第151話 なりきり師、消火する。

「いやぁぁあ!!離して!」


「落ち着け!こら!暴れるな!」


 何やら物騒な会話が聞こえてきたがこの会話だけだと勘違いされそうだな…。相当大きい声で叫んでるからここまで聞こえてるよ。



「子供達がまだ中にいるんです!お願い行かせて!」


「あんたが行ったって助けられねぇ!巻き込まれるだけだ!今おれの仲間が水魔法を使える奴を探しに行ってる!少しだけ我慢しろ!」


 正解は燃えている家に突っ込もうとしている無謀な母親とそれを引き止めてる冒険者でした。

 ギルマスに連れて来られたから何かと思ったら結構な修羅場だったな。

 ってか何で家にいるんだよ!あの鐘の音を聞いて避難しなかったのか?



「ユウキ!」


「わかってますよ。なりきりチェンジ 空間支配者」


 空間支配者に転職しておれは燃えている家にやってきた。格好は戦士だけどね。



「冒険者さんその人しっかり止めててくださいね。」


「誰だ!?」


「通りすがりの火事関連に強い新人冒険者です。そこのお母さん、子供は何人ですか?」


「ふ、2人…2人です!」


「よかった。まだ生きてますよ!じゃ、ちょっと行ってきます!」


「あっ、おい!」


 ファンネルを手に持っていたが燃えている家の中に投げ込んだ。



「雨水星!10!」


 空間支配者熟練度8で覚えた雨水星。ハレー彗星じゃなく雨ー水星だ。落火星の時もそうだったけど空間支配者ってネタ職なの?


 まぁそんな事は置いといて。雨水星は回転する度に真ん中の穴から強さの違う水が出るスキルだ。蛇口を思い浮かべるとわかりやすいかも。


 1回転なら霧雨、2回転ならポツポツ雨と回転数に応じて水の量が決まる。まぁぶっちゃけ初期威力はおれが決めれるから雰囲気みたいな物だが雰囲気って大事だよね。


 そして今回おれが使った雨水星の10回転は丁度消防車の放水位の量にした。それ以上にしてしまうと中の子達にも影響出ちゃいそうだからその程度で止めておいた。


 でもホースと違って自由自在。全方面放水可能、狭い所でもお任せあれのこのスキルは消火活動に最適だと思う。



「大丈夫じゃ。あの子に任せておけばすぐに解決するじゃろう。無傷の子を連れてすぐに戻ってきおるよ。」


「ギルマス!?なんでこんな所に?」


「そんな事はどうでもよい。それより彼女をよく引き止めたの。よくやった!」


「は、はい!ありがとうございます!」





「あっちぃ〜!入り口も消火してから入ればよかった…。マントちょっと焦げちゃったよ。まぁ仕方ないか。」


 まっ、インベントリに入れたら治るけど。あっ、こう言う時って水かぶってから入るんだっけ?

 ん?あれって漫画知識か?本当に火事の現場でやってんのかな?どっちだろ?


「あ〜もう!それより煙ウザい!トルネードプリズン!!! ふぅ〜これでよし!」


 煙が換気扇みたいにトルネードプリズンに集まってる。絶対に体積以上の煙を吸ってるけどそれでも吸い続けてる…。

 うん!不思議パワー不思議パワー。空気清浄機的な事が起こってるんだと思おう。細かい事は気にしないのがこの世界のコツだ。



「助けに来たよ〜!怪我してないか〜?」


「こ、ここです!妹がいます!」


 場所は最初からわかってるんだよね。怪我してるか聞いてるんだけどな…パニックだろうからしょうがないか。



「濡れるけど少し我慢してくれよ!」


 雨水星で辺りを消火しながら兄妹の元に向かった。ドラマみたいに天井が崩れて…なんて展開もなく無事に辿り着いた。



「お待たせ。なるほどね…これで逃げ遅れたんだな?怖かっただろ?頑張ったなお兄ちゃん。もう大丈夫だ!」


「うっ、うぅ…ファイを…助けて。」


「大丈夫!2人共助けるよ。だから泣かなくていい。妹が起きたら笑われちゃうぞ!」


 気絶してる5歳位の妹の足に箪笥かな?箪笥がのし掛かっていた。それを8歳位の兄が必死に持ち上げていたが気休め程度も上がっていなかった。


 おれはインベントリに箪笥をどかし兄妹を開放した。



「ハイヒール!ハイヒール!」


 妹の足は色も変わりパンパンだった。医療ドラマならここからが本番の大手術なんだろうけど今回はハイヒール2回で速攻2人共完治しちゃいました。


 ドラマだったら絶対盛り上がらないな…いいやドラマじゃないし。



「さっ、出るよ。外でお母さんが心配してるぞ。お兄ちゃんはおれの背中に捕まって!」


「う、うん…」


 妹をお姫様抱っこ、お兄ちゃんをおんぶしておれは外に向かった。



「ウォータークリエイト!」


 ここだけはキッチリやらないとな。この為に入り口付近に残していた火を生活魔法のウォータークリエイトを大声で使って消し去る。


 因みに家の中はファンネルさんが今もまだ消火中だ。外に出たら回転数を上げてすぐ終わらせるけどね。



「お母さん!!!」


 母親の姿が見えたのかおんぶしてるお兄ちゃんが耳元でバカでかい声を出しやがった。もし大人だったらぶっ飛ばしてたレベルだぞ!

 しかし今回は生死の境からの感動の再開。大目に見てあげよう。

 お兄ちゃんはおれから飛び降りて母親の元へ走った。



「コーダ!ファイ!うぅ…ごめんね…怖かったね…」


「お母さん…うわ~ん!」


 あらら…母親を見て感情が爆発しちゃったな…。



「ん…お兄ちゃん誰?」


 あっ妹も起きたな。グッドタイミングだ。



「冒険者だよ。ほらお母さんがいるよ行っておいで。」


「あっ、ママ!」


「ファイ!よかった…怪我はないのね?」


 そろそろ消火も終わっただろう。おれが面倒みるのもここまでだ。そろそろ次に行かないとな。



「じゃあそこの冒険者さん、この家族を商業ギルドに避難させてあげてください。おれはまだやる事があるのでお願いします。」


「あ、あぁ…」


「冒険者ユウキに言われて避難しに来たと言えば警備も疑わずに通してくれるじゃろう。」


「ちょっと待って、なんでわざわざおれの名前を出すんですか?ギルマスに言われて来たでいいでしょうよ!そっちの方が普通でしょ!」


「あれだけの演説をしたんじゃ。君の名の方が住人の不安も和らぐはずじゃ。

頑張ってくれと願っておる所に助けられた人が目の前に現れたらそれだけで希望が膨らむもんじゃ。

これも街の為じゃよ主人公ユウキ。」


 このババァ調子に乗りやがって…こんな事がキッカケで今後便利屋みたいな扱いになったらどうすんだよ!

 はぁ、でも自分でさっき主人公になりきるって言っちゃったしな…




「ま、街の為なら し、仕方ないですね…冒険者さんお願いします。でも別に名前なんか言わなくても避難できると思いますよ。名前なんか言わなくても避難できると思いますよ!」


 大事な事なので2回言ました。マジで名前なんか出すなよ!面倒臭い事になったらお前ぶっとばすからな!

 一度上がった好感度が下がった時の周りの人間の容赦の無さはエゲツないんだからな!

 おれが主人公補正で行動してんのは1時間限定なんだからな!



「ギルマス命令じゃ。ユウキに助けられた事を商業ギルドで話してあげなさい。」


「このロリババア…言わせておけば好き勝手言いやがって…」


「!!! おい!急げ!ここから離れるぞ!アイツは禁忌を破った!ここは死地になる!巻き込まれるぞ!」


 冒険者は助けた家族を連れて急いで離れて行った。死地って禁忌って…ププーッ!例え厨ニかよ。



「ユウキ!」


「なんですか?時間がないので戦いませんよ。」


「ロリババアとはなんじゃ?」


 えっ?そこ?気になったのそこなの?空に逃げるつもりだったけど必要なくなったかも。



「前世での褒め言葉です。ロリババアとは存在がほぼ皆無な選ばれたババァだけに許される特別な称号です。

ギルマスは条件を満たしているので立派なロリババアですよ。

前の世界だったらある意味伝説になってたでしょうね。」


「儂が伝説?なんじゃワクワクするのぉ!君の前の世界に行ってみたくなったわい!」


「……辞めましょうかこの話。誰も幸せになりませんよ。」


 ギルマスが日本に行ったらって考えたけどバッドエンド待ったなしだ。

 殴っただけでアウトなあの世界でデストロイヤーなんて戦闘狂を放り出したら指名手配犯になる事間違いない。

 だってババァって言っただけで殺しにかかってくるんだよ?簡単に盗賊の首ポッキするんだよ?

 問題を起こさないなんて無理だし、能力が高い分めちゃくちゃ逃げそうだし、こっちの世界ではギルマスでも向こうでは犯罪者だよ。



「なんじゃよ、君から言ってきたくせに…」


「ギルマスが変な事言うからでしょ!急いでるのに余計な事…ッ!絞め殺せウッドゴーレム!」


 盗賊を外に出したウッドゴーレムにだけ命令を出して盗賊を絞め殺した。



【テイマーの熟練度が8に上がりました】

【テイム確率がアップしました】



「どうしたのじゃユウキ?」


「ホークとリッシュがたくさんのモンスターに囲まれてます!サマナーが行動に出たんでしょう。他の盗賊は後回しにしておれはホーク達を助けに行きます!

ギルマスは残りのこれから表に出てくる盗賊をお願いします!」


 おれはファンネルに乗りホーク達の元へ向かおうとしたが…



「ユウキ!儂も連れて行くんじゃ!」


 ギルマスが後ろからおれに掴まってきた。



「ちょ、あぶねッ!何してんだよ!」


「君は離れててもウッドゴーレムで盗賊を殺れるんじゃろ?それならば儂も一緒に行ってモンスターを倒す方が役に立てるじゃろう!」


 なるほど一理ある。変装盗賊より確認のいらないモンスターの方が戦えるからそっちに参加したいのかな?



「わかりました。でも一秒もおしいのでこのまま行きます!落ちても知りませんからね!」


「なぁに、落ちる時は君諸共じゃよ。地獄の沙汰まで道連れじゃ。」


「ふざけんな!一人で勝手に落ちろ!」












 〜ホーク&リッシュside〜



「クッソ〜!倒しても倒してもキリが無いよ!」


 あの盗賊色んなモンスターをどんどん出してくるから終わりがないんだよね。MPも気にしなきゃいけないからスキルも簡単に使えないし…



〈ブヒャー!〉



「うわっと!危ないな!素材を残さないモンスターなんて呼び出さないでよ!倒しても意味ないじゃん!」


 あのサマナーはモンスターを出しながら離れちゃった。場所はわかるけどモンスターのせいでいけないよ。



〈キュキュー!〉



「ありがとうリッシュ。疲れてない?」



〈キュキュー!!!〉



「そっか!よかった!疲れたらちゃんと言うんだよ?」



〈キュー!〉



「でもおかしいよね…モンスターがなんで全部の道からも来るんだろ…あのサマナー盗賊はあそこにしかいないのに」


 前も、後ろも、右も、左も、四方向全部からモンスターは湧いてくる。多分倒した分を除いて今だけでも100体はいるんじゃないか?




〈キュー?〉



〈クマー!〉



〈ピー!〉



「あ〜もう!鬱陶しいな!話もゆっくりできないじゃん!」


 一気に倒したいけどあの盗賊の狙いはリッシュだし、スパイラルストライクを使っちゃうとリッシュから離れちゃうもんな…



「とにかくなんとかしないと…」



〈キュキュー!〉



「えっ?リッシュに任せるの?」



〈キュー!〉



「でもどうやって?」



〈キュキュー!〉



「ブレス?」



〈キュー!〉



「う〜んでも街を壊しちゃダメなんだよ?できる?」



〈キュ〜……キュ!〉



「ホントに?凄いねリッシュ!じゃあ火より水の方が安全そうだからウォーターブレスにしようか?」



〈キュー!〉



「よ〜しじゃあリッシュ、ウォーターブレスだ!」



〈キキュー!!!〉



 リッシュのウォーターブレスがドバーッと出てモンスターをブワーッて吹き飛ばした。



「リッシュスッゲー!一杯倒したのに街も壊れてないよ!」



〈キュキュー!〉



「あっ!また増えたね…」


 倒しても倒しても増えちゃうよ…こんなのどうしたらいいの?



〈キュキュー!〉



「えっ?マップ?あっ!」


 リッシュがマップを見ろって言ってきたから見たらユウキがこっちに来てる!きっとおれたちがモンスターに囲まれてるのに気付いて助けに来てくれたんだ!



「リッシュ、ユウキがすぐに来てくれるよ!」



〈キュキュー!〉



 なんだろう、ユウキが来てくれるってわかっただけで凄く力が湧いてくる。頑張ろうって思える。



「リッシュ!もう少しだよ!頑張ろうね!」



〈キュキュー!!!〉

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る