第142話 なりきり師、全力を出す。
「ホーク?気分が悪くなったりしてないか?」
「うん全然平気だよ!」
「そっか。なにかあったらすぐに言うんだぞ?我慢しちゃダメだからな。」
「うん!」
それにしても本当に何も無い。モンスターが出て来る気配も無いし、盗賊達がトラップにかかった様子も無い。
多分もうギルドが行ったって言ってた3キロは越したけどそれでもまだ何も無い。
「それにしてもこんなに続く縦穴ってどうなってんだろうな?階層ぶっ飛びパターンかな?」
「ね、どこまで続いてるんだろうね?」
「マップでちゃんと道が続いてるからループ説も無いし…ダンジョンって本当に不思議な場所だな。」
それからしばらくの間結局何も起こらなかった。だが、降りてから約10キロの所で変化があった。
「ホーク、マップが変わった!広い空間に出るぞ!」
100メートル先で穴が終わりマップが広がった。
今現在もマップが更新されてるので地面では無いがこれでやっと調査らしい調査ができそうだ。
「う〜ん…でも下見ても真っ暗で何も見えないよ…」
「ホーク、危ないからあんまり顔出すなよ落ちちゃうぞ!……っはっ!?」
「どうしたのユウキ!?」
「なんだよこれ……」
マップを見て驚愕してしまった。そこに映されたのは地面一杯に広がるモンスターの赤い点だった。
リトルデススパイダーの比ではない。広い床一面
全てがモンスターで一杯だ……
「ヤバい!鑑定!」
バジリスク
レベル53
HP1932/1932
MP260/260
攻撃591
防御928
魔攻269
魔防574
俊敏357
幸運213
弱点 光
耐性 闇 毒
スキル
石化視線
バジリスクファング
毒玉
ネオバジリスク
レベル66
HP3346/3346
MP511/511
攻撃1141
防御1533
魔攻442
魔防831
俊敏570
幸運316
弱点 光
耐性 闇 毒
スキル
石化熱線
バジリスクファング
猛毒玉
ホーミングスケイル
これはダメだ。とてもじゃないけどこんな所に降りていけない。こんなレベルのモンスターが地面一杯にうじゃうじゃいるとか無理に決まってんだろ!
レベルとステータスどうなってんだよ!ふざけんなよ!バカじゃねぇのか?
その時先行させてた盗賊が急に全員マップから反応を消したと同時に筏にも凄い衝撃が走った。
一瞬だった…。まだあんなに遠いのに…一瞬で命が刈り取られた。次はおれたちだ……ゾッとする恐怖を押し殺し盗賊達をインベントリに入れ、大急ぎで逃げる事にした。
「物理結界!ホーク!攻撃されてる!落ちないようにしっかりおれに掴まれ!」
「うわっ!うん!」
物理結界がすぐに壊され筏も徐々に壊れ初めている…。
「リッシュ、下に向かって思いっきり全力でファイアブレスだ!」
〈キュキュー!!!〉
リッシュのファイアブレスが敵の攻撃を巻き込みながら地面に届くがダメだ倒せてない。距離が遠すぎて威力が下がってるんだ…。
「リッシュありがとう!おれにしっかり捕まるんだ!」
〈キュー!〉
「奥義・スターライトノヴァ!からのグラビティプレス!」
全力のスターライトノヴァを使いバジリスク達に向かって飛ばした。
それをグラビティプレスで重力を与えて落下の威力をアップした。これで少しだけでも攻撃が止めばいいが…
「ホーク、リッシュ、攻撃は受けてないか?今から全力で上に飛ぶぞ!ちょっと苦しいかもしれないが我慢してくれ!」
「うん!わかった!」
〈キュー!〉
「グラビティプレス!」
上に向かって重力をかけおれたちは筏ごと上に向かって落ちた。
その時さっき放ったスターライトノヴァが地面に到着したのか下で物凄い爆発が起きた。
【空間支配者の熟練度が4に上がりました】
【空間支配者の熟練度が5に上がりました】
【空間支配者の熟練度が6に上がりました】
【空間支配者の熟練度が7に上がりました】
【空間支配者の熟練度が8に上がりました】
【スキル
【テイムモンスター リッシュのレベルが3に上がりました】
【テイムモンスター リッシュのレベルが4に上がりました】
【テイムモンスター リッシュのレベルが5に上がりました】
【スキル ウォーターブレスを覚えました】
【テイムモンスター リッシュのレベルが6に上がりました】
なんだこの爆上がり…空間支配者だぞ!エンシェントドラゴンだぞ!
まさかあのレベルのモンスターを倒せるとは思ってなかったな……って今はそんな事考えてる暇はない。
重力が上に向いてるので潰されるような事はないが上に落ちるってのは変な感覚だ…。
「ホーク、リッシュ、大丈夫か?気分悪くないか?」
「大丈夫!」
〈キュキュー!〉
光の無い周り全てが闇に包まれてるこの穴でマップを頼りに真っ直ぐ上がってるがバジリスクは追ってきてない。飛べないモンスターで本当に助かった……
あれ?なんでおれマップが見えてるんだ?辺りは真っ暗なのにちゃんとわかるぞ?ってだから今はそんな事どうでもいい!
「このまま地上まで一気に行くぞ!絶対に離れるなよ!」
「うん!」
〈キュー!〉
ホークはおれの腰辺りを、リッシュはおれの頭を掴み、おれは全速力で上を目指す。
追手は来ない。だけどおれもあの極限状態でギリギリだ。今ここで集中力を切らせば死ぬのと同じだ。なんとしてでも地上に行かなければ…
それから10分。時間が長く感じ、永遠に続くのではないかとさえ思えた死の穴の終わりがようやく見えてきた。
「ユウキ、あれ!光だよ!」
「あぁ見えてるよ。ホーク、リッシュ、もうちょっとだからな…。」
遠くに見える空に輝く星の光のように、小さな小さな薄い光が今は恋しい。
「ラストスパートだ!グラビティプレス!」
あの光を目指しおれは力を振り絞った。そしてようやく地上へと辿り着いた。
「ハハ、ハハハハハ…」
乾いた笑いが自然に出て来る。ボロボロになった筏をインベントリに直しおれは地面に崩れるように座った。
「助かったぁぁ〜!!!」
キッツ…マジでヤバかった…。
「ユウキィ〜!お疲れ様!ありがとう!」
〈キュキュー!〉
「ホーク、リッシュ…よかった。ごめん…今日はもう帰ろう。ちょっとつか……」
「ユウキ!?ユウキ!しっかりして!ユウキ!」
〈キュキュー!!〉
極限状態の緊張から開放されて安心してしまったのか、おれはプツっと意識を失った…。
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