付けすれば事実になっちゃうんだよね。

「無詠唱でヒールを…いや、奥義だから魔法とは違うのか…ただそれだけにリスクを考えれば……」

「続けていいですか？」

「あぁ済まない。続けてくれ。」

「次に盗賊を見付けたのはさっきも言った通り鼻が利くんです。

前にスライムを倒したら本がドロップしたんですけど、でもそれがスキルの書だって事をその時は知らなかったんで開いて使っちゃったんです。

その時に手に入ったのが盗賊臭と言うスキルでした。効果はその名の通り盗賊の匂いがわかるんです。近付けば近付く程に物凄く臭くなるので透明になっていようと近くにいれば場所がわかっちゃうんです。これが盗賊を見付けられた理由です。」

　ウン口臭持ちの盗賊に会っててよかった。マップ内検索は話すなって言われたから盗賊臭なんてありもしないスキルを作ったけど、あのウン口臭が無かったら多分思い付かなかっただろうな…。

「それで先程ストラで確認したと言っていたのか…そしてストラから盗賊の匂いがしたと……」

「そうですね。あの女はとても気持ち悪かったです。

で、最後に神様ですけど、あれはおれも驚きました。場所が教会だったり、たくさんの人達がお祈りしたから姿を現してくれたのかもしれませんね。

夢だと思ってたのに現実に起こったので凄く驚きました。

これがシーマ伯爵が聞いた噂の真相です。全部が良い方に肥大して広まってしまったようですが本当は『たまたま手に入った奥義とスキルを無理して使って、ボロボロになりながらギリギリ上手くいった』ってだけの話なんですよ。

話に聞いた転生人が持ってるって言う特化した能力なんておれは持って無いんです。納得して貰えましたか？」

「……わかった。話してくれてありがとう。悪かったね能力の事を聞いたりして。」

「……いえ。」

「それより君達はドットス達を駆除すると言う事だが何か方法はあるのか？仮にも元Ａランク冒険者で今は私の護衛だぞ？実力は間違いないぞ。」

「そうですね。普通に戦いますよ。おれたち戦っても結構強いんで。」

「この子達の実力は確かじゃ。そうでなければ儂がここに連れてはこんよ。儂も戦うから心配せんでいい。」

「確かにそれは言えてますね。では私が奴等を庭に呼び出しましょう。それでいいか？」

「はい。お願いします。」

「わかった。では後程庭で…。」

　そう言ってシーマ伯爵が部屋から出ていった。

「あ〜緊張した！誤魔化せてよかったね！」

「いや、あれは十中八九バレてるよ。途中まで良かったと思ったんだけどな…何処でミスったんだろ……」

「えっ、そうなの？」

「この世界では貴族に逆らう平民などおらんからのぉ。シーマが本気で命令すればギルドマスターの儂ですら従わねばならん。

それを突っぱね、それどころか脅しにかかった時点であの子は確信したんじゃろうな。」

「あの時かぁ…。だからあんな質問してきたのか……」

「一つのミスで全てが台無しになる。それは今回の事に限った話ではない。戦いなら命を落とすし他の貴族や王族ならこうやって見逃しては貰えんかったじゃろうな。」

「でもなんで見逃して貰えたんでしょう？最初は囲う気満々でしたよね？」

「一つは君の言った通り決定的な証拠が出せなかったからのぉ。そして恐らく自分が冒険者を辞めさせられた時の事を思い出したのじゃろう。

彼も冒険者を続けたかったのじゃが、家はこの通り伯爵家じゃ。貴族の決まりで家を継がなければならず冒険者は諦めるしかなかったのじゃ。」

「あの時の重そうな話ってそれか。でもそのおかげで折れてくれたんですね。」

「儂も聞いていいかの？」

「なんですか？」

「あの時真実の追求具をどうやって無効化したのじゃ？あれは簡単に突破されてしまうと色々困るんじゃが……」

「あぁ、あれですか？あれは防温結界を使ったんですよ。」

「防温結界じゃと？」

「はい。結界師のスキルです。ギルマスが喋ってる時にいつもと効果が逆の中に熱を閉じ込める結界を作って、その道具の形にピッタリ合うサイズの結界を貼り付けたんです。

その道具の効果を最初から知っていたのと見た目が変わらない道具でよかったですよ。色が変わったりする道具だったらアウトでした。」

「なるほどのぉ。それは君以外はできん芸当じゃな。しかしよくもまぁそんな事をあの瞬時に思い付くのぉ。」

「貴族にバレたら囲われるってメルメルのギルマス達に何回も言われてたんです。

その囲われるってキーワードと今結界師をやってるのが偶然重なって閃いたんです。

成功する可能性が低そうな一か八かの賭けで運が良かっただけですよ。」

「その強運も転生人故なのかのぉ…」

「おれたちがこの街から旅立ったらシーマ伯爵にも教えてあげてください。流石に目の前であんな事をされたら気になるでしょうからね。」

「せっかく隠せたのに言ってしもぉていいのか？」

「構いませんよ。ギルマスがシーマ伯爵から情報が漏れないようにしてくれればね。

それよりおれたちもそろそろ庭に行きましょう。あれだけシーマ伯爵に大口を叩いたんだから負けられないですよ。」

「それもそうじゃの。ホークは大丈夫かぇ？」

「うん！」

「よし！それじゃあ行こう！」

　おれたちも部屋を出て庭へと向かった。