第150話 なりきり師、応援される。

 簡単に盗賊達から聞き出した事をギルマスに歩きながら話し、原因がリッシュを狙っての事だった事を伝えた。

 そしてギルマスと商業ギルドを出ようと出口に向かおうとしたら呼び止められた。



「ユウキ様!」


「ガッツさんどうしました?」


「このような時に大変勝手なのですが私を店まで連れて行っては貰えませんでしょうか?」


 どうしたんだろ?なんか切羽詰まった感じだな…



「一番商店にですか?」


「はい。ギルドにあれだけの数の盗賊がおりましたので店の方が心配で…

モンスターの襲来だと思い従業員共々ギルドに避難しておりましたが盗賊まで出るとなると責任者として店の様子が知りたいのです…。」


 あぁそう言う事か…まぁそりゃそうだよね。街で一番と言われてる一番商店なら盗賊も狙うだろうし……ってかいるし。

 ガッツさんは何故かおれたちをVIP客にしてくれてるし、今後の事を考えるとここで一番商店に恩を売るのも悪くない。けど…



「ガッツさん、お店をやってるあなたの心配はおれにも十分理解できます。でもごめんなさい。連れては行けません。」


「お邪魔は致しませんので、謝礼もキチンとお支払い致しますので…どうか…。」


「ガッツさん、あなたの店に恐らく盗賊はいます。この手薄になった状態の街一番の商店に盗賊が目を付けないとは考えられません。」


「それなら…」


「だからこそ連れて行けません。時間が無いのでこれからキツイ事を言いますごめんなさい。ハッキリ言うと邪魔です。

正直言って誰かを守りながら戦うのは数倍神経を擦り減らします。この緊急事態にあなたを守りながら戦う余裕はありません。だからここにいてください。」


「そう…ですか……」


「ガッツさん、おれは今あなたに酷い事を言っている自覚があります。自分の店に盗賊がいるのに何もせずにここで待ってろなんて商人にとって酷でしかありませんから。」


「でしたら…」


「壊された物は直せないかもしれない。無くなってしまった物も元に戻せない。この騒動が起きる前に時間を戻す事もおれにはできません。

だけどこれからの被害は絶対に防いでみせます。新人冒険者の言葉なんて信用するのは難しいかもしれません。でも信じてください!」


「ユウキ様…」


「だからおれに時間をください。3時間…いえ、1時間でこの街にいるモンスターと盗賊を全滅させます。

1時間後には必ずこの街の安全を取り戻す事を約束します。また笑って歩ける街を取り戻す為に1時間だけどうか安全なここで待っていてくれませんか?」


「……私とした事がお恥ずかしい…。この年になっても自分の事しか考えられないとは…」


「何も恥ずかしい事なんてありませんよ。ガッツさんにとってお店がそれだけ大切な物なんですよ。不安になって当然です。

今、街の人達は皆同じように不安なんです。自分の家族が、家が、店が、大事な物が心配な人達ばかりです。

だからおれは冒険者として物理的に、ガッツさんは商人として戦略的に街を救いましょう。この少ない時間でこれから街に何が必要なのか、どうすれば街の人が助かるのかを従業員の皆さんと考えてみてください。」


「商人が戦略的に街を救うですか……そんな事今まで考えた事もございませんでした。ユウキ様、私達商人も街の為に戦えるのでしょうか?」


「当然です。冒険者には冒険者の、商人には商人の戦い方があるはずです。このピンチをどうチャンスに変えれるかが商人の腕の見せ所ですよ!」


「ユウキ様……いえ、長話は不要でございますね。どうかよろしくお願い致します。街に平和を取り戻してください。」


「はい!任されました!行ってきます!」


「どうかお気を付けて。よろしくお願い致します。」


「お兄ちゃん!頑張れー!」


 さっき盗賊に人質にされた子が大きな声で応援してくれた。と言うより皆こっちを見てる…もしかして話聞いてたのか?ガッツさんに集中してて全然気付かなかった…



「平和な街を取り戻してください!」


「モンスターも盗賊もやっつけて!」


「私達は戦えないけど応援してます!」


「おれも応援してるぞー!頼んだぞ冒険者ユウキー!」


 こんなにたくさんの人達からの応援は久しぶりだな。ふぅ、これはもう頑張るしかなくなったな…。



「ヘヘッ、行ってきます!」


 商業ギルドを出て再びおれは戦いに戻った。



「ユウキよ、思わぬ人気じゃな?主人公的行動はしないと言っておいて今の君は丸っきり物語の主人公のようじゃ。」


「フッ…舐めないでください。前世から超絶人気者のおれにはあれでは少なすぎます。おれが満足するにはあと100万倍は必要ですよ。」


「欲深いのぉ…」


「でも、ヤル気はみなぎりました。今日だけは街を守る物語の主人公になりきってあげますよ。

それよりギルマス、ハードモードに時間制限が付いてベリーハードになりましたけどついてこれます?」


「じゃから誰に物を言っておるんじゃ!儂もギルマスとして新人にばかりいい格好をされるわけにもいかんからのぉ。お互いに本気でいこうかの…。」


「本気を出したおれは自分でも思う位スーパー理不尽ですよ?ギルマスに出番が残ればいいですけどね…。

ウッドゴーレム!近くの盗賊を引きずり出せ!」


 このクルーシェの街は円形に出来ていて、今いる東側にはまだモンスターも盗賊もいる。

 ホーク達はおれたちの泊まっている宿のある西側からギルドのある北側に向かって盗賊を倒して頑張っている。

 南側には何故かモンスターも盗賊もいないが、まぁいないならスルーでいいだろう。おれたちも北側を目指そう。



「さぁ殲滅タイムの始まりだ!」








 〜ホーク&リッシュside〜



「リッシュ!建物が壊れないように優しくウォーターブレスだ!」



〈キュー!〉



 リッシュのウォーターブレスが弧を描いて燃えている家を消火する。

 モンスターがいるにも関わらず多くの人が水をかけてたけど全然消火できてなくて、リッシュに聞いたらできるって言ったから頼んじゃった。



「リッシュ凄ーい!あっと言う間に火が消えちゃったよ!」



〈キュキュー!〉



「ドラゴン…」


「君ありがとう!僕達じゃ全然ダメだったんだ。」


「本当にありがとうございます!」


「頑張ったのはリッシュだよ!それよりここは危ないよ!冒険者ギルドが近くにあるから皆そこに避難してよ!場所はわかる?」


「冒険者ギルドだね?勿論わかるよ。おい皆行くぞ!」


「あっ、ちょっと待って!」


 モンスターが4体こっちに向かってきてる。先に倒さないとこの人達じゃ倒せないかもしれない。



「ギャザーウルフかぁ!久しぶりだな。リッシュあれは1体だけ残しちゃうと仲間を呼んじゃうんだよ!

だから倒す時は一気にやるんだよ!見ててね。」



〈キュー!〉



 ギャザーウルフは嫌って程戦ったんだ。おれ一人でも倒せるもんね!


 まず2体は普通に倒しても何も起こらないから普通に倒そう。スキルは使わなくていっか。

 向かって来るギャザーウルフにおれも向かって行き2体同時に斬った。



「あれ?こんなに弱かったっけ?まぁいいや!」


 残りは2体。前と同じで1体だけは少し離れている。



「斬撃連波!」


 前は苦労したけど今は遠距離攻撃あるもんね〜!離れてたって倒せちゃうよ!


 同時じゃないけど仲間を呼ぶ前に4体目にも斬撃連波は当たった。でも相変わらずこの街のモンスターは消えて無くなっちゃう。



〈キュキュー!〉



「凄い…モンスターがあっと言う間に…」


「これで大丈夫だよ!でもモンスターがまた出ちゃうかもしれないから急いでギルドに行ってね!」


「何から何までありがとうございます!よければ名前を教えてください。」


「名前?ホークです!この子はリッシュ!」



〈キュキュー!〉



 そう言えばリッシュが挨拶したらユウキ褒めてたな。おれも褒めちゃおう!



「リッシュちゃんと挨拶できたね!偉いぞぉ!」



〈キュキュー♪〉



「ホークさん、リッシュさん、本当にありがとうございました。僕達には何もできないけど街の事をお願いします。」


「うん!でも多分この騒ぎももうすぐ終わるから安心してね!ユウキが動きだしたんだ!」


「ユウキ?」


「うん!おれたちのリーダーだよ!」



〈キュキュー!〉



「めちゃくちゃ強くて優しいんだ。この騒ぎだってすぐに終わらせちゃうよ!」


「そんなに凄い方なら僕も是非あってみたいですね。」


「この前ユウキが名を上げるって言ってたからすぐに街にも広まるよ!じゃ、おれたちまだまだ戦うから気を付けてギルドに行ってね!」


 街の人達を見送り、気合いを入れる。



「隠れても無駄だよ!そこにいるのはわかってるからね!」


 マップ内で近付いてきた盗賊がいる事は気付いてたけど何もしてこなかったから街の人が離れるまで放置してたんだ。


 でももう街の人も離れたしさっさと倒そう。



「隠れてた訳ではないですよ。自分は近距離戦が苦手でして…。見事なお手並みでした。冒険者ホーク。

そう警戒をしないでください。自分は敵ではありませんよ。」


「敵じゃない?」


「そうです。自分も街の為にモンスターを倒して回っているのですよ。」


 絶対嘘だよ。だって☆マークのついてる奴だもん!ユウキのマップ内検索は騙せないんだ。



「それならなんでおれたちを隠れて見てたの?」


「疑わないでください。言ったでしょう?自分は近距離戦が苦手なんですよ。自分もモンスターを使って戦うサマナーと言う職業なんです。」


「サマナー?」


 サマナーってなんだろ?ユウキのなりきりチェンジでもまだなれないよね?

 聞いた事ない職業だけどコイツは盗賊なのにサマナーだって嘘をついた。敵じゃないって言ったけどそれも絶対嘘だ!

 


「そうあなたのようにモンスターを使って戦うんです。いいですねそのドラゴン。自分もドラゴンが欲しいですね。何処で見付けたんですか?」


「リッシュはユウキの従魔だ!使って戦うなんてユウキは言わない!盗賊のお前と一緒にするな!」


「……おやおや、気付いていましたか。意外と油断ならないようですね…。ですがもうここは自分のテリトリー。逃しはしません。サモンゴブリン!行きなさい!」


 何もない場所からゴブリンが出てきた?もしかしてモンスターをコイツが出した?

 って事はこの街の騒ぎはコイツが原因なんじゃないの?



「リッシュ戦うよ!コイツがこの騒動の犯人だ!」



〈キュキュー!!!〉



「そのドラゴン、自分が貰ってあげますよ。」

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