第157話 なりきり師、夢を語る。
〜教会 礼拝堂〜
「…んん。」
「ユウキ!ユウキ!」
「ユウキー!起きたー?」
あっちの世界に呼ばれるとこっちの世界のおれはぶっ倒れちゃうんだよね…
目を覚ますとおれは礼拝堂の長椅子に寝転がってた。人が多いのにすいませんね。ってかめっちゃ色んな人から心配そうに見られてる…。
中には教会の人だろうなって服の人もいるし結構大事になっちゃってるかも……
「ごめん!ちょっと寝ちゃった。疲れてたみたいだ。」
「ユウキや、大丈夫なのか?」
「大丈夫ですよ。原因はわかってますんで…。」
「ユウキ様、ご無事でなによりでございます。」
シスターのカイラさんが話しかけてきた。正に呼びに行こうと思ってたので丁度良い。
「ご迷惑おかけしました。それよりカイラさんの事で不思議な夢を見ました。」
「私の…夢ですか?」
「はい。この礼拝堂の一番前の台座の所でカイラさんが光を放ちながら宙に浮いて喋ってたんです。
それを皆が感動しながら聞き入っているんです。話の内容は覚えてないんですけどね…」
「私が光ながら宙に浮くんですか?」
「あっ、ごめんなさい。変な事言って…あまりにも神秘的だったんでつい……
教会だから綺麗な夢を見れたのかも知れませんね。一人占めするのがもったいない位素敵な夢でした。」
さぁお膳立てはしたぞ。後は誰かがもうひと押ししてくれればいいんだけどな……
「そんな夢ならおれも見てぇなぁ。街はモンスターに襲撃されて散々な状況だからな。夢だけでも現実逃避してぇよ。」
ナイスだおっさん!さぁ民衆よ、続け!
「なぁにバカな事言ってんのよ!命があっただけでもありがたいと思いなさい。」
「でもよぉ、そんな夢が見れるならお前も見たいだろ?」
「まぁそれはそうだけど…」
限りなく興味は無いけど夫婦かな?その願い叶えて差し上げよう。
「私も見たいなぁ。一人占めするのがもったいない位素敵な夢なんて見た事ないもん。この教会で眠ればそんな素敵な夢が見れるのかな?」
「姉ちゃんここで寝るのか?皆にイビキ聞かれちゃうぞ!」
「うっさいわね!イビキなんてかかないわよ!あんたのせいでロマンチックな気分が第無しよ!」
これまた心底興味無いが兄弟かな?これから感動の押し売り始まるよ!嬉ションすんなよ?
「あっ、ごめんなさい!すぐに退きますね。どうぞ皆さん座ってください。場所をお借りしてすいませんでした。」
「大丈夫なのか?少し休んだ方がいいんじゃないか?シスターさんが言ってたけどアンタが奇跡を起こして皆治しちまったんだろ?」
「奇跡じゃなくて回復の奥義を使ったんですよ。2回も連発して少し疲れちゃったみたいですけどもう大丈夫です。
皆さんの方こそ朝から大変でしたね。あっ、そうだ!カイラさん、もしよかったらあの夢の気分だけでも味わってみませんか?」
「夢の気分ですか?」
「はい。確かあの辺に立ちながら見てたんです。そして何故か安心した気持ちで教会を出た所で目が覚めたんです。
くだらないって笑わちゃうかもしれないですけど今は明るい気分になれる事がここにいる人達にも必要だと思うんです。
何も起こらなかったら何かお話でもしてあげてください。」
「えっ、でも私人前で話すとか苦手で……」
「根拠は無いけどきっと大丈夫です。面白くてもつまらなくても気が紛れるなら今はそれだけで十分ですよ。」
「シスターさんお願い!私もこの人の気分を味わってみたい!」
「そうだな。駄目で元々、何も起こらなくても誰も文句言わねぇよ。」
「シスター、皆を元気付けておくれよ。」
「皆さん…わかりました。ユウキ様、私が祭壇の前に立てばよろしいのですね?」
あっ、台座じゃなくて祭壇って言うんだ?間違ってたな…照れる
「そうです。カイラさん、こんな時は楽しくなりそうな事を目一杯楽しみましょう。」
「フフ、そうですね。それでは行って参ります。」
さぁ、ここからが本番だ。さっきおれが神の世界からの帰り際にキュラリア様にお願いした事は、一芝居うってもらう事だ。
今のままだと確実に教会関係者に目を付けられている。そこでおれよりももっと目立った人を作ろうと言うのが今回の作戦だ。
その上でおれたちへの干渉も神の権限でやめさせよう的な所まで持っていければ大成功だ。
「ユウキ?何する気なの?」
「ん?別におれは何もしないよ。ただちょっとこれから感動の嵐が巻き起こるんだよ。」
「感動の嵐?」
「まぁ見てなって。はじまるよ。」
カイラさんが祭壇の前に到着してこっちを見た。神の依代になるなんて思ってないだろうな…。
おれだったら御免被るけど、聖職者なんて仕事をしてるんだから神と繋がれる依代になれて本望だろう。
「えぇっと…」
礼拝堂にいる皆がカイラさんを注目して見ている。人前が苦手だって言うだけあってモジモジしてるがこれから貴方は本当の奇跡の人になるんだよ。
「(今です。キュラリア様)」
おれが小声で呟くと変化はすぐに起こった。
カイラさんに祭壇から光が降り注ぎ包み込まれた。
「なにあれ!」
「おい、どうなってんだ?」
周りの人達がザワツキ出した。演出としては上出来だな。
もうキュラリア様は入ったのかな?光は弱まりながらも今度は宙に浮き始めた。って言っても1メートルも浮いてないけどね。
「キレイ…」
「奇跡だ…」
この世界の人達奇跡って言葉簡単に使いすぎじゃね?いや、まぁおれの回復魔法も今の神降臨も普通じゃありえないんだけどさ…
「私は生命神キュラリア。この者の身体を通じてこの世界に降り立った。此度の災害に私も心を痛めています。」
「神…様……?」
「ウソ…」
「だがその不安も束の間の物。終息への歩は進み続けています…。」
「生命神キュラリア様、発言をお許しください。」
「良いでしょう。人の子よ。」
「ありがたき幸せに感謝を…私はこの教会の司教でございます。キュラリア様、我々はこれからどうすればよろしいのでしょうか?」
「そなた等は祈りなさい。さすれば創造神プライがお導きくださることでしょう。」
「お答え頂き感謝申し上げます。」
「そしてこの世界の命運を分ける鍵となるのがそこにいるユウキ、そしてその仲間の貴方達です。」
「えっ!?」
おれに振るの?そんな風に伝えて無いんだけど!
「司教よ、彼等の自由を脅かしてはいけません。それは世界の破滅を意味します。彼等の不利益になる事は控えなさい。神は全てを見ていますよ。」
「は、はい!承知致しました。」
何その言い方めっちゃ怖いんだけど…何かするつもりだったの?ぶっ飛ばすよ?
「では行きなさいユウキ。貴方にはまだやるべき事があるはずです。」
「わかりました。行こう皆。」
「う、うん。」
キュラリア様もにくい事するね。これなら自然に安心して外に出れるじゃん。夢と現実が繋がったよ。
「では私も去ります。司教、この子をしっかり休ませてあげなさい。」
「神に誓って必ず…」
短い時間だったけど神様無双だったな。神様ってだけで皆が平伏すんだもん。羨ましい限りだね。
平伏さなくていいから狙われずに暮らしたいもんだよ…。
「さっ、冒険者ギルドに行こうか。」
「行こうかじゃない!なんなのじゃさっきのは!」
「見てたでしょ?神様ですよ。生命神のキュラリア様です。友達になったんでちょっとお願いしたんですよ。」
「ユウキのお友達ー?」
「そう、友達だよ。すっごい綺麗な神様だったよ。リッシュもいつか会えるといいな?」
「うん!リッシュも会うー!」
「なら一杯食べて、一杯寝て、一杯戦って、大きくならないとな。」
「わかったー!リッシュ頑張るー!」
「リッシュはいい子だなぁ。よしよし。」
「はぁ…君は本当にめちゃくちゃじゃ。儂の理解の範疇を軽く超えておる。本当に神をも利用しよったのぉ…」
「基本的に他人を理解なんてできませんよ。それこそ神じゃないと無理です。
同じ経験や立場に立った事がない奴が言う気持ちがわかるなんてただの傲慢、自己満足ですよ。
それに今回は利用って言うか友達としてのお願いですけどね。嫌って断られればそれまででしたし。」
「ユウキ?なんでキュラリア様に呼ばれたの?」
「あぁ、なんかお礼が言いたいって呼ばれて加護を貰ったよ。プライがゴネて大変だったけどね。」
「プライ様もいたの?」
「いたよ。おれとキュラリア様が友達になるのをずっと邪魔してたよ。最後は機嫌悪そうだったな…。」
「えっ?プライ様が怒っちゃったの?」
「あれは怒ったって言うよりヤキモチだな。結局おれが帰るまでずっと残ってたし。
でも大丈夫だと思う。きっと向こうで仲良くこっちを見てるよ。ホークとも友達になりたがってたよ。」
「ほんと!?まだ覚えててくれたの?」
「いくら神でも数週間前の事を忘れないよ。神からしたら数週間なんて瞬きみたいなもんだろ。」
「そうなの?」
「そうなんじゃない?」
「そっか!よ〜し、ヤル気出てきたよ!ユウキ!早く冒険者ギルドに行こう!」
「わかったわかった、わかったから引っ張るなって…」
冒険者ギルドに行ってもやるのは盗賊退治なんだけどな…まぁいっか。
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