第143話 なりきり師、調査報告する。

「ユウキ!起きてよ!ねぇユウキ!」


「ッ…んん?どうしたホーク?あれおれ寝てた?」


 そう言えば死の穴から出て安心したら気が抜けちゃったんだっけ?



「よかった…早く逃げよう!急いで!」


「逃げる?一体何から逃げ…」



『ザザザザザ!』



「えっ……」


 目の前にいたはずのホークが突然消えた…。いや、おれは見えた。見えていた。



「ホーク!!!」


 すぐにホークの元に向かう。ホークは横から何かが飛んできてそれに吹き飛ばされたんだ。

 近付くとホークの身体には大きないくつもの鱗が刺さっている。ホークは血塗れになって全く動かない。



「大丈夫だぞホーク!すぐに治すからな!ハイヒール!あれ?なんで…ハイヒール!ヒール!」


 ハイヒールもヒールも使えない…



「そうだポーションなら…」


 だが何故かインベントリも発動しない…。



「ふざけんなよなんだよこれ!リッシュ!…リッシュ?」


 いつもならすぐに返事をするはずのリッシュの返事も無い…。


 そこで初めておれは死の穴の方を向いた。



「何やってんだテメェ!!!」


 そこにいたのは石化したリッシュとそれを大口を開け中で転がし遊んでいるモンスターだった。


 六本脚で銀の鱗に包まれた黒い棘の生えた蛇の様な蜥蜴の様なモンスター。

 コイツは死の穴にいたネオバジリスクだ。



「ライトニングボルト!グラビティプレス!クソッ!」


 何がどうなってんだよ…スキルが何も発動しない…このままじゃホークとリッシュが……

 おれがモタモタしている内にネオバジリスクはリッシュを転がすのを辞めた。まさか…


「ヤメローー!!!」


 

『バギボギバキ……』



 ネオバジリスクは無数に生えた鋭い歯で石化しているリッシュを噛み砕き飲み込んだ。



「うわぁぁぁ!奥義・スターライトノヴァ………何で出ないんだよ!」


 スキルが全く使えない。リッシュが食べられた?ホークが死んじゃう?

 なんだこの状況…夢か?夢なら早く覚めろよ!


 だけど



「例え夢でもお前は許さない!ぶっ殺す!」


 だが身体が思うように全然動かない。全力のはずなのに普段の動きが全くできない。

 ネオバジリスクに近付けば近付く程身体が重くなる。



「クッソ…なんだよこれ…」


 許せないのに…今すぐにでもぶっ飛ばしたいのに……



「ホーク、リッシュ……ごめん。」


 目の前に走ってきたネオバジリスクにおれは食われた。





「ハッ!!!ハァハァ……」


「ユウキ大丈夫?凄くうなされてたよ?」



〈キュー?〉



 ホークとリッシュが心配そうにしながら声をかけてくれた。思わずおれは二人を抱き寄せた。



「ユウキ?痛いよ…どうしたの?」



〈ギュッ!ギュー…〉



「よかった…。本当によかった……」


「…怖い夢でも見た?大丈夫だよ。落ち着いて。」


 ホークが背中を撫でてくれる。リッシュが苦しそうにしながらも顔を舐めてくれる。



「あっ…ごめん…」


 ホーク達を離しおれは風景の違いにやっと気付いた。



「ここは?」


 おれはどこかの部屋でベットに寝ていた。ダンジョンではない事は確かだ。



「ギルドだよ!ユウキが倒れちゃったからリッシュと協力して急いで帰って来たんだ!」



〈キュキュー!〉



「ギルド…そっか…。ごめんな。大変だっただろ?」


「ううん、全然平気だったよ!」



『ガチャ』



 部屋の扉が開きクルーシェのギルマスが入ってきた。



「どうやら目が覚めたようじゃの?」


「すいません。お手数をおかけしました。」


「構わんよ。しかし君がそこまで謙虚になるとはのぉ……」


「世話になったんだから当たり前ですよ。ギルマスの中でおれはどんだけ非常識なんですか…」


「ホッホ…これは失礼したのぉ。なりきり師のユウキ=ノヴァ君。」


 やっぱりおれたちの事を調べにメルメルの街に行ってたのか…

 なりきり師を知ってるって事はあの4人の誰かが教えたんだな…まぁいいけど。



「わざわざそれを聞くためにメルメルまで行くとか暇なんですか?」


「暇なわけ無かろう。でも君が教えてくれないなら他に方法はあるまい。儂がグリードの小僧から聞き出すのにどれだけ苦労したと思っておるんじゃ?」


「知りませんよそんな事!ってか人のプライバシーを勝手に調べないでくださいよ。ハードストーカーですか?」


「失礼な!誰がストーカーじゃ!これからは調べられるのが嫌ならやんちゃな事は控えるんじゃな!」


「おれ自分から何もしてないんだけど…」


「そんな事は今はどうでもよい!とにかく君がやってきた事を儂は知っておる。観念するんじゃな!」


「観念するも何もメルメルのギルマスが教えたんでしょ?誰かに話さないなら別にギルマスなら知られても構いませんよ?

一応事情を知ってる味方がいる方がおれたちも動きやすいんで。

それにもし誰かに教えたとしても、おれには調べる方法があるんでその場に応じた適切な対処をしますしね。」


「ぐぬぬ…グリードの小僧の言う通りじゃな…少しは動揺するかと思うたのに小憎たらしいことよ…。」


「すいませんね。アンチ行為には他の人より数倍慣れてるんですよ。その上便利なスキルがたくさん増えて大体の事なら自分でなんとかできるようになっちゃたんで、おれの中で脅しとか嫌味は無に等しいです。

ってかそんな皮肉を言いに来たんじゃ無いでしょ?知りたいんでしょ?死の穴の情報。」


 多分ギルマスの事だからホークにも話は聞いたと思うけどホークも知らない事は多いからな。



「今度は教えてくれるのかのぉ?」


「元々そう言う依頼ですからね。おれたちもすぐに逃げ帰ったんで全てを解き明かしたわけじゃ無いですけど…」


「構わぬよ。報酬は弾むと約束しよう。話しておくれ。」


「わかりました。」


 おれは地下10キロまである事、レベルやステータスが異常に高いバジリスク達がいる事、そしてモンスターで溢れかえってる事をギルマスに伝えた。



「まさかその様な場所とは…にわかには信じられんが、嘘では無さそうじゃの?」


「なんなら証拠も出せますよ?囮の盗賊の死体もありますし、ドロップアイテムもちゃんと回収してますんで。」


「えっ?ユウキあの大変な時にそんな事もしてたの?」


「ドロップアイテムの回収なんて一瞬だからな。」


「それは是非とも見せて貰いたいのぉ。勿論、盗賊の死体も買い取ろう。」


「わかりました。」


 石化している盗賊、毒でジュクジュクになった盗賊、顔や手が無くなった盗賊、バジリスクの鱗皮りんぴをインベントリから出しギルマスに見せた。


 盗賊の方は思ってた以上にグロくて耐性が無い人が見たら吐いちゃうだろうな。



「これはなんともまぁ……盗賊はこちらで引き取ろう。この素材は売って貰えるのかのぉ?」


「いいですよ。あと7体分あるので半分の4体分を売る事にします。」


「それはありがたいのぉ。それだけの数があれば通常のバジリスクとの素材と比較もできそうじゃ。

それと報酬の方じゃが申し訳ないがすぐに決定できそうにない…。少しだけ待ってはもらえんだろうか?」


「わかりました。おれも疲れてるんで今日はもう帰りたいです。ホークもそれでいいか?」


「うん!おれも疲れた。」


「わかった。必ず公正に査定して近日中には報酬を渡せるようにすると約束しよう。」


「よろしくお願いします。」


「お願いします!」



〈キュー!〉



 死の穴探索は今のおれたちでは無理だった。だけどいつか必ずリベンジしようと思う…。

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