第162話 なりきり師、説得する。
その後昼飯を食い終わって、ホークのインベントリの能力実験をしたのだが、どうやらおれのインベントリとは仕様が違うようだった。
「やっぱり入んないや。おれのは触れてないとダメみたいだね。」
「ホークよ、それが普通じゃ。儂も今までインベントリのスキルを持った者に何人か出会っておるが誰もがユウキのような使い方はしておらん。
恐らくユウキのインベントリが特別仕様なんじゃろう。」
「んまぁ、個人差っぽいのは他の職業だったりでもちょいちょいあるからな。
奴隷とか盗賊のデメリットがキツかったり、ファンネルが強かったりって、なりきり師経由で色々あるんじゃないか?」
「それはあるかもしれんのぉ。変装した盗賊は儂には見分けるのは難しいが、ユウキの場合はすぐに気付いたからの。」
「そっかぁ。でもいいんだ!インベントリ嬉しいもん!これでおれもユウキの荷物を持ってあげられるね!」
「うん?ん?……そ、そうだな。これからも頼りにしてるよ!」
「うん!まっかせてよ!」
これはホークの優しさだもんな。おれもインベントリ持ってるから荷物は基本出ないんだけど……
いい。気にするな。インベントリなんて便利スキルは何人持ってても困る事はないんだ。
「ユウキー眠い…」
あらら…まだスキル検証は色々あるのにリッシュのお眠の時間がやってきたようだ。
今日は朝も早くから睡眠の邪魔されたもんな仕方ないな。
「腹一杯になったか?じゃあ次は昼寝の時間だなリッシュ。今からとっておきの部屋を出してやるよ。 モンスターハウス」
テイマー熟練度5で覚えたモンスターハウス。これはテイムモンスターを別空間に作った家に隔離できるスキルだ。
これなら人目がある時から今みたいに眠い時でも安全に休む事ができる超便利な空間だ。
「さっ、ここに入って。今から盗賊と戦うからうるさくなるし、ここに入ればゆっくり寝れるぞ。」
「イヤー!リッシュ、ユウキと寝るー!」
「おれはまだやる事があるから寝ないよ。」
「イヤ!寝るのー!」
う〜ん…困ったな。これが俗に言うイヤイヤ期か?…早くね?まだ産まれて1週間とかだよ?
「寝ない。とにかく入ってみろよ中は快適だぞ?」
「やぁだ!ユウキもー!」
「ワガママ言ってもダーメ。暇な時なら付き合ってあげるけど、今おれは許さない症候群を発症してるから盗賊を滅ぼすの。
寝てる暇もないし、盗賊を逃がすつもりもない。だからリッシュは大人しくモンスターハウスに入ってね。」
「ユウキ意地悪ー!じゃあリッシュ、ホークと寝るー!」
「リッシュ、ホークまで困らせるなよ。なんで急に機嫌悪くなってるのか知らないけど、あんまりワガママ言うとここでリッシュだけお留守番だぞ!」
「まぁ待つんじゃユウキ。話の内容まではわからんが赤子と言うのはそういうもんじゃ。眠くてもぐずるんじゃよ。」
「ぐずるって…今までそんな事なかったですよ?」
「では、今までリッシュが眠る時はどうしてたのか思い出してみるとよい。きっと今日とは違うんじゃないかの?」
「今まで?」
今までって言ってもリッシュは結構勝手に寝てたぞ?頭の上にしがみついて来たと思ったら寝てたり、抱っこしてる間に寝てたり……
「あっ、モンスターハウス初めてだ…。それにリッシュって一人で寝たことないや……。」
「言葉が通じるようになったおかげで意思疎通は簡単にできるようになったかもしれんが、リッシュはまだ産まれたばかりの赤子じゃ。
一人でできない事、わからない事がたくさんあるんじゃ。
親の代わりをしておるならリッシュに自主的にやらせるのでは無く、時が来るまで君がちゃんとリッシュの面倒を見てやるのじゃ。そうでなければ親として失格じゃぞ。
まずはリッシュが何故こんな風にぐずり出したのか考えてみるが良い。リッシュは賢い子じゃ。キチンと説明すればわかってくれるわい。」
「リッシュがぐずり出した理由…」
モンスターハウスに入りたくない……もあるんだろうけど、一人で寝たく無いのかな?もしかしておれかホークがいないと安心できないのかな?
「リッシュ?一人で寝るの嫌か?」
「イヤー!」
「じゃあおれが抱っこしてたら寝れるか?」
「ユウキ抱っこ?」
「そ、おれがリッシュが寝るまで抱っこしてブラッシングするよ。そんでリッシュが寝たらモンスターハウスに入れるよ。」
「リッシュ、ユウキと一緒!」
「モンスターハウスはおれのスキルだからいつでも一緒だよ。いつでも出てこれるし、誰にも邪魔をされないで昼寝ができるんだ。
朝みたいにうるさい音で起こされるのリッシュも嫌だろ?」
「うぅ…ヤダ。」
「だろ?おれたちはこれから元Aランクの盗賊達と戦うからリッシュが寝てると危ないんだよ。だから寝たら入ってくれるか?」
「ユウキ、リッシュ嫌いー?」
「大好きに決まってんじゃん!何バカな事言ってんだよ。」
「リッシュもユウキ大好き!ホークも大好き!」
「ありがと。おいでリッシュ。」
声をかけるとリッシュがホークからおれに飛び移った。
「よしよ〜し。さぁお昼寝しような〜。ブラッシングもしような〜。」
「キュー。」
「ハハッ、キューだけの時があったんだな。意思疎通が無かったらわかんなかったな。気持ちいいか?」
抱っこで揺らしながらブラッシングをしてやるとリッシュはすぐにストンと眠りに落ちた。
子供を育てるってのは難しいね。本来ならこっちの言葉も相手の言葉も伝わらないんだもん。ちゃんと面倒を見ないと親失格か…見てるようでも全然足りてないんだな。…耳が痛いね。
リッシュをモンスターハウスに入れて空間を閉じた。
「眠ったようじゃの?」
「はい。ギルマス、さっきはありがとうございました。あのままだったらおれ本当にリッシュを置いていく所でした。」
「なぁに良い。これも年寄りのお節介じゃよ。」
「育てるって難しいですね…。」
「そりゃそうじゃよ。人間でもエルフでもドラゴンでも赤子は一人では生きて行けぬ。
君が赤子を育てると同時に君も赤子に親として育てられてるんじゃよ。
まぁ人間とモンスターでは違うのかもしれんがの…」
「リッシュも多分同じですよ。ジフから受けるはずだった愛情を受けれず、おれたちに甘えるしかないんです。
はぁ…今日のおれはダメダメですね。盗賊だけじゃなくリッシュにまでイラついちゃうなんて…。」
「生きておればそんな日もあるわい。儂もたまにじゃが大爆発する日もある。人なんてそんなもんじゃ。」
「プッ…ギルマスはもっと我慢しないと死人が出ますよ。」
「ぬかせ!儂を怒らせるより君を怒らせる方がよっぽどおっかないわい。」
「まっ、今日はそう言う事にしておきましょう。って事でおれを怒らせた盗賊のボスに責任を取らせに行きましょうか。
安全圏で一番汚い事をした報いを正義マンになったおれたちが受けさせましょう。」
「うん!ユウキ頑張ろうね!」
「あ奴等が盗賊落ちしたのは残念じゃが、落ちてしもぉたならそこから先は自業自得じゃ。儂も手加減は必要無いのぉ。」
「よし!じゃあ今日の最終決戦に行くぞ!」
「おう!」
「うむ!」
おれたちは無人の宿を出て貴族街へと向かった。
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