第149話 なりきり師、拷問する。

 〜ホーク&リッシュside〜



「この調子でどんどん倒すよリッシュ!」



〈キュキュー!〉



 やっぱりあの☆は全部盗賊だった。ユウキもおれたちが倒してる事に気付いてインベントリに回収してくれてる。これなら放っておいても大丈夫だね!



「モンスターだけでも一杯いるのに盗賊もこんなにいるなんてクルーシェの街はついてないね…。あっ!リッシュ次はあそこだよ!」



〈! キュ!〉



「あわわ、どうしたのリッシュ?」


 横を飛んでいたリッシュが急におれの身体を横に押した。



『サクッ!』



 何か音がしたので見てみるとさっきまでおれたちが歩いてた所に何かが刺さっていた。



「ん?弓矢?あっ!もしかしてリッシュが気付いて助けてくれたの?」



〈キュキュー!キュ!〉



「あっ!リッシュ!一人じゃ危ないよ!」


 お礼もまだ言ってないのにバビューンって行っちゃった……



「う〜ん…でもおれ空飛べないよ…。どうしよ…」


 弓矢の方向的にこのちょっと高い場所にいる移動してる盗賊が多分攻撃してきたんだよね…場所はわかるんだけどなぁ…


 そう言えばリッシュがおれたちから離れたのって初めてだ。チェスさんの防具屋さんではちょっと離れただけであんなに鳴いてたのに大丈夫かな?

 なんか怒ってたっぽかったし街中だって忘れてブレス吐いちゃったりしないか心配だな…やっぱり追いかけよう。



「リッシュ〜!待って〜!」


 屋根伝いに移動してんのかな?何軒もの家の上を動いてる。あっ、消えた。



「凄いなぁリッシュ…あっと言う間に倒しちゃったよ。」


 でもどうやって倒したんだろ?ブレスだったらヤバイよ…火事になっちゃう!急いで確認に行かないと!



〈キュ〜キュ!キュ〜!〉



 近付くに連れてリッシュの不安そうな鳴き声が聞こえてきた。やっぱり盗賊に怒ってて自分から離れた事に気付いてなかったんだ…



「お〜い!リッシュ〜!ここだよ〜!」



〈キュキュキュキュー!!!〉



「ワブっ!」


 リッシュに声をかけると一目散に飛んできた。しかも顔に…。ユウキの顔に突っ込んで行くのは見た事あったけど結構苦しいんだねこれ…



〈キューキュ!キュキュー!〉



「ヴィッシュ、おひふいで。」(リッシュ、落ち着いて。)


 僅かな隙間から息をしてリッシュの背中を撫でて落ち着かせる。



「もぶこばくばいよ。」(もう怖くないよ。)


 撫でている内にリッシュのしがみつく強さが弱くなってきて次第に離れた。



〈キュー。〉



「安心した?勝手に離れちゃダメじゃないか。」



〈キュー……〉



「でもありがとう。リッシュはおれを助けてくれたんだよね?リッシュがいなかったら弓矢に打たれてた所だったよ!」



〈キュ…〉



 あからさまに元気がないな…勝手に離れたから怒られると思ってるのかな?



「ねぇリッシュ知ってる?反省できる人は成長できるんだよ!」



〈キュ?〉



「おれも昔ユウキに教えて貰ったんだけど世の中には悪い事をしても反省せずに周りのせいにしたり、無かった事にしたり、そのまま逃げちゃうような卑怯者がたくさんいるんだって。

そう言う嫌な奴は皆から嫌われちゃうんだって。誰からも信用されずに気付いたら一人ぼっちになっちゃうんだってさ。」



〈キュー。〉



「でもリッシュは反省してるよね?だから成長できるんだよ!

次からは離れるのが怖いなら離れなければいいし、それでもおれたちから離れなきゃいけないなら頑張って自分の力で戻ってくればいいんだよ!」



〈キュー?〉



「同じ失敗をしなきゃそれでいいんだよ!今回の反省を次にどれだけ活かせるかでリッシュの成長の度合いが決まるんだ!」



〈キュウキュ…〉



「そう、成長!たくさん失敗してリッシュも大人になっていくんだよ!

おれもユウキも一杯失敗するし、反省もするんだ。これからはリッシュも一緒だね!」



〈キュキュー!〉



「よ〜し!じゃあ気を取り直して頑張ってこの騒動を終わらせよう!」



〈キュキュー!!!〉












 〜ユウキside〜



「ウッドゴーレム、アーマーセット!」


 盗賊達に一人五体ずつウッドゴーレムが装備された。

 まずは頭のヘルム、次いで首のチョーカー、身体のアーマー、腕のアームカバー、足のレッグカバー

だ。

 拘束具なので手足は対で一体で固めてある。手錠の腕全体バージョンみたいな感じだ。



「さて諸君、今回の目的を教えて貰おうかな。言っておくが無駄な抵抗は自分の為に止めておいた方がいい。」


「けっ、誰が言うかよ!例え殺されても何も喋るか!」


「首」


 おれの合図で盗賊達全員のチョーカーが締まる。



「っが…ぐっ!」


「忘れてないか?おれは死んだ方がましだって思える事をするって言っただろ?ガキの戯言とでも思ったか?情報を聞き出す前に殺すわけ無いだろ。はい緩めて!」


「ゲホッゲホ……」


「頭」


 今度はヘルムが頭を締め付ける。



「ぐあぁ!」


「例え非人道的でも街をこんなにしたお前らに手加減するつもりはない。お前らが開放されるとしたらちゃんと話して死ぬ時だけだ。はい緩めて。」


「はぁはぁ…」


「話す気になったか?」


「ペッ!」


 盗賊はおれの顔にツバを吐きかけた。



「目」


 頭と首のウッドゴーレムが上下から瞼と頬を引っ張り瞬きを禁止する。おれはそのまま次の盗賊へ。



「お前あの子を何回刺した?」


「んなもん知るかよ!」


「9回だ。無抵抗の未来ある子供を9回もナイフで刺したんだ。あの子に変わっておれが100倍にして返してやるよ。腹を開け!」


 ウッドゴーレムがお腹の部分だけ装備を解いた。

 おれは盗賊に9回ナイフを突き刺した。



「ガハッ!」


 当然だけど出血し吐血した。だけどこんな物で終わらせはしない。



「ヒール」


 ヒールで盗賊の傷を元に戻した。



「刺されたら痛いよな?それをお前はあの子にしたんだよ!話さないならあと99セットやってやるから覚悟しろよ!」


「ヒッ…」



 これから起こる苦痛を想像したのかガクガク震えだしたがおれは次の盗賊へ。



「私は何もしてないの!盗賊なんかじゃないの!」


「そんな答えが聞きたいんじゃない。目的を言えって言ってんの。女だからって手加減すると思うなよ。」


「私は…」


「おい!やめろ!」


「口」


 4人目の口をウッドゴーレムが塞ぐ。



「続けて。」


「ニック!やめて!ニックが死んじゃう!」


「だから?」


「えっ?」


「続けて。」


「どうしてそんな酷い事ができるのよ!」


「酷い事をしたのはお前達だろ?だから盗賊に落ちたんだろうが!盗賊に落ちるような事をしておいて今更被害者ぶるな!

お前達が今までどれだけの人達を苦しめてきたと思ってるんだ?他人の不幸の上でお前達は甘い汁を吸ってたんだろうが!

楽に死ねると思うなよ!さっさと目的を話せ!」


「……美味しい話があるって、絶対に捕まらないって…グスッ……」


「やめろ!」


「仲間を売る気か!」


「うるさい黙ってろ!」


 ウッドゴーレムが3人目以外の口を塞ぐ。



「今日の明朝にサマナーが街を襲うからそのパニックの内に稼げるって…」


「んーんー!」


「どうしてギルドに来たんだ?」


「容姿の良い子供を攫って奴隷商に売れば金になるから。一軒一軒家探しするより手っ取り早いと思って……」


「サマナーの目的はなんだ?何故街を襲った?」


「それは知らないの!本当よ!嘘じゃないの!」


「この中に知ってる奴は?」


「わからない…もう私が知ってる事は全部話したわ!だから許して!」


「そうか。一周目クリアおめでとう。二週目に期待するよ。その調子でどんどん話してくれ。ダークネス」


「いやー!なによこれ!」


 おれは次の盗賊へ。



「サマナーの目的はな〜んだ?」


「………」


「サマナーの目的はな〜んだ?」


「………」


「プチファイア」


 今のおれがプチファイアを普通に打ったら結構な炎が出ちゃうから相当威力を弱めたプチファイアを打った。それを盗賊の鼻の穴に持っていく。



「あっ、あつ、ッ!やめ…」


「サマナーの目的はな〜んだ?」


「…知らない」


 威力を少し強めて反対の穴に。



「があぁぁ」


「サマナーの目的はな〜んだ?」


「はぁはぁ…」


「ヒール。言わないなら無限に続けるよ?終わりの無い新しい痛みにどれだけ耐えられるかな?」


「化け物が…」


「最近よく言われるよ。でも街を守る見た目人間の化け物のおれと街を襲う盗賊ならどっちがマシかな?街の住人からしたらお前らの方が害悪な化け物だよ。」


「盗賊になった事もないくせに偉そうに言ってんじゃねぇよ!盗賊を語りてぇならお前も落ちてみろよ!そんな度胸ねぇだろ!」


「なりきりチェンジ 盗賊!」


 いつもの戦士の格好から盗賊へとチェンジした。


 武器はナイフとソードの間位の中途半端な長さの剣だった。

 服は獣皮のフサフサベストだけでズボンは七分丈の茶色だった。変なドクロのバックルのついたベルトもしていた。

 そして頭にはバンダナを鉢巻きみたいにつけていた。



「で?盗賊に落ちたけど、これなら盗賊を語っていいんだなマイフレンド……えっ?」


 なんだマイフレンドって…口からポロッと出たけど友達のつもりなんて1ミリもないんだけど…



「死に晒せぇ!」


 そんな訳のわからない現象に戸惑っていると突然ギルマスが後ろから襲ってきた。 



「ちょ、ばっ!何やってるんですか!危ないでしょ!」


「ユウキ!貴様何をしたのじゃ!」


「何って、ちょっと盗賊になっただけですよ!」


「ユウキ、貴様が憎くて憎くてたまらん!まるで親の敵のようじゃ!」


「親の敵ってパピーもマミーも生きてるでしょ!あぁもう!なりきりチェンジ テイマー!」


 なりきりチェンジで盗賊からテイマーに逆戻りした。



「はっ!ユウキ、すまぬ…。儂はなんて事を…」


「気にしないでください。どう考えても悪いのはおれですよ。すいませんでした。

多分おれが盗賊になったせいです。盗賊も奴隷の時みたいに制約がある職業なんだと思います。」


「制約?」


「はい、奴隷の時もかなりキツかったんですけど盗賊も中々ヤバそうですね…。」


 相手がギルマス一人でよかった…もしメルメルで三人の前で盗賊になってたりしたら死んでたよ。


 そう言うのがあるなら教えておいてよプライ…



「でも今それが知れてよかったです。急にホークとリッシュに襲われてたらいくら心が強いおれでも立ち直れない所でした。」


「儂なら問題ない言い方じゃの?」


「2回目ですからね…。それよりギルマス、少しの間だけ外に出て貰えますか?もう一度盗賊になります。」


「大丈夫なのかい?」


「大丈夫ですよ!寧ろこの状況で心配する事あります?傷一つ負いませんよ。」


「そうではない。儂は君の心が壊れてしまわないかが心配なのじゃ!

儂にはさっきからずっと君が無理をしてるように見えるぞ!」


「無理なんてしてませんよ…。おれはもう覚悟を決めましたから。中途半端な覚悟では誰も守れませんからね…。」


「…わかった。5分じゃ!5分したら戻るからの?」


「十分です。声だけでもさっきみたいになるかもしれませんから、この防音リングを使います。静かでも覗かないでくださいね。」


「わかった。」


 そう言ってギルマスは解体場から出ていった。



「なりきりチェンジ 盗賊」


 再び盗賊にチェンジして盗賊へと向かい合う。おれは5人目の盗賊へ。



「お前本当は盗賊だったのか?どう言う事だ?何故落ちたのに上がれるんだ?」


「質問してるのはおれだろ?そろそろサマナーの目的を教えてくれよ?本当はおれだって仲間にこんな事したくないんだよ。」


 やっぱり変だ。盗賊になってから急にコイツらに仲間意識が芽生え始めてる。



「それは本当に知らないんだ!嘘じゃねぇ!」


「ウォータークリエイト」


「ブフォ…」


 おれはウォータークリエイトを使って盗賊を溺れさせた。



「おれの聞きたい答えはそんなんじゃないんだよ。仲間にこんな事させないでくれよ。辛いのはお前じゃない。おれなんだよ。」


 ウォータークリエイトを解いて息をさせる。



「ゲホッゲホッ…本当に…知らないんだ!おれは頭にいい話があるって言われただけなんだ!」


「頭?ソイツは今何処にいる?」


「貴族街だ!貴族街に潜入している。」


「名前は?」


「ドットスだ。シーマって貴族の護衛として働いている。」


 貴族の護衛が盗賊ねぇ…世も末だな。その盗賊が優秀なのか、貴族がポンコツなのか…



「さぁ、一人ずつ一周目が終わった所だけど話す気になったかな?

まだまだ序の口。早く話さないとこれからもっともっと酷い目に合うことになるぞ?」


 全員の前を歩き一人目に戻った。



「ふ〜。そんなに泣くなよ。ふ〜。」


 一人目は瞬きを禁止したからダラダラ涙が出ている。目が乾くと辛いだろうな。なので息を目に吹きかけた。



「そんなに刺されるのが怖いか?残り98セットだ。安心しろ。絶対に死なないから。ヒール」


 二人目に9回ナイフを刺し、にっこり笑って回復してあげる。



「ライトボール。真っ暗闇と真っ白な世界を交互に繰り返したら何回目で気が狂うのかな?」


 三人目のダークネスをライトボールに変える。



「ファイアボール。これじゃ鼻だけ狙うのも無理だと思うだろ?それができるんだよ。」


 ファイアボールの形を棒状に変える。さっきの非じゃない強さの火が4人目の鼻に襲いかかる。 



「ウォーターショット。知らないなんて認めない。この騒動で何人死んだ?どれだけの人が傷付いた?何故善良な住人が怖い思いをしなきゃいけないんだ?」


 ウォーターショットを顔の下半分に覆わせた。息をしたいなら飲むしかないぞ。


 二週目は誰の言葉も聞かず淡々とこなしていった。



「時間がないんだよ兄弟!辛い目にも合わせたくないんだ。ここらで素直に話してくれよ。

話してくれなきゃもっと酷い事をしなきゃいけなくなるんだ…。サマナーの目的はなんだ?」


「瞬きを!瞬きをさせてくれ!頼む!目が!」


「それはお前次第だ。話せば終わる。話さなきゃ終わらない。限界を迎える前に回復してやるからその時はまた一から地獄が繰り返す。

その地獄は一周する度に辛くなる。死んでも話さねぇだっけ?これからの地獄の時間を考えれば今死んだ方がよっぽど楽だよ。」


「…ガキだ。」


「ガキ?」


「ドラゴンを連れたガキがこの街にいるらしい。」


「は?」


「ドラゴンを手に入れる為にアイツが街を襲いそのガキを炙り出す予定だった。その間おれたちはやりたい放題。

家探しするもよし、人攫いするもよし、ドラゴンを連れて行けば更に金を払うと言っていた。」


「……そんな事の為に街全体を巻き込むこんな事をしたのか」


「おれたちは金さえ手に入ればそれでよかった。」


「どこまでも救えないクズ共が!スラッシュ!」


 おれは盗賊の首をハネた。



【盗賊の熟練度が2に上がりました】

【スキル ピッキングを覚えました】


【盗賊の熟練度が3に上がりました】

【スキル 逃走を覚えました】



「ヒッ!」


「なりきりチェンジ テイマー お前らにもう用はない。死ね。」


 ウッドゴーレムが残りの盗賊を締め上げた。



【テイマーの熟練度が7に上がりました】

【スキル スリープを覚えました】



 盗賊達の始末を終えたおれは解体場を出た。



「ユウ…」


「アイツらの目的がわかりましたよ。ちょっと滅ぼしてきますね。」


「ちょっと待つんじゃ!ちゃんと説明しなさい!この短い間に何があればそんな顔になるんじゃ!」


「そんな顔?」


「今の君は誰がどう見ても鬼の様な怖い顔をしておる!少し落ち着きなさい。中で何があったのかちゃんと話すんじゃ!そうでないと儂もここを行かせられん!」


「邪魔するんですか?」


「例え命に変えても若者の世話を焼くのが年寄りの務めじゃ!かかってくるがよい。」


「いきませんよ。バカなんですか?おれが闇堕ちでもしたと思いました?」


「あら?」


「確かに今おれは怒ってますけど、心配してくれる人に対して攻撃する程愚か者ではありませんよ。

ただ急いでる事は間違いないので歩きながら説明します。行きましょう。」


 メルメルのギルマスにまた過保護だって言われるんだろうな。でもこのままではホークとリッシュが狙われる。助けに行かないと。

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