第154話 なりきり師、要求する。

【テイマーの熟練度が9に上がりました】

【スキル モンスターアイを覚えました】



 ここに来る前に仕込んでおいたウッドゴーレムに盗賊を始末させた事でテイマーの熟練度が9に上がった。

 これで多分テイマーもマスターにリーチがかかっただろう。残りの盗賊をテイマーで倒せればマスターできるかな?



「なりきりチェンジ 空間支配者」


「何度見てもズルイのぉその能力…。」


「その文句はプライに言ってください。おれは自分の職業のスキルを使ってるだけですよ。」


「バカ者!神に文句など言えるわけなかろう!」


「そうですか?おれ本人に結構言ってますけどね。悪いと思ってそうな気配は皆無だし普通に流されますけどね…。」


「なんと怖い物知らずなんじゃ君は…」


「プライは怖くないですよ。どっちかと言うとカワイイ系です。それよりそろそろ行きましょうか!乗ってください。」


 本日2回目のオンボロ筏での空の旅だ。残る盗賊はあと16人。内訳は貴族街に3人、冒険者ギルドに4人、残りは街の北側に9人がバラバラにいる。


 優先順位としては北側からかな。30人以上倒してもまだいるんだから人間の闇には底が無いね…。

 人殺し約50人が一つの区に集まって一斉に悪さをしているんような物だ。日本にいた頃じゃ考えられない治安の悪さだな。



「ギルマス、怪我人の収容所って全部で何箇所ですか?」


「冒険者ギルド、商業ギルド、教会、恐らくはその3箇所に集まっておるはずじゃ。

じゃが細々とした避難所が街の至る所にあるはずじゃ。そこにも怪我人はいるじゃろうな。」


「そうですか…。んじゃ人数の多そうな冒険者ギルドと教会はおれが回復します。でも残りは他の人に頑張らせてください。」


「すまんのぉ。恩に着るのじゃ。」


 できれば教会で回復魔法は使いたくないけどこの

緊急事態ならそうも言ってられないもんな…

 普段ならそんな悪目立ちしそうな事は全力スルーで御免被りたいが商業ギルドでもやっちゃったし、多分遠くない内に教会関係者にも知られるだろう。


 ただの回復魔法じゃなくて奥義だって事を強調していた方が後々言い訳しやすそうだもんな。



「別に恩になんか感じなくていいですよ。その代わり報酬には期待しますからね。」


「う、うむ。そっちの方が恐ろしいのぉ…」


「何も冒険者ギルドから全額請求しようなんて思ってませんよ。商業ギルドも教会も貴族も領主も巻き込んで用意してくれればそれで十分です。」


「君はサラッととんでもない事を口にするのぉ…」


「あくまでも強制依頼ですからね。人が動くには金がいるんですよ。それに今回の事で一番貢献してるのはおれだって自負してます。もし出し渋る所があったら教えてください。

人の命が金より軽いと思ってるならおれが潰しに行きますよ。」


「君が言うと冗談に聞こえんのぉ……」


「アハハ、そりゃそうですよ。冗談じゃありませんから…。」


「………」


 ありゃりゃ黙っちゃった…。普段はあんなにお喋りなのにね。



「まっ、別にそこまでおれも無茶は言いませんよ。2億プライ位で手を打ちますから安心してください。」


「に、2億!?」


「街が2億で助かったなら安いもんでしょ。スキルの書に1500万出すバカもいるんですから貴族連中から巻き上げてください。ギルマスとしての腕の見せ所ですよ!」


 自分で言っといてなんだが2億は完全にボッタクリだよね。

 でもまぁ実際に街は救ったわけだし報酬はちゃんと頂かないとね。



「ユウキ?そんなにお金貰ってどうすんの?」


「使い道はもう決めてるよ。盗賊やモンスターがいなくなったら次は街を直さないといけないからな。

ガッツさんに必要な物を取り寄せて貰う分と、冒険者ギルドに依頼を出す分で大体は吹き飛ぶだろうな。

あっ、勿論ホークの分は分けるから大丈夫だよ。」


「ちょ、ちょっと待つんじゃ!何も君がそこまでする必要はないじゃろう?」


「えぇ。ありませんね。」


「他人の事はどうでもいいと言っておったではないか。」


「言いましたね。ってか今でもそうですよ?」


「じゃあ何故じゃ?君が言ってる事は矛盾だらけではないか?」


「??? 何言ってるんですか?人前で見せる姿と腹の中で思ってる事が同じ訳ないじゃないですか。ライトニングボルト!」


「どう言う事じゃ?」


「例えばですよ、おれがさっき商業ギルドで『お前らなんかどうでもいい死んだ所で関係ない』なんて言ってたら反感買うでしょ。

そうなったらおれも損するし、言われた方も気分が悪い。誰も得しないんです。これはわかりますよね?」


「ふむ。」


「例えおれが何を思っていようが口に出すのと出さないのじゃ天と地程の差があるんですよ。

もし口にしてしまえばおれと同じ考えの奴でも良い人ぶって他の奴らと一緒になって批判するんです。


そうなってしまえばもう周りは敵だらけです。腹の中で思ってる事を公の場で何も考えずに口にするなんてバカのする事なんですよ。」


「確かに想像はできるのぉ…。」


「それに比べてさっきみたいに人前では良い事言って勇気付ければあぁやって応援してくれるんです。人の感情なんて言葉一つで変わるんですよ。


そんで街を復興する理由ですけどこれも結局自分の為です。ただ街を復興するなら報酬なんて辞退してギルマスや貴族達に任せた方が何倍も楽ですからね。2億要求するのも意味があるんですよ。」


「意味?」


「一旦おれに金が入らないと意味が無いんですよ。おれが街の為に金を出したって事実が必要なんです。その事実をおれは金で買うんですよ。

そうすればおれとホークの名は一気に広まる。下手すれば他の街でも噂になるでしょう。

そんな良い噂の人間を狙うのは狙う方からすればリスクが高くなりますからね。」


「なるほどのぉ、君達の安全の為に儂どころか街をも利用すると……」


「おれは街どころか必要とあれば神でも利用しますよ。ライトニングボルト!

言葉にすれば聞こえは悪いかもしれませんが、人なんて利用されて利用して、持ちつ持たれつでしか生きていけませんからね。世界に一人で生きてるわけじゃないですからね。」


「ユウキ!レベル上がった!」


「よかったなホーク!今レベルいくつだっけ?」


「19だよ!あと1で20になるよ!」


「そっか、どんどん離されちゃうな。おれも頑張らないとな!」


「え〜!ユウキはもう頑張ってるよ!」


「そうかな?そうだな。熟練度だけを考えれば100近く上げてるもんな。

あっ、そろそろ降りるよ落ちないように注意するんだぞ?」


「うん!」


 話しながらも外に出てた盗賊にライトニングボルトを落として2人やっつけた。残りは7人…う〜んどう考えても時間には間に合わないな。

 まぁ冒険者ギルドと貴族街は一般人には関係ないだろうからそこは勝手に除外しよう。勿論逃さないけとね。



「さぁ気合い入れてさっさと倒しちゃおうか。ホークはギルマスと外にいる奴を頼んでいいか?」


「うん!わかった!」


「リッシュはおれと家の中の奴らを倒そう。二手に分かれればすぐに終わるよ。その後教会に行こうか。」



〈キュー!〉



「じゃあまた後で落ち合おう。」


「うん!」


「わかったのじゃ!」


 ホークはギルマスを連れて外に出ている盗賊を退治に行った。



「よしリッシュ、おれたちも頑張るぞ!まずは盗賊を引きずり出さないとな。」



〈キュー?〉



「まぁ任せろって!盗賊さ〜ん、あっそびましょ〜!」



〈キュ!?〉



 おれが盗賊に外から声をかけたらリッシュが驚いた。いちいちカワイイなぁ。



「大丈夫だって!バカの脊髄反射で動く脳を刺激するのは簡単なんだ。リッシュみてろよ?


あっるぇ〜?怖くて出てこれないのかなぁ〜?バカな上にチキンで雑魚とかそれでも盗賊なのかなぁ〜?これならその辺の子供でも倒せるんじゃないのか〜?」


 わかりきった挑発でも効くやつには効く。だってバカだもん。そしてコイツは…言うまでもないな。



『バンッ!!』



「誰が…」


「バインドプラント。さようなら。」


 タイミングなんてマップでわかるんだよ。ズンズン近付いて扉を開けた瞬間にバインドプラントで拘束して引っ張り出し、速やかに首に剣を突き刺し終わった。



〈キュキュー♪〉



 リッシュが喜びながらまたおれの顔を舐め始めた。凄いって褒めてくれてんのかな?にしても今日は多いな…。



「こりゃ思ってた以上に舐めるのをやめさせるのは大変そうだな…」



〈キュー?〉



 今日のリッシュは特に舐めてくる。あれ?もしかしてテイマーの熟練度が上がった事と関係あんのかな?

 リッシュの中でおれの好感度が爆上がり的な…?マスターしたらどうなっちゃうんだろ……

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