第153話 なりきり師、潜入する。

 〜サマナーside〜


 なんだ?なんだ?なんだ?なんだ?…なんだこれは…ありえないでしょう。自分のあの大量のモンスターが一瞬でやられたですと?

 しかもモンスターコピーの奥義まで消されてしまったではないですか…


 それにあの冒険者一体どこからやって来たんですか?

 今頃街ではバカな盗賊達が騒ぎを起こしている頃のはずでしょう!何をやっているんですかあのバカ共は!

 せっかく他に邪魔が入らないように全ての道をモンスターで溢れさせたのに…自分の作成は完璧だったはずなのに…



「うっぷ…」


 気持ち悪い…MPポーションを飲みすぎましたね…お腹がタポンタポンです。

 それにあれだけめちゃくちゃにされてしまったらどうやら今回の計画は失敗のようですね…。悔しいですが次の機会にあのドラゴンは奪い取りましょう。

 しかし全財産を注ぎ込み盗賊にまで落ちてしまったと言うのにドラゴンを手に入れられませんでした…あの冒険者さえいなければ!



「クソッ!クソォ!ぐぬぬ……この借りは必ず返しますよ…」


「み゛ぃ〜つけたぁ」


「な!?…ギャーーー!!!」








 〜ユウキside〜



「ホーク丁度良い所に来てくれたな。リッシュと一緒にここで待っててくれるか?」


「いいよ!どうしたの?」


「サマナーを連れてくるよ。家の中に隠れてこのままやり過ごすつもりだろうけどそんな無責任な事はおれが許さない。

おれたちの睡眠と朝飯の邪魔をした事とついでに街に迷惑をかけた責任は命をもって償わせてやる!」


「そうだね!逃がしてまた同じような事したら街の人達困っちゃうもんね。」


「…盗賊だし逃がしてやる理由がないからな。それじゃあコソッと行って来るから待ってて。」


「うん!」


 おれたちのせいでこの騒ぎが起こされたなんてホークとリッシュには言えないな。

 幸い狙いがリッシュだって知ってるのはおれとギルマスだけだ。盗賊達を理由ごと闇に葬ってサマナーの暴走と盗賊の便乗ってシナリオにしてしまおう。



「ご丁寧に人の家なのに鍵までかけてるよ…。ピッキング。」


 盗賊の熟練度2で覚えたばかりのピッキング。スキルを使うと2本のピッキングツールが手元に現れた。

 知識もないしやった事ももちろんないが自然と手が動き、家の鍵は空いた。

 これテレビだったらモザイクかかってるかおれの頭越しのカメラワークになるんだろな……

 こんな事までできてしまうとは…やっぱりなりきり師ってのは万能型チートだな。



「なりきりチェンジ 空間支配者 ミラージュバリア」


 さっき転職したばっかりだけど適材適所だ今はファンネルが最も好ましい。サマナー盗賊がいるのは2階の部屋。気付かれた所でなんとでも対処できるけど家を壊さないって気遣いは人として必要だからね。


 おれはファンネルに乗り足音を立てることなく2階へと上がった。

 ドアが閉まってるこの先にサマナー盗賊がいる。この1枚のドアを開けたら気付かれてしまうだろう……普通ならね。


 でもおれにはこの超便利なスキルがある。ドアである以上どんなドアでも隙間ができる。僅かでも隙間があればミラージュバリアを部屋の中に展開するなんて難しくない作業だ。


 部屋の中をミラージュバリアで偽装し、おれはドアをゆっくり開いた。



「うっぷ…」


 コイツがサマナーか…髪が中途半端に伸びてるだけでこれと言った特徴が全く無い…。その辺にいそうな暗そうな奴だった。

 こんな奴が街全体を巻き込む騒動を起こすとはやる時はやるもんだね。

 でもやっぱりあれだけのモンスターを扱うには相当なMPが必要みたいだな。そこら中にMPポーションの瓶が転がってるぞ。


 そりゃこれだけ飲みながら戦闘なんてできないわな。



「クソッ!クソォ!ぐぬぬ……この借りは必ず返しますよ…」


 逆恨みも甚だしいな。怒ってんのおれだからな。これまでどれだけ虐げられたか知らないけどそれとリッシュを狙った事は話が別。

 世界を恨むのは勝手だけどおれたちを狙ったならそれ相応の報いは受けてもらう。



「み゛ぃ〜つけたぁ」


 ミラージュバリアから手だけを出し、胸ぐらを掴んだ。



「な!?…ギャーーー!!!」


「うぉらぁ!」


 そのまま盗賊を引きずり、窓を開けそして外へ投げ捨てた。



「ガハッ!」


 おれもそのまま窓から外に降り、盗賊の元へと向かう。



「おい、借りは必ずなんだって?お前から仕掛けて来たんだろうが!調子乗んなよ!」


「ヒッ!」


「今すぐ街のモンスターを全部消せ!変な気は起こすなよこっちは全部わかるんだからな」


 武器をチェンジして剣を盗賊の目の前で止め、脅しをかける。サマナーを殺すのは簡単だが、もしモンスターが残ってしまった場合後処理が面倒だ。コイツ自ら消させる方が結果的に楽だろう。


 ホークとリッシュもおれたちを見付けて近付いてきた。



「ユウキ!コイツだよ!コイツがモンスターを出したんだ!」


「そうだな。だから今コイツにモンスターを消すように言ってるんだ。

もし逃げるなら足を切り落とす。攻撃するなら手を切り落とす。お前に残された選択肢はモンスターを消す以外にないんだよ。」


「ややや、やめてください…い、今すぐけけ、消しますから!」


「はーやーくー!消えてないぞー!」


「ちょ、ちょっと待ってください。モンスターを消せばみの、見逃してもらえるのですか?」


「何注文つけてんだよ。早くやれよ!命乞いなんてそれからだろ。

勘違いすんなよあんな雑魚モンスターなんて余裕で倒せんだよ。時間がもったいないからお前に直接消せって言ってるだけだ。」


「うわぁぁぁぁ!!」


 何を思ったのかサマナーはおれの剣を掴み立ち上がった。



「消す気はないか…仕方ない。」


 剣を振りサマナーの手を切り落とした。



「あ゛ぁああぁぁぁ…」


「最後にもう一度だけ聞いてやる。モンスターを消せ。断るなら殺す。」


「はぁはぁ…どうせ消しても殺すのでしょう!それなら自分は戦います!サモン バーサクボア!」



〈ブモーーーー!!!!〉



 うるせぇ猪豚だな。街中でこんなの出してんなよ



「はぁはぁ…自分では制御できない最後の切り札です!バーサクボア街を全て破壊しなさい!」


「グラビティプレス」



〈ブミャ!〉



 出てきたバーサクボアに速攻でグラビティプレスを使い押し潰すと光となって消えていった。


「なっ!」


「何カッコつけて自分は戦いますとか言っちゃってんの?

戦ってんじゃねぇよ。少しは街の人の迷惑も考えろよ!」


「そんな…自分のバーサクボアが…最強のモンスターが……」


「あれが最強ならお前の器はそこまでだって事だ。どっちにしてもリッシュは無理だったな。ライトニングボルト!」


 盗賊にライトニングボルトを落としトドメを刺した。



「ごめんなホーク。先にコイツを見付けてたのにおれが倒しちゃった。」


「ううんいーよ。ねっリッシュ!」



〈キュ〜♪〉



「ブハッ!だからリッシュ舐めるなって…はぁ、まぁいいや。」


 サマナーを倒した事でどうやら街のモンスターは消えたみたいだ。

 これなら最初からあんな手間をかけずにさっさとやればよかったな…。



「あっ、そうだ!ホークもリッシュも朝飯食ってないだろ?もうすぐ昼になっちゃうけどどうする今食うか?」


「うん!」



〈キュー!〉



「そっか。じゃあ適当に何品か出すから食っててくれ。」


「えっ?ユウキは?」


「おれは商業ギルドでの約束があるから盗賊を全員倒してくるよ。あと30分でこの街の盗賊全員をやっつけないといけないんだ。」


「ふ〜ん。じゃあおれも手伝うよ!ご飯は後ででいい!」


「いいのか?腹減ってるだろ?」


「いいよ!3人で食べた方が美味しいから我慢しようねってさっきもリッシュと決めたんだ!」



〈キュー♪〉



「リッシュも我慢するのか?」



〈キュー!〉



「そうか。それなら早く終わらせないとな。」


「儂を忘れてもらっては困るのぉ。儂も今日は何も食べておらぬのじゃぞ。」


「それはおれたちに言われても知りませんよ。」


「儂を仲間外れにするでない!今日はずっと一緒に行動しておろう。」


「勝手についてきてるだけでしょ。もうモンスターも消えたし帰って貰っていいですよ。」


「なっ!寂しい事を言うでない!儂も最後まで付き合うに決まっておろう。」


「えぇ〜ギルドで自分の仕事した方がいいんじゃないですか?」


「嫌じゃ!嫌じゃ!儂も行くんじゃ!」


 300歳を超えてるのに駄々っ子って…



「ねぇユウキ、こんなに言ってるしギルマスも連れて行ってあげようよ。」


「はぁ…もぅ仕方ないな。来る以上は手伝って貰いますからね。」


「もちろんじゃ!」


 残りは盗賊だけだ。この騒動ももう終わりだな。

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