第139話 なりきり師、感謝に困る。
門番さんが二階程の高さの窓から縄梯子を降ろしてくれた。緊急で無い限り夜になったら門は開いてくれないみたいだ。
「いやぁ、待ってて良かったよ。今日はもう帰って来ないのかと思ったよ。」
「助かりました。まさか門が閉まってるとは知らなくて…ところでおれたちを何で待ってたんですか?」
この門番さんと別れたのは真昼だ今は結構夜も深い。よっぽどの用事か門番の仕事がブラックなのか…
「とりあえず上に行こう。確認したい事があるんだ。」
「わかりました…」
なんだろ?神妙な感じではない。寧ろ笑顔で話してる。門を通過できるのは嬉しいけど正直帰りたい……
階段を登り詰所?なのか部屋に案内された。
「さぁさ適当に座って。お酒とジュースだったらどっちがいい?」
「ありがとうございます。じゃあジュースでお願いします。」
「わかったちょっと待ってて。」
そう言って門番さんは奥に行ってしまった。
「確認ってなんだろうね?」
「なんだろうな?あっ、昼間のあの子の事かな?でもおれたちなんも知らないけどな……」
「そうだよね、気絶してて喋った事も無い子だもんね。」
空を自由に飛んでる所を誰かに見られた?いやでもミラージュバリアしてたし…
まさか気絶してたのがおれたちのせいに?ってそれならわざわざ届ける訳無いからなぁ……
「お待たせ。はいどうぞ。」
「「ありがとうございます」」
〈キュー♪〉
門番さんはちゃんとリッシュの分も持ってきてくれた。
「ところで確認って…」
「あぁその事なんだけど、君達が昼間送り届けてくれた子いるよね?」
「はい」
「あの子があれから目を覚ましてね、ちょっと信じられない事を言うもんだからね…」
「信じられない事?」
何言ったんだ?まさか助けて貰った恩を仇で返しやがったか?
「なんでも彼はバーサクボアに追われていたと言っていたんだ。
そして木の根に足を取られて転んでしまってバーサクボアが迫って来てそこで気を失ってしまったそうなんだ。」
「バーサクボア…」
そんな名前だったんだ…全然確認してなかったな…あっ、インベントリを確認すると確かにバーサクボアだ。
「バーサクボアに直前まで追われて助かる訳無いから他のモンスターと見間違えたんだろ?って言っても『間違いないッス』って聞かなくてね…
しまいには『きっと助けてくれた人がバーサクボアを倒してくれたッス』って言うもんだから…念の為その確認をしたいんだ。」
はぁ〜んそう言う事ね…。うん問題無いな。
「確かにあの子が襲われそうだったんで大きい猪を倒しましたね。証拠が必要ならここで出してもいいですけど床抜けませんか?」
「えっ!?君達本当にバーサクボアを倒したのか?」
なんだこの反応…思ってたのと違うんだけど…
「はい。倒しましたよ?あっ、もしかして倒しちゃいけないモンスターでしたか?やっべどうしよ…」
「いやいや倒しちゃいけないなんてとんでもない!ただバーサクボアはCランク以上の冒険者が大人数のパーティーを組んで多くの怪我人が出てやっと倒せるレベルのモンスターだ。
それなのに君達だけで倒したって言うのか?」
なんだよかったぁ倒していいモンスターだった。ってかあのモンスターそんなに強かったの?アイズダンジョンのせいでおれも感覚が狂ってたのかな?
「おれは戦ってないよ!あの獣人の子が巻き込まれないようにしてたもん!」
「えっ?じゃあまさか君一人で!?」
「いえ、一人じゃないですよ。この子と…リッシュと一緒に倒したんですよ。なぁリッシュ?」
〈キューキュッキュ!〉
「信じられない…でもドラゴンの力を借りればいけるのか…いやでも嘘を付いてるようには見えないし……」
門番さんがブツブツ独り言を言いながら考えモードに入ってしまった。
「門番さん?門番さーん!」
「ッ!あぁごめんね。とりあえずじゃあ下に降りてバーサクボアを見せてくれるかな?」
「はい、わかりました。」
おれたちはさっき登った階段を一番下まで降りてから街の中に入った。
夜も遅くここが締め切った門だからか街の人は誰も歩いていない。
「じゃあ出しますよ?一応血抜きはされてるのでご心配なく。」
「よろしく頼むよ。」
おれはいつものようにアイテムバッグに見せかけた袋から出たようにインベントリからバーサクボアを出した。
首?頭?リッシュが齧り取ってしまった部分が欠けたバーサクボアが横たわる。改めて見るとでっかいなぁ…
「これは……間違いないようだね。バーサクボアだ。」
門番さんも納得してくれたようだ。
「ありがとう!」
「えっ!?」
門番さんが急に頭を下げて礼を言ってきた。
「ちょちょ、どうしたんですか急に…頭を上げてください!」
門番さんは頭を上げて説明してくれた。
「さっきも話した通りバーサクボアが出ればたくさんの怪我人が出るんだ。運が悪ければ死人だって出てしまうんだ。
今回は君達が倒してくれたけど、もし倒せていなかった場合あのモックンと言う子も殺されていただろうし、街にも被害が出ただろう。
これは門番としての心からの感謝であり、クルーシェの街の一人の住人としての礼だ。本当にありがとう。」
門番さんはまた頭を下げてお礼を言った。困ったなぁ…そんなつもりは全然なかったのに…棚ぼた展開で感謝されてもどうしたらいいかわかんないぞ…
「だ、大丈夫ですから頭を上げてください。おれたちはただ経験値稼ぎをしただけですから。そんな街の為とか大層な理由じゃないんで気にしないでください。」
「理由はどうであれ君達が街を脅威から守ってくれた事に変わりはないよ。」
「とにかく頭を上げてください感謝してくれた気持ちは素直に受け取りますから…。」
やっとの事で門番さんに頭を上げてもらい、おれは続けて話した。
「おれたちはこのモンスターを素材としてギルドや店で売ったりできるし、それこそさっき言ったように経験値として恩恵を受けたんで本当に気にしなくて大丈夫ですよ。
おれたちと街、お互いに利益があったんだからそれでいいじゃないですか。
もう倒したんだからもしもの話を深く考えずに討伐されたんだラッキーって気軽に行きましょうよ!」
「ハハッ…ラッキーって…君は不思議な子だね。他の冒険者なら自慢して大騒ぎするような出来事なのに…」
「おれもそこまでお人好しじゃないですよ。こいつがそこまでのモンスターって教えて貰ってもしかしたら良い値で売れるかもとか
おれのアイテムバッグは中身が腐る事がないのですぐに出さずに一番有効な時に使おうかなとか、したたかに考えたりしてますよ。」
金に困れば売ればいい。鍛冶士の熟練度を上げて素材に使ってもいい。冒険者として成果が欲しければギルドに出せばいい。腹が減れば食料にすればいい。討伐したモンスターの使い道なんていくらでもあるんだ。
おれはバーサクボアを袋を使ってインベントリにしまった。
「って事でもう大丈夫ですか?今日はダンジョン攻略もして結構ヘトヘトなんです。」
「あぁごめんよ引き止めてしまって」
「いえ、門番さんがいなかったら街に入れませんでしたから凄く感謝してます。本当に助かりました。ありがとうございました。」
「ありがとうございました!」
「いえいえどういたしまして。それとこの街の門は夜10時には閉まってしまうんだ。次からは気を付けてね。」
「わかりました。それじゃあ失礼します。行こうホーク!」
「うん!」
「夜道に気を付けるんだよ〜!」
「「は〜い!」」
門番さんと別れおれたちは宿へと帰った。
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