第160話 なりきり師、昔を話す。
「どっこも開いてねぇ!!!クッソ、それもこれもあのサマナーのせいだ!」
考えればそりゃそうか…災害時に店開いて商売なんてするわけねぇわな…
「ユウキ機嫌悪いね?まだ怒ってるの?大丈夫?」
「別に怒ってないよ……いや、怒ってるな…。ごめんホーク達も気分悪いよな。」
「ううん、それは全然いいんだけど、ユウキがあんな風に怒るなんて珍しいなぁと思って。なんか怒るにしても今日はいつもと違ってたもん。」
「そうだよな…ホークは本当によく見てるんだな。確かにさっきのは個人的な嫌い、許せないって感情が前面に出ちゃってたよ…。」
「何かあったの?」
「儂も気になるのぉ…」
「昔ちょっとな…飯食いながら話すよ……ってなんでギルマスがいるんですか?さっき別れたばっかりでしょ!」
「あのまま君を放っておけるわけなかろう。それに最後の盗賊がまだ残ってるであろう?」
「いや、放っておいてください。盗賊もおれたちで倒しますから。」
「わかっておらんのぉ。盗賊は貴族街におるんじゃろ?君達だけでは入れんじゃろ。それに君から聞いたドットスと言う名の盗賊…奴は元Aランク冒険者じゃ。」
「Aランク冒険者?なんでそんな奴が盗賊に…」
「理由はわからぬ。じゃが、貴族街の3人の盗賊はシーマ侯爵の護衛として冒険者を辞めて行ったドットス、ストラ、ボーダの3人じゃろう。
奴等は昔と
全員がAランクか…中々厄介だな…確かシルバさんでもBランクだったっけ?
まぁあの人は冒険者を引退してから強くなってるだろうから例外だとしてもそれ位強いって事だよな…
「そうですか。貴重な情報ありがとうごさいます。油断無く戦う事にします。それじゃおれたちはこのへんで…」
「わ、し、も!連れて行け!仲間外れにするでない!」
「仲間外れにはしてませんよ。おれたち今から昼飯なんですよ。倒しに行くのをいつにするかも決めてませんし、ギルマスは忙しいでしょ?」
「それなら丁度よい。儂もお腹はペコペコじゃ。知っての通り朝から何も食べてないからのぉ。
それにギルドの方も心配しなくていい。職員は皆優秀じゃからの。」
「伝わりませんかね?ついてくんなって言ってるんですけど?」
「伝わらんのかのぉ?絶対ついていくって言ってるんじゃが?」
「人の迷惑を考えないとあのウン口臭女みたいに周りから嫌われますよ!」
「儂をあんな汚物と一緒にするでない!儂はギルドマスターとして君達と盗賊退治に行くだけじゃ。」
「必要無いって言ってるんですよ!今からナイーブな話もするつもりですから気を遣ってくれませんかねぇ!」
「気を遣って一緒に聞いてあげようではないか。人数が多い方がスッキリすると言う事もあるもんじゃ!」
「いいじゃんユウキ、敵が強いならギルマスがいてくれた方が助かるよ?アイズダンジョンでもそうだったじゃん!」
「それはそうだけどさ…他にも見せたくない物も、聞かせたく無い事もあるんだよ…」
「ホークの言う通りじゃ。備えあれば憂いなしじゃ。儂が戦闘に加わればあら不思議、相手にする人数が減ってより安全に戦えるじゃろうな。
…君がどうしても嫌と言うのなら一緒に戦う事以外は儂が折れようぞ。」
「はぁ…もういいです。こうしてる時間がもったいない。とりあえず宿に帰って飯食おう。ギルマスも来るんですよね?」
「もちろんじゃ!」
「それじゃあこれから色々あるんですけど何が起こっても他言無用でお願いしますね。」
「わかっておるのじゃ!しかし色々とはなんじゃ?」
「色々は色々です…。」
そしておれたちは宿へと戻った。街にはもう人がチラチラと外に出ていたが、宿にはまだ誰も帰って来ていなかった。
「適当にインベントリから出すから好きなの選んでくれ。ギルマスは野菜系でいいですか?」
「儂は肉も魚も食べれるぞ?もう里を出て200年以上経つからの気にせんでよい。」
「どんどんおれの中のエルフ像が崩れて行くな…わかりました一応出しておきます。いらなかったらおれが食うんで。」
おれが食えなくてもリッシュがいる。4人前とは思えない量を出しても結局は全部無くなってしまうんだ。
「ユウキ、早く!」
「わかってるよ。それじゃあ、せーの!」
「「「いただきま〜す!」」」
腹が減ってただけあってホークもリッシュもがっついてるなぁ…。誰も取らないからゆっくり食べればいいのに…
「うまっ、これ何処で買ったんだったっけ?買ってすぐ食わないから買った場所忘れるんだよな…」
「便利なスキルじゃな。これならまず飢え死にする心配がないのぉ。しかも温かいままとは…」
「自分で買い足さなきゃいけないですけどね。でもまぁ便利は便利ですね。解体とか仕分けもやってくれますし、使い方次第で攻撃にも防御にも使えますからね。」
「何をどうすればインベントリが攻撃と防御になるか儂にはわからんが君が言うならそうなんじゃろうな。」
「まぁその辺は発想の転換ですからね…。」
「それより聞かせてくれるかの?さっきの新人達に怒ってた事と、君が商業ギルドで言ってた弔い合戦…繋がっとるんじゃろ?」
「はぁ…仕方無いですね。迷惑をかけてしまったし償いの意味でも話しますよ。でも面白い話じゃないですからね。」
「構わぬよ。いつも飄々としておる君があれだけ怒っておったんじゃ。気にならんと言う方が嘘になるからの。」
「ふぅ…話は前世にまで戻ります。おれが16歳の時にデビューして2作目の時にお世話になった上田さんってじいちゃんがいたんです。
牧場を舞台にしたドラマでおれは主人公の息子役でした。じいちゃんは場所を貸してくれた牧場主ですね。
新人だったおれは台詞だけでも大変だったのに、それに加えて牛の扱いも必要で本番でもNGを出しまくりでした。
全然上手く出来なくて隠れて一人で落ち込んでたんですけど、そんな時に声をかけてくれたのがじいちゃんだったんです。
牛にこう言う事をすれば喜ぶ、嫌がる、大人しくなる。時間外でもそう言う事を全部教えてくれたり、励ましてくれたり、家族ぐるみで良くしてくれました。
そのおかげでだんだんNGも減っていって撮影がどんどん楽しくなっていったんです。」
「できなかった事ができるようになったんじゃな?」
「そうですね。牛や馬にも慣れていって無事に撮影は終了しました。撮影が終わってもじいちゃんは連絡をくれて頑張ってるかとか、体調崩してないかとか、あの番組見たよっていつも報告してくれてたんです。
でもそれがある時から来なくなってしまった…。じいちゃんの住んでた地域が地震の震源地に近くて被災してしまったんです。
今回みたいに避難所に避難していたんですけどあの家には生き物がたくさんいたので、じいちゃんもずっと心配してたそうです。
それでやっと家に帰れるってなって帰ったら小屋はぐちゃぐちゃで生き物達も全滅だったそうです。」
「そうか…」
「自然災害ですからね。誰も恨めないんです。今までやってきた牧場も0からまた始めるのか、もう辞めてしまうのかそんな事も考える事ができなかったそうです。
じいちゃんは1回の地震に人生のどん底にまで落とされてしまったんです。でもそれはまだどん底じゃ無かったんです。
目の前の現実を受け入れなれないまま母屋へ帰ったら今度は家の中が荒らされてたんです。
明らかに地震じゃない人の手によって荒らされた家の中で金目の物も、奥さんとの思い出の品も、全部盗まれてたそうです。」
「そのじいちゃんはどうしたの?」
「首を吊って自殺したよ。衝動的だったんだろうな…遺書も何もなかったってさ…
災害で死に目にあいながらも生き延びたのに人の悪意によって殺されたんだ。
絶望の先の絶望…おれには想像もできない程悔しかっただろうな。
それと似たような事が今日起きた。だから泥棒の事も気付けたんだ。
世界は変わってしまったけど盗賊は犯人として殺しました。それがおれの弔い合戦です。
あの新人達は自分が何をしたのかをまるでわかってなかった。それが無性に腹が立った。ただそれだけです。
おれは街の為じゃなく、上田のじいちゃんの為に戦ったんですよ。おれの自己満足でしかありませんけどね…。」
「そんな事は無かろう。確かに君の怒りは話を聞かねばわからぬ事であろう。じゃが君が街を救ったのも事実じゃ。
その子の為にやった事でも結局君は、君達はこの街の救世主となってくれたのじゃ。
それは君達と関わった街の住民がわかっておるはずじゃ。」
「救世主とか主人公とかそんなものになるつもりはありません。
何度も言いますけどおれは災害時の泥棒が嫌いだから殺しただけです。
それにまだこの街には盗賊のボスがいます。そいつらが残っている限りまたいつ同じ事をするかわかりませんからね。」
「それはそうじゃな。大元を断たねば繰り返されるやもしれん。」
「って事でホーク、リッシュ、ちょっと危険な戦いになるかも知れないけど一緒に戦ってくれるか?おれは今回の盗賊を全部倒すってガッツさん達と約束しちゃったんだ。」
「もちろんだよ!おれも一緒に戦うよ!」
「リッシュもー!」
「そっか。ありがとう。それじゃあ準備しようか。ホーク、待たせて悪かったな。これをやっと渡せるよ。」
おれはホークにとある箱を渡した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます