第137話 なりきり師、押し潰す。


 マップが無いダンジョン攻略はおれも初めてだけどめちゃくちゃ不安だ…。

 危険まみれの知らない洞窟の迷路を入って行くなんて日本にいた時は考える事も無かっただろう。


 改めておれもマッパースキルのありがたさを思い知らされるな……



「ユウキ、次こっちね!」


「わかった。ホーク、先が見えてる時はいいけど角の所を曲がる時は気を付けろよ?曲がった途端にモンスターがいる事もあるからな。」


 せめてもの救いは道が狭くないって事だな。身体一つ分がやっと通れる隙間を匍匐前進で進むとかって道なら心折れてるよ…



「うん!でもモンスター少ないね。最初のスライムからまだ出てこないよ?」


「アイズダンジョンも最初はそうだっただろ?ブーンビーを探して歩き回ったじゃん。

他の冒険者が倒してまだリポップしてないとか、一階層だし活性剤も使われて無いダンジョンなんだから数も少ないんだろ…。進んでればきっとその内出てくるさ。」


「そっか、そうだよね。探してれば出てくるよね。」


「あぁ焦んないで気楽に行こうぜ!」


「ねぇ、ところでユウキ?地図を見てからずっと気になってたんだけどこの黒い所ってなんだと思う?」


「さぁ?なんだろうな?ダンジョンに入る前に地図を見てればココラさんに聞けたんだけどな……」


 買った地図には一階層の地図にだけ意図的に黒く塗り潰された所がある。

 その場所は迷路の端の方にあって、そこに向かう道以外に他に抜ける道の無い行き止まりのような場所だった。



「ねぇユウキ、後で行ってみよっか?」


「うん…それもいいけど、こう言う怪しい所は情報を集めてからの方がいいと思う…。

転移系の場所だったり近付くなって意味で黒くしてたりしたら面倒くさいからな。」


「あっ!そっか!何か行っちゃダメだから黒く塗り潰してる可能性もあるんだね……」


「あくまで憶測でしか無いけどな。ただ単に床が無い崖って事も……ってダンジョンに崖は無いか。」


「ハハッ、山や谷があるようなエリアじゃないもんね。」


「それよりホーク、今日は二階層までの攻略を第一に考えよう。目の前の目標を疎かにして他の事に気を取られてたら本末転倒だ。」


「わかった!よ〜し!頑張るぞー!」


 奥に行けば行く程道は複雑になって行く。地図上ではわからない高低もあり坂を上ったり、下ったり実際に行ってみないと説明できないような道も多々ある。

 これがずっと続くんだから流石は迷路ダンジョンと言うべきか…





 それからおれたちはホークの案内で行ったり来たりを繰り返しながらダンジョン内を進んだ。

 モンスターも数は少ないがチラチラ出て来る。アイズダンジョンとは違い、このゼーベルダンジョンは一階層にスライム、コボルト、スケルトンなど様々な種類が同じ階層に出てきた。



「ユウキ、いたよ!」


 ホークが示す先にはコボルトがいた。



「おっ、じゃあ次はおれの番だな。ホークしっかり見てろよ一撃で終わっちゃうからな…。」


「うん!」


 新しい種類の敵と戦いたいって言うホークにいいよって譲ってたら結構奥に来るまで戦闘する機会がなかったんだ。


 今のおれの職業は空間支配者だ。防具は戦士の装備で武器はファンネルにしているが浮かしてはいない。

 マップを使っていない今、他の冒険者もモンスターも何処にいるかわからない。なのでファンネルはブーメランとして使っている設定にしている。


 おれが勝手にやってる事なので理解はされないかもしれないがそれならそれで困る事もない。



「行くぞ!それ!」


 ファンネルを投げそれっぽく見せる。まぁ実際はおれが操縦してるんだけどね…。

 寸分違わずシンメトリーになるようにコボルトの近くにもっていき、良きところでファンネルを留まらせる。



「グラビティプレス!」


 空間支配者の熟練度3で覚えたグラビティプレスは重力の魔法だ。

 おれが指定した方向に超重力を発生させると言うなんとも強力な魔法だ。


 おれはコボルトに対して下向きの重力がかかるようにした。ファンネルからもグラビティプレスが発動して3回分のグラビティプレスが同時にコボルトに対して襲いかかった。


 結果はペチャンコ。ここら辺のモンスターが耐えられる強さではない。コボルトは一瞬でドロップアイテムへと変わった。



「スッゲー!ユウキ!コボルトがペッタンコになってたよ!」


「うん。重力のスキルだからな。これがさっき言ってた新しい空中対策だよ。

このスキルなら飛んでても地面に落とす事が出来るんだ。勿論耐えられるような相手は無理だけどな。」

 

「この技あったら無敵じゃん!」


「でも消費が重いんだよね。多分これ上級魔法なんだと思う。1回でMPを68も使っちゃうから乱発するようなスキルじゃないんだ。

無詠唱だから簡単そうに見えるかもだけど本来なら詠唱も凄い大変なんじゃないかな?」


「へぇ〜そうなんだ。でもあれだけ強いならそりゃそうだよね。」


「本当に無詠唱ってのは助かるよ。これがあるのとないのじゃ大違いだよ。まぁ無詠唱のせいで転生人だってバレる事もあるから気を付けないとなんだけどな。」


「クルーシェのギルマスにはそれでバレちゃったもんね…」


「あの時は想定外だったけどな。まさかギルマスがエルフで耳がいいなんて思わないだろ…

砂埃まみれだから見付からないように捕まえてバレる前に解除しようと思ってたのに完全に作戦失敗だったよ。」


「ギルマスがいい人でよかったよね。」


「そうだな。」


 信用するにはまだ早いけどな…。まだおれたちはギルマスの事を全然知らないんだ。

 前世で胡散臭い連中に悩まされた事があるおれはそこまで人を無条件に信用はできないんだよな……


 まっ、ホークにそんな過去を教える必要はないからこの世界の中で信用できる、できないを見極められるようになってほしいな。


「さぁホーク、先に進もうか。道案内は頼んだぞ!」


「うん!任せてよ!」


 モンスターは弱いけど充実したダンジョン探索ができてる。このまま何もなく攻略ができればいいな。

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