第155話 なりきり師、通じる。
『バタッ!』
「これでよし!とッ。おれたちの方が先に終わっちゃったな。リッシュ、ホーク達の手助けをしようか。」
〈キュー!〉
まぁ7人中2人だけだったからな。しかも2人目はおれたちが到着する丁度の時に自分から外に出てくるサプライズをしてくれたので、倒すのがとても楽だった。
ホーク達はまだ退治したのは1人だがもうすぐ2人目に到着しそうだ。残りは4人。こりゃ思ってたより全然早く終わりそうだな。
「リッシュ、次はチームプレイで戦おうか?」
〈キュー?〉
「戦いは真正面から戦うだけじゃないって事を勉強しよう。
まぁそんなに難しい事はしないから安心していいよ。手順を説明するとおれが盗賊に声をかける。リッシュは空から後ろに回ってドラゴンネイルでズバッとやる。これだけだよ。
『あの〜すいません…あっ、死んだ。』作戦だ!」
〈キュー!〉
「おっ、ヤル気満々だな!失敗してもいいから気楽にやればいいよ。」
〈キュー!!!〉
なんかいつもより燃えてるな?そんなに作戦が気に入ったのかな?
まっ、ヤル気があるのはいい事だし別にいっか。
「じゃあ盗賊の近くまで走るからしっかり掴まってるんだぞ?」
〈キュー!〉
お決まりの頭に掴まるスタイルでリッシュの準備が完了した。
一番近い盗賊は距離にして約500メートルの筋違いの道にいる奴だな。ホーク達は今おれたちがいる道沿いを攻めてるしおれたちはコイツを狙おう。
思い立ったら行動は早くあっと言う間にターゲットを発見した。
「じゃあリッシュ頼んだよ!一応ミラージュバリアで姿は隠すから気付かれる事はないと思うけど、それでもちゃんと注意はするんだぞ?」
〈キュキュー!〉
「よし!じゃあ頑張れ!ミラージュバリア!」
ミラージュバリアをかけるとリッシュは飛んでいった。さて、おれも一芝居うちますか。
「あの〜!そこのお兄さ〜ん…」
ゆっくり走り徐々に近付く。常識の範囲内でのスピードを心掛け、もうすぐって時に異変は起きた。
「ち、近付くな!おおお、お前何者だ!」
「…フッ。よく気付いたな。だけどもう遅い。お前はおれに狙われた時点で終わりなんだよ盗賊が!」
剣を抜き構えた。いざって時にアドリブに強いとやっぱり得だね。
と、言うのもこの盗賊が気付いたのはおれの強さじゃない。リッシュの殺気だ。基本的に殺気なんかわからないおれでもビリビリする程の気配を感じている。
リッシュは殺る気満々なようだが、そのせいでエンシェントドラゴンとしての絶対的強者の殺気がダダ漏れになってしまったんだろう。
おれは平気だけどこれはコントロールできないと今後困るな…後で反省会だな。
「くくくく来るな!ひぁ…」
あらら…まともに立ってられないみたいだ。尻もちを付いておれから目を離さず後退りしている。
でもそうじゃないんだよ。おれじゃないよ。冤罪ってのはこうやって生まれるんだな…。
「おれ一歩も動いてないんだけど…まぁいいや。バイバイ!」
手を振り、別れの挨拶を終えると盗賊の顔が吹き飛んでいった。
いや〜まさか顔が吹き飛ぶとは…てっきり背中をズバッと引っ掻くかなって勝手に思ってたんだけど……うちの子は甘くないみたいだ。
〈キュキュー♪〉
「リッシュお疲れ様。意外と容赦ないんだね…」
〈キュー?〉
「良き。良き。どうせ殺すなら痛みを感じる事なく殺すのも一種の優しさだよ。それよりリッシュ殺気が漏れすぎだ。ミラージュバリアを使って無かったら普通にバレてたよ。あれじゃ奇襲攻撃にならなかったぞ。」
〈キュ……〉
ヤベェ褒めるの忘れてた…目に見えて落ち込んだな……。
「あっ、怒ってるんじゃないんだぞ?次から気を付けようなって事なんだよ。それよりリッシュ凄く強くなったな!めちゃくちゃ頼もしいよ!盗賊を倒してくれてありがとう。」
〈キュッ!キューキュキュッ!〉
うん、わからん。最初の落ち込んでたのはわかったけど後半はサッパリだ。なんでホークはわかるんだろ?
「うんうん。リッシュはいい子だな〜。」
とりあえず撫でとこう。
〈キュ〜♪〉
【テイマーの熟練度が10に上がりました】
【テイマー専用スキル モンスターウエポンを覚えました】
【EXスキル 意思疎通+が追加されました】
【テイマーの熟練度が限界まで上がりました】
【テイマーの上位職 サマナーが開放されました】
【なりきり師のレベルが9に上がりました】
【転職可能職業が増加しました】
「あっ!終わった!」
リッシュを撫でてたら熟練度が上がった。9から10まで早かったな。ウッドゴーレムで一斉に倒した分がいい感じに積み重なってたんだな。
ってか今回EXスキルまで出てんじゃん!専用スキルもなかなか凄そうな気がするし……
「ユウキー!ユウキー!」
「あっ、ごめんごめんリッシュ。次に行こうか。……って、えぇーーー!!」
「どうしたのー?」
おいおいおいおい、喋ってるのリッシュだよな?えっ?通じてんの?
「リ、リッシュ?」
「なにー?」
「は、はは…すげぇな異世界…。おれリッシュと言葉が通じるようになったみたいだ……。」
「えっ!?ほんとー?リッシュの言ってる事わかるー?」
「あぁ、わかるよ。」
「ユウキー!好きー!!!」
突然の告白をリッシュにされ顔を舐められた。リッシュからしたらいつものスキンシップだろうけど、言葉がわかるだけでより一層好意を持ってくれてるのがわかるな。
「ありがとう。おれもリッシュが大好きだよ。」
「リッシュねホークも好きー!あとね、あとね…」
言葉が通じるのが嬉しいのかリッシュが止まらない。今まで通じなかったからもしかしたら一杯話したい事があったのかもしれないな…。
「リッシュ、話せるのが嬉しいのはわかるけど、今は先にこの街を助けよう。その後で一杯お話しよう。」
「うーん……わかったー!」
言葉と仕草が一致すると余計カワイイな…。ってダメダメ!カワイイからいつまでも見てられるけどやる事ちゃんとやってからだ。
「なりきりチェンジ 結界師」
とりあえずは結界師で行こう。どうせこの後は回復でヒーラーにならないといけないし。
「リッシュ次行くよ!」
「うん!!!」
さっきはホークが盗賊を倒したから熟練度が上がったんだな。残りが2人になってる。
あと一人ずつ倒せば終わるな。ちゃちゃっと終わらせて教会前で待ってたらその内来るだろう。先に待っとくか。
〜教会前〜
おれたちも、ホーク達も残りの盗賊を始末した。おれたちの方が先に終わったのでヒーラーへの転職も済ませ教会前で待っていた。
「ユウキ〜!リッシュ〜!」
「ホーク!こっちだ。」
「ホーク!!好きー!!!」
「うわぁ!リッシュ、ビックリしたぁ。」
時間があったから色々調べたら意思疎通+はパーティー全員対応EXスキルだった。
そりゃホークもビックリするだろうな。リッシュが好きーって喋ってるんだもん。
「ハハッ、リッシュくすぐったいよぉ!」
「ホークは?ホークはリッシュ好きー?」
「うん!大好きだよ!」
あれ?なんか違うくない?今の流れだとさっきのビックリしたは喋った事にビックリしたんじゃなくて、急に舐めに来たからビックリしたって感じになってない?
「ホ、ホーク?何か変だなぁって思う事ないか?」
「変だなぁ……うーん…ないよ!」
「あっ、そっか……」
えぇー気付いて無いじゃん!確実に会話したよね?って事は普段からあぁやって聞こえてたの?ピュアボーイだけに許される特殊能力ですか?
「リッシュねー、ユウキともホークとも喋れるようになったのー!」
「喋れる?あっ、そう言えば話してるね?どうやってんの?」
やっぱり今までは通じてなかったんだ…だとしたら逆にスゲーよ。あの『キュー』を聞き分けて理解してたって事だろ?
おれは大まかにはわかっても細かくはわからなかったもんな…
「さっきテイマーをマスターして新しいEXスキルが出たんだ。
意思疎通+って奴でおれたちに好意的なら意思疎通ができるスキルみたいだよ。」
「へぇ〜凄いね!じゃあこれからはリッシュと一杯お喋りできるね!」
「うん!リッシュ一杯お喋りするー!」
「ユウキ、それにホークも…君達はリッシュが何を言っておるのかがわかるのか?」
「ついさっきわかるようになったんですよ。詳しい事はまた後で話します。どうせ根掘り葉掘り聞かれるでしょうからね。
とりあえず今は教会に行きましょう。詮索は全部終わらせてからにしてください。」
「そ、そうじゃの。凄く気にはなるが仕方あるまい。」
「リッシュ、これから教会に入るけど怖がる人もいるから静かにしてるんだぞ?」
「わかったー!」
「いい子だな。ホーク、リッシュを頼むな?」
「うん!」
リッシュとの約束を交わしておれたちは教会に入った。
〜教会内 礼拝堂〜
「人が一杯だね。」
「ほとんどが避難民だろうな。中には冒険者っポイのもいるけど。」
広い礼拝堂には長椅子だけでは足りず、地面に座ってる人も立ってる人も一杯いた。
「それよりまずは教会関係者を探さないとな。」
「それなら恐らく奥にいるじゃろう。普段から怪我人や病人の治療をやっておるからな。」
「へぇ。教会って病院みたいな事もするんですね?」
にしてもメルメルもクルーシェも教会でかいな。リーイン村の教会もそこそこ大きいと思ってたけど、村と街じゃ雲泥の差があるな。
「専門分野みたいな物じゃからな。冒険者ギルドでも回復魔法を使える者もおるが、そう言った事は基本的に教会に任せておる。
棲み分けをキチンとしておるから平和でいられるのじゃよ。奥の部屋に案内しよう。ついてくるのじゃ。」
ギルマスの案内に従いおれたちは奥の部屋へと向かった。
「シスター!こっちに来てくれ!この人顔色が悪くなってきた!」
「いたいよ〜!」
「誰かー!お願い!」
思った以上に大変そうだね。商業ギルドより現場がパニクってる。
「これは悠長に許可をとってる場合じゃなさそうですね?」
「これ程とは儂も思わんかった…ユウキ頼めるかの?」
「はいは〜い。新人冒険者は馬車馬のように働きますよ。」
エリアヒーリングを展開しやすいように人を避けながら真ん中へと移動してスキルを発動する。今回は誰も見てないのでコソッとやっちゃおう。
「エリアヒーリング」
まぁ発動でバレるけどね。部屋全体にエリアヒーリングを行き渡らせて部屋の中全体を回復させた。
さっ、終わったしさっさと教会から出よう。と思ったのに…
「お待ち下さい。」
シスターの格好をした女が後ろから話しかけてきた。
「…なんでしょう?」
ニコッと笑って振り返り返事をする。いいか絶対に面倒事にだけは巻き込むなよ!
「この奇跡は貴方様のお力で御座いますね?」
「そうですね。奇跡とは少々大袈裟ですが、少し大変そうだったのでお節介ながらただの回復の奥義を勝手に使わせて貰いました。ご迷惑でしたか?」
「迷惑だなんてとんでも御座いません。心から感謝申し上げます。ありがとうございました。」
「いえ、お気になさらず。それでは。」
「お待ち下さい。」
しつこくない?おれ帰ろうとしてるよね?何回引き止めるつもりですかー?
「なんでしょう?」
それでも笑顔は絶やさない。微笑みはピンチを救う……はずだ。
「もしよろしければ他の部屋の治療も行って頂く事はできないでしょうか?
我々教会も朝から治療を行っているのですが、何分怪我人が多くて治療が全然間に合わない状態で御座いまして…」
「まだ他にも部屋があったんですね。わかりました。できる範囲でやってみましょう。それではシスターさんはここで休んでいてください。」
「いえ、貴方様に任せて私が休むなど…」
「貴方のように可憐で美しい方が無理をするのを僕は見たくない。今までも自分の疲れを我慢して頑張っていたのでしょう?大丈夫です。僕に任せて少し休んでください。」
「いえ、ですが…」
「これ以上自分を犠牲にしないで。聖職者だって人間です。貴方は頑張った!いいえ、頑張り過ぎたんだ。朝から大変だったでしょう?」
「あっ、あれ…」
シスターから涙がツーっとこぼれ落ちた。めちゃくちゃ自然。演技だったら名女優だよ!
「不安でしたよね。限界を超えても頑張らないといけないプレッシャーに押し潰されそうでしたよね。
でももう大丈夫。貴方のその重荷は僕が背負います。だから次は貴方自身の為に休んでいてください。自分を大切にしてあげてください。」
「……はぃ」
よっし!粘り勝ち!付いて回られると面倒なんだよな。回復はしてあげるけど一緒に行動はしてあげない!
「これをどうぞ。安物で申し訳ないですが良ければ使ってください。」
インベントリに入ってたハンカチを渡した。買った覚えは無いけど結構前からあったから多分メルメルにいた時に倒した盗賊のだな。
「ありがとう…ごさいます。」
「それでは僕も頑張ってきますね。」
「あ、あの…」
「はい?」
「お名前を…」
「そう言えば名乗ってませんでしたね…ユウキです。」
「わ、私はカイラ!です。」
「カイラさんですか。いい名前ですね…。」
「ユウキ〜!何やってるの〜?」
「すみません仲間が呼んでるみたいです。ではこれで僕は失礼します。」
「…はぃ…。」
ふぅ〜。やっと開放された。ナイスホーク…いや、ナイスギルマスかな。
「助かりました。ありがとうございます。」
「君は女の敵じゃな。」
「むしろ味方ですよ。優しくする事は罪ですか?」
「はぁ、まぁよい。次の部屋もやってくれるんじゃろ?」
「やりますよ。今のおれは街の人からすれば完全な善人ですから…。」
と言う事で残りの部屋でもエリアヒーリングを使い、怪我人の回復を終わらせた。
今度は見付からなかったからサッと部屋から出たけど、最初なんで見付かったんだろ?
礼拝堂に戻り外に向かう。
「じゃあ次は冒険者ギルドに行きますか。」
「やっとじゃな。儂としては騒ぎの原因がわかる前に来てもらいたかったがの!」
「まだ言ってるんですか?過ぎた事は…」
喋ってると急に目の前がグワンとした。あれ?この感じって…お祈りしてないのに……
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