第140話 なりきり師、予感が当たる。


 〜翌日 宿の部屋〜



「さぁホーク、リッシュ、今日はどうしよっか?ダンジョン行く?」


「うん!あっ、どうせなら地図のあの黒い部分の事を聞いてから行こうよ!おれあそこ行ってみたい!」


 ゼーベルダンジョンの一階層にある地図の黒い所…おれも気になるかと聞かれれば気になる…。でもあんな風に書く所なんて総じて何かありそうなんだよなぁ……



「う〜ん…わかった。それならまずは情報収集をしよう。あんまり行きたく無いけどギルドに行こうか。」


「うん!」


「あっ、その前にリッシュに話しておく事があるんだ。」


 確証は全く無いけどあの黒い所は嫌な予感がする。ゼーベルダンジョンに入る前にいい機会だから言っておこう。



〈キュー?〉



「リッシュ、昨日バーサクボアと戦った時リッシュは齧り取った肉に夢中になって戦闘中だって事を忘れちゃったよな?」



〈キュッ!キュー…〉



「あの時はまだバーサクボアは生きてたんだよ。完全に倒せていないのにリッシュはもう勝ったと思って油断しまくりで肉を食べてたんだよ。」



〈キュ…〉



「相手を完全に倒すまでは戦いから気を逸らしちゃダメだ。その余裕が、油断が、取り返しのつかない事に繋がることもあるんだよ。」



〈キュー〉



「生き物は最後死ぬ間際が一番怖いんだ。バーサクボアはそうじゃ無かったけど、死ぬ事を悟った時に普段以上の実力を発揮する奴もいたりするんだぞ。」



〈キュー〉



「おれたちがやってるのは遊びじゃないんだ。どんなに耳障りのいい綺麗な言葉で言ってもやってる事はそれぞれの命をかけた命の取り合いなんだ。相手に勝てなきゃ死ぬのはおれたちなんだよ。」



〈キュー…〉



「だからリッシュ、次からは最後まで気を抜かずに戦おうな?最後までちゃんと相手に向き合おう。」



〈キュー!!!〉



 伝わったかな?赤ちゃんドラゴンには少し難しいかもしれないけど、リッシュも真剣な顔してるし伝わってるといいな…。



「これはリッシュだけじゃなくおれにもホークにも言える事だ。だから皆で気を付けような?」


「そうだね!」



〈キュー!!!〉



「よし!それじゃあ地図の黒い所の事を調べにギルドに行くか!」


「うん!」



〈キュー!〉









 〜ギルド カウンター〜


「こんにちは。」


「あっ…こ、こんにちは。本日はどのようなご要件でしょうか?」


 あの下世話受付譲を回避して他の職員さんの所に来たが昨日の事を知っているのか警戒されてる気がする…



「ちょっと聞きたい事があって来ました。迷惑はかけませんので…。」


「あ、いえそんな事は…」


 うん。わかりやすい。まぁ騒ぎを起こした奴と関わりたく無い気持ちもわかる。さっさと終わらせてダンジョンに行こう。



「早速なんですけど昨日ゼーベルダンジョンの地図を買ったんです。それで一階層にあるこの黒い部分の事を教えてもらいたいんですけど。」


「えっ、あっ…もしかしてお二人はここに行くつもりなのでしょうか?」


「そうですね。その為にここがどんな場所なのか調べに来たんです。」


「それでしたらお止めになられた方が良いと思います。ここは通称『死の穴』ギルドで調査しようにも奥が深すぎて調査が全くできませんでした。」


 あっ、なんか受付譲の感じが変わったな…



「死の穴?深いってどれくらいまで調べたんですか?」


「約3キロのロープを使い調査したのですがそれでも地面に辿り着く事はありませんでした。

それに周りは漆黒の闇。光魔法を使っていても降りた者には精神的ダメージが大きいようです。」


「えっとじゃあギルドも3キロで辞めてしまってそれ以上は何もわからないって事ですか?」


「そう言われてしまえばそうなりますね。ですが捉え方次第では3キロ先までは何も無い事がわかったとも言えます。」


 中々強気だな…イラッとさせちゃったかな?



「ァハハ…まぁそうですね。因みに今も調査ってやってるんですか?」


「今はギルドとしては調査はやっておりません。それと過去にも死の穴を調査すると言って冒険者の方で行かれた方々はいるのですが誰一人として帰って来た方はおられません。

それでも行かれるのであればギルドとしては止めませんので自己責任でお願いします。誰も受けませんが依頼ボードにランクフリーで張り出しております。」


 って事は結局何もわからずじまいか…。死の穴かぁ…突拍子の無かった崖予想あってんじゃん…



「わかりました。ありがとうございました少し考えてみます。ホーク、とりあえず依頼ボードに行ってみようか?」


「うん!」








 〜依頼ボード前〜


「ランクフリーは、っと…あったあった!」


「ねぇユウキどうするの?さっきのお姉さん自己責任だって言ってたよ?」


「ん?あぁ言ってたな。ホーク、冒険者なんてどの依頼も自己責任だぞ?失敗すればペナルティだし下手すりゃ死ぬ。

適正と実力に見合った依頼じゃなきゃどれも似たようなもんだよ。それともあの黒い所に行きたくなくなっちゃったか?」


「ううん行ってみたい。でもさっきの話を聞いてちょっと怖いかも…。」


 心霊スポット的な感覚かな?でもそれだと行って後悔するんだぞ?まぁ霊ならおれがホーリーフレアで浄化できるからいいんだけど…。



「怖いなら無理して行く事無いぞ?おれはどっちでもいいからホークが決めるといいよ。」


「うん…。ん〜」


 ホークが悩んでる内に一応依頼書の確認だけはしておくか。


 クルーシェ清掃活動…違うな。

 十七階層、クリスタルの謎…これでもない。

 薬草採取…これも違う。

 死の穴調査あったこれだ!どれどれ?



 死の穴調査 調査依頼




 ランク フリー




 場所 ゼーベルダンジョン一階層




 必要職業 指定無し




 パーティー編成 指定無し




 必要数 指定無し




 報酬 応相談




 依頼主 クルーシェギルド




 ※期限無し



 なんともまぁザックリとした依頼だな…まぁさっきの対応を考えるとギルド側は積極的じゃなさそうだったもんな。

 でも誰も辿り着いてない場所かぁ…お宝の匂いがプンプンするかも……



「ユウキ!」


「ん?決まったかホーク?」


「うん!やっぱり行ってみたい!でも危ないと思ったら帰ろう?それでもいい?」


「そっかならそうしようか。行こうぜ!」


 依頼ボードから死の穴調査の依頼書を剥がしカウンターへと持って行った。






 〜カウンター〜


「「お願いします。」」


 依頼書をさっきの受付譲に渡す。



「まさか本当に行かれるのですか?」


「はい。ランクフリーなんで問題無いですよね?」


「ですが…いえ、わかりました。それでは死の穴の調査をお願い致します。それと一つ、ランクフリーの依頼書は剥がして持って来られる必要はございませんので。」


「あっ、そうなんですね?ごめんなさい知らなかったです…」


「構いませんよ。報酬の方ですが只今ギルドマスターが不在ですので帰ってからでよろしいでしょうか?」


「えっ!?ギルマスいないんですか?頼みたい事があったのにな…」


 最初は呼ばなくても襲いかかって来たのに大事な時にいないんだから…



「昨日の昼に何故か急にメルメルに行くと言い残し行ってしまわれました。恐らくですが今日か明日には戻ると思いますが…」


 えぇっとそれはおれたちのせいですかね…?いや、きっと急にメルメルに行きたくなる理由が他にあったんだろう。



「そ、そうですか…なら仕方ないですね。調査に行って来ます。」


「ユウキさん、ホークさん。」


「「はい?」」


 なんで名前知ってんの?



「お気を付けて……」


「…はい!ありがとうございます。」


「ありがとうございます!」







 〜3時間後 ゼーベルダンジョン 一階層〜



「準備万端!さぁ行こうぜホーク!」


「うん!楽しみだねぇ!頑張って作ったもんね。」


「あぁ、世界に一つだけのおれたち専用だ。これで死の穴調査も上手くいくさ!丁度いい安全マージンも取れそうだしな…。」



〈キュキュー♪〉



「おっ、リッシュも楽しみか?でも何が起こるかわからないからおれたちから離れるなよ?」



〈キュー!〉



「よ〜し!それじゃあ死の穴調査開始だー!」


「おー!」



〈キュー!〉



 ゼーベルダンジョンの攻略に繋がるかわからないけど、ダンジョンにある以上あの場所には何かあるんだろう。

 待ってろよ死の穴!誰も調査できないならおれたちが丸裸にしてやるぜ!

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