第163話 なりきり師、スペックを聞く。

「貴族街なのにすんなり通してくれるもんなんですね。」


 貴族街に入るにあたり、本来なら色々手続きか必要なそうだが、ギルマスがすんなり話をつけて入れてしまった。

 そしてそこからは馬車移動。馬車で移動する程の距離でもないのにこの街の貴族街のルールだそうだ。



「儂がおるからの。身元がしっかりわかっておるからこそ楽に通れただけじゃわい。君達だけなら通れはせんじゃろうな。」


「へぇ〜。まぁおれたちは別に門を通らなくても簡単に入れますけどね。空からでも姿を消してもなんでもありですから。」


 実際貴族街の上はさっき飛んでるしね。潜入するだけなら空からの方が簡単にできるんだけどな。



「君がどんな風に盗賊を駆除するつもりじゃったのかはわからんが、少しは後先を考えなさい。

今からやろうとしておるのは一応盗賊駆除じゃが、貴族の護衛じゃ。ちゃんと筋を通さんとこの国で生きていけなくなるぞい。」


「それは嫌ですねぇ。盗賊のせいで国外追放とか笑い話にもなりませんよ。

でもどうするんですか?貴族様に貴方の護衛は盗賊なので駆除しますとでも言うんですか?グルかも知れないのに…」


「それが一番手っ取り早いのぉ。シーマ伯爵が盗賊とグルかどうかはこれを使えば簡単にわかる。」


 ギルマスが出したのは四角い金属の塊だ。



「なんですかこれ?」


「これは真実の追求具と言う魔道具じゃよ。これを発動させ嘘を付けば瞬時に発熱し、嘘を見抜けると言う優れ物じゃ。」


「へぇ〜そんなのもあるんだ?」


「でもそれって我慢すればバレないんじゃないですか?」


「我慢などの次元じゃないんじゃよ。熱々の鉄で肉を焼けばどうなるかわかるじゃろ。

我慢すればする程、熱は身体全体を巡り身を焦がしていくんじゃよ。」


 うわ〜人間焼き肉じゃん…趣味悪ッ!すぐ離しても火傷必須だよ?この世界の嘘発見器過激過ぎない?



「でもそれって熱平気マンとかだったら効かなくないですか?」


「儂はその熱平気マンとやらに会った事がないからなんとも言えんが、大抵の奴は熱さですぐ離すんじゃよ。

貴族ともなればこの魔道具の存在も知っておるからの、進んで嘘を付く事もあるまいよ。」


「ってか貴族にそんな道具使っていいんですか?そのせいでおれらまで処刑だ!とか言われたらこの街からその貴族の家ごと無くなりますよ?」


「シーマ伯爵なら大丈夫じゃわい。彼はちゃんと街の事を思える貴族じゃ。そんな事で貴族の権限を使ったりはせんよ。

多分じゃが良質の雉が盗賊と言う事も知らんじゃろうな。君が思っておるような事にはならんよ。」


「だといいんですけどね…。おれが初めて会った貴族がカス中のカスだったんで貴族にいいイメージがないんですよね。

それよりギルマス元Aランクの盗賊のスペックを教えてください。戦う相手の情報は少しでも欲しいんで…。」


「よかろう。まずは狂戦士『ダブルトマホーク』のボーダじゃ。その名の通り2つの斧を使う力任せタイプの脳筋野郎じゃ。一撃一撃が重いから攻撃には当たらないように気を付けるのじゃぞ。」


 脳筋ね…バカで何も考えないからパーティーメンバーに流されて盗賊なんかに落ちちゃうんだろうな…。



「次に魔導師『冷酷不笑れいこくふしょう』のストラ。炎魔法と氷魔法を得意とする笑わない女じゃ。燃やしたり凍りつかせたり、相反する事が得意な気味の悪い女じゃから気を付けるのじゃぞ。」


 コミュ症か…誰からも相手されないから他人を不幸にする盗賊なんかに落ちちゃうんだろうな…。



「そして最後に騎士『一突滅殺ひとつきめっさつ』のドットスじゃ。槍を使い自分の間合いで闘う事を得意としておる。頑丈な盾も持ち攻守共に心得ておる厄介な相手じゃ。3人の中で一番強い奴じゃ気を付けるのじゃぞ。」


 最後は普通かよ…脳筋、コミュ症と来たらなんかキャラ位持っとけよ!クソつまんねぇ奴。だから盗賊なんかに落ちんだよ!



「全員が冒険者を辞めたが強さは変わっておらんじゃろう。今の内に誰が誰を相手にするのか決めておいた方が良いかもしれんのぉ。」


「おれらは2人で戦うので相手は誰でもいいです。別に1対1で戦う気もないんで。

物理でも魔法でも相手しますからギルマスが好きなの選んでいいですよ。」


「では儂は斧を使うボーダと闘おうかの。一番強いドットスは君に任せよう。儂はあ奴とは相性が悪いもんでの…。」


「まぁ妥当ですかね。んじゃ騎士と魔導師は任せてください。ホーク、相手は強いけどバフモリモリで戦うから心配しなくていいからな。」


「うん!ユウキがいるから最初から心配なんてしてないよ!おれも邪魔にならないように頑張るね!」


「邪魔になんかならないよ。頼りにしてるからな!」


 とは言っても元Aランクだからな…おれもホークも荷が重いんだけどな。


 そんな事を思っていると馬車が止まった。どうやらシーマ伯爵の屋敷に着いたようだ。



「うわ、でっけーな。何人住めるんだろ…」


 馬車を降りるとそこには端まで見えない鉄柵に囲まれた豪邸があった。



「ユウキ見て見て!庭凄いよ!」


「余り騒ぐでない。貴族の屋敷とはそう言うもんじゃ。他の貴族に示しをつけるためにも伯爵ともなれば財力を目に見える形で表さなければならぬ。

必要がなくても誇示しなければいけないんじゃよ。」


 くだらねぇ見栄のマウント合戦か…一般人には理解できねぇな。



「伯爵邸に御用で御座いますか?」


 馬車から降りたおれたちを怪しそうに見ていた門番が話しかけてきた。

 ま、完全にギルマスに話しかけてるからおれたちの事はスルーされちゃってるけどね…



「シーマ伯爵に会いたいのじゃが。」


「御主人様は只今不在で御座います。御約束はなされていますか?」


「約束はしておらん。いつ帰って来るのかの?」


「申し訳御座いません。門兵の私ではわかりかねます。」


「構わぬよ。急に来たのはこちらじゃからの。ではここで少し待たせてもらうとするかの。」


 う〜わマジか…めんどくせぇ。コソッと侵入してサクッと始末してこようかな…。



「申し訳御座いません。冒険者ギルドのギルドマスター様でも御約束の無い方と御主人様がお会いになられるのは難しいと存じます。」


 まさか居留守か?居留守使ってんのか?おれにはそんな事通用しねぇんだぞ!すぐに居場所特定したろかい!



「なぁに心配するでない。君に迷惑はかけんよ。シーマ伯爵も儂の話を聞けば約束などどうでもよいと思うはずじゃ。」


 今日は引くに引けないからギルマスも頑張ってくれてるな。おれたちは余計な事しない方がいいんだろうな。って事で気配消しとこ。



『タタタッ、タタタッ…』



 おれが気配を消す事を決めた時に遠くから馬の足音が聞こえてきてやがて目の前に来た。



「そこで何をしている」


 白馬に乗った推定20代後半イケメンが登場しました。身なりも綺麗で装飾品も上品…聞かなくてもわかる貴族ですやん。

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