第167話 なりきり師、対面する。

「あら、お帰りでございますか?」


 声をかけてきたのはさっきのメイドだ。部屋を出て庭へ向かったのだが、ここは貴族の家だ。誰にも見付からずに行けるなんて事は無かった。



「少し庭で訓練をする事になったんじゃよ。うるさくなるかもしれんが気にせんでくれとこの家の皆に伝えておいてくれるかの?」


「庭で…訓練で御座いますか?」


「そうじゃ。シーマ伯爵も了承してくれて今良質の雉を呼びに行ってくれてるんじゃ。

訓練と言っても本番を想定してやるからのぉ。危ないので近寄ってはならぬぞ。」


「しょ、承知致しました。他の者にもすぐに伝えて参ります。」


 メイドさんは最初は『何言ってんだコイツ?』的な感じだったけど、シーマ伯爵の了承だとの元だと聞くと表情を変えてギルマスの言葉を信じ、急いで行ってしまった。


 この世界の人達にとって貴族ってのはそれだけ絶対的に逆らえない存在なんだな…。

 ただちょっと信じやすくない?もしギルマスが伯爵を悪用したらあの人どうするんだろ……



「よろしく頼むのぉ〜!」


「いいんですか?立場のある人が嘘ついちゃって…信用無くしますよ?」


「儂は嘘は付いておらんよ。今から実戦形式の訓練をするんじゃよ。そして奴等はたまたま不幸に見舞われるだけじゃ。」


「う〜ん…ちょっと強引ですね…。それだとおれたち悪者になっちゃいますよ?

貴族の護衛を無闇に殺した冒険者にはなりたくないですね…。

それにあれを盗賊だってバラしたらシーマ伯爵の評判も下がっちゃいますよね?」


「じゃが、仕方なかろう?奴等は始末するんじゃ。儂らかシーマ、どちらかは確実に悪者になる他ないじゃろう。」


「それはちょっと御免被りますね。今後の冒険者生活にも関わりそうだし。ステータス見せろとか鑑定されても面倒ですからね。」


「じゃあシーマ伯爵が悪者になっちゃうの?」


「それもどうなんだろうな?一応ギルマスを慕ってるみたいだし、他に盗賊を雇ってない良い貴族みたいだから失墜させるのは街の損害だもんな…。」


「心配するでない。最初から責任は儂が取るつもりじゃ。」


「……人の命を奪う事に責任を取る方法なんてありませんよ…。」


「ユウキ…」


「この世界では盗賊を人間として扱ってないみたいですけど、盗賊だと公表しないのなら奴等は貴族の護衛、立派な一般人です。

そうなってしまえば責任なんて甘い話では終われません。今度は貴方の、おれたちの番になるだけです。」


「じゃが、それでは奴等を…」


「そうですね。討てませんね。今気付いたけどそこまで考えてここに雇われたなら敵ながらあっぱれですね。

あいつらを倒せるのは元Aランクの自分達より強くて、自分達を盗賊だって気付ける能力を持ってて、シーマ伯爵の失墜を気にしない奴だけみたいですね。

この街に住んでたら大半がどれかに引っかかるんじゃないですかね?いや〜参ったね。」


「強くても盗賊って気付けなかったり、盗賊って気付いても返り討ちで殺されちゃったり、シーマ伯爵がいい貴族だから問題になれば街の困る人が一杯いるって事?」


「すっげー完璧!おれよりホークの方が説明うまいな!」


「えへへ。でもそれじゃあどうするの?盗賊は倒さないの?」


「ん?殺るよ?最初から言ってるじゃんこの街の盗賊は全部狩るって。」


「えっ?でもダメなんじゃないの?」


「そうだな。ギルマスの下手なシナリオだと何をどうやったって誰かしらがバッドエンドまっしぐらだからそのままだと手が出せない。

でも選択肢が二つしかないなら、おれが新しい三択目を出してやるさ。

全員がハッピーエンドかつ盗賊退治も遂行できるシナリオをな…。」


「何か方法があるのかぇ?」


「あるわけないでしょ、今気付いたんだから。戦いながら考えるんですよ。」


「なんじゃ…期待させおって。自信満々に言っておったのに結局はノープランではないか。」


「ギルマス、きっとユウキなら大丈夫だよ!作戦とか考えるの得意だから任せておいてよ!」


「ハハッ、それホークが言っちゃうのか?でもまぁそう言う事です。任せておいて下さい。」


「うむ。そうじゃの。盗賊の為に誰も犠牲にならぬ方法が本当に思い付くならそれが一番じゃろう。

じゃが、さっきも言ったように儂がおる。思い付かなくても気にする必要はないからの。」


「ギルマスこそそんな心配は無用ですよ。何も心配せずに伸び伸び戦ってください。さぁそれじゃあご対面と行きますか。」


 話も一段落し、丁度入ってきた玄関の大扉にも着いたので2人に声をかけ庭へと出た。








 〜シーマ伯爵邸 庭〜



「遅かったではないか。迷ったか?」


 あっ、またキャラ変してる…流石に部下の前ではあのドMキャラは見せられないか…。



「すまんのぉ。少し話をしていて遅れてしもぉたわ。久しぶりじゃのぉドットスそれにボーダよ。」


「お久しぶりですギルマス。いつ見てもお変わりなくお綺麗ですね。」


 白のプレートアーマーにグレーヘアーのコイツがドットスか…。

ただのキャラ無しだと思ってたけど以外に切れ者なのかもしれないな。



「ほっほ。そんな世辞が言えるようになるとは随分な変わりようじゃの。」


「変わったのはドットスだけじゃねぇぜ!俺様の筋肉も冒険者の頃より育ちに育ってるぜ!わかるか?ギルマス!?」


 んでもってこっちの水色ちょんまげヘアの筋肉マンの方がボーダだな。話に聞いてた通りの脳筋だな…。



「筋肉の事はわからんが大きくなってるんじゃろうな?」


「貴方、また会った。これはもう燃やす運命ね。」


「ストラその子達と知り合いかい?」


「さっき屋敷で燃やす約束をした。快く承諾したわ。」


 してねぇよ!コイツの記憶力どうなってんだよ!



「へぇ、燃やされたいなんて珍しい子だね。ところで旦那様?僕達はどうしてここへ呼ばれたのでしょうか?」


 バカかコイツは!燃やされたい奴なんているわけねぇだろ!何スッと納得してんだよ!



「それはそこの冒険者ユウキから説明がある。」


「えっ?おれ!?」


「君が一番の適役だろう?説明したまえ。」


「……わかりました。はじめまして、新人冒険者のユウキです!いきなりですけど稽古をつけてください!」


「稽古?」


「はい!今日街にモンスターがたくさん現れて…でもおれたち全然戦えませんでした。

新人で弱いから自分を守る事に精一杯で怖くて仕方無かったんです。

それでギルマスに強くなる方法を聞いたら、『シーマ伯爵に貸しがあるからそこの護衛に指導して貰えばいい』って言われて流されるままいたら今になりました!」


 ふったんだから話合わせろよ?



「そう言う事だ。お前達に面倒をかけてすまないが付き合ってやってくれ。これであの借りがなくなるなら安いものなんだ。」


 ナイスだ変態貴族!



「そう言う事でしたか。ご命令とあれば謹んでお受け致します。だけど僕達は剣を使う職業じゃないけどいいのかい?」


「それは心配いらぬ。実戦形式でやるつもりじゃ。手加減してやってくれればそれでよい。」


「わかりました。それなら僕が受けましょう。」


 はいー!死の挑戦状を受けてくれて



「ありがとうございます!」


「あっ、ありがとうございます!」


「ギルマス!やったよ!受けてくれるって!」


「そうじゃな。よかったのユウキ、ホーク。」


「うん!」


 やりすぎだ、頭を撫でるな!後ろにあの貴族いるんですけど?どんな表情してるか怖くて振り向けないんだけど!



「ん゛!んんん゛!!!」


 ほら…あからさまに怒ってるよね?悪意を持った咳払いしてるよね?



「そうじゃ、どうせなら儂も久しぶりに稽古してみるかの。ボーダよ、良かったら手合わせしてみぬか?」


「いいーねぇ!その話乗ったぜギルマス!」


 うん。いい感じだ。最初の思惑通りギルマスがボーダを引き受けてくれた。



「それでは準備はよいか?念の為にこの結界アイテムを使っておくがここは屋敷の庭だ。くれぐれも暴れ過ぎないようにしろ。」


 シーマ伯爵が結界アイテムを使うと、庭に結界が張られ、外が見えなくなった。



「あれ?ユウキ屋敷とか見えなくなっちゃったよ?」


「だな。って事は……」


「無論外からこの中も見えんぞ。」


「マジで?そんなアイテムまであんの?神じゃん!」


 これってシーマ伯爵はいるけど最初に想定してたよりかなり戦いが自由になったんじゃね?

 ってかもうバレてるし遠慮して戦う必要なくね?



「さて、ではそろそろ始めるかのぉ。ボーダ儂らは邪魔にならんように向こうへ行こうかの。」


「わかったぜ!」


 ギルマスがソレっぽい理由でボーダを連れて行った。どうせならシーマ伯爵も連れて行ってくれればいいのに……



「僕達も始めようか。遠慮せずにかかっておいで。」


 言ったね?じゃあ始めようか…。この街最後の盗賊退治だ!

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