第135話 なりきり師、鬼になる。

「ユウキ、あれかな?」


「あれだな…。ホーク、言っておくけどアイズダンジョンを基準にしちゃダメだよ。

あのダンジョンは勇者パーティーのせいで異常だっただけだからな。」


「そうだよね。うん、わかってる!わかってるよ…」


「そんなに露骨にガッガリするなよホーク……」


 ゼーベルダンジョンで最初に見付けたモンスターはスライム一体だった。

 透き通った水色のスライムボディの中に核が一つ。ド定番のただのスライムだ…。


 いや、まてよ…まだ強者のスライムだって可能性もあるからな……



「鑑定!」



スライム


レベル6


HP28/28

MP9/9

攻撃11

防御15

魔攻10

魔防15

俊敏5

幸運8


弱点 雷 核

耐性 水


スキル


分裂



 あぁ…了解、了解。ただの雑魚だね。でも確かに最初にアイズダンジョンに入った時と比べたらまだこっちの方が強いかな。


 でもおかしいなぁ。さっき結構強そうな?猪倒したんだけどな……森とダンジョンでこんなに差が出る物なの?それともそんなに強く無かったのかなぁ?鑑定しておけばよかったよ。



「どうだった?」


「う〜ん…ワンパン案件だな。まぁダンジョンの一階層なんてそんな物だよ。

もっと奥に行けば敵も強くなっていくさ。それに弱けりゃ数を倒せばいいじゃん。リポップするし迷惑にもならないだろ。

多分次からは素通りすると思うから戦うならマッピングするこの機会しかないしな。」


「そうだね。もっと奥なら敵も強いよね?」


「強い敵ばっかり求めてると足元掬われちゃうぞ。弱い奴でも群れると面倒なのはホークも知ってるだろ?

分裂ってスキルを持ってるから使われる前にあのスライムもパパッと倒しちゃえよ。」


「あ〜うん。わかった…じゃあ行ってくるね!」


「核をしっかり狙うんだぞ〜。」


「うん!わかってるよ。えい!」


 ホークは新しく新調した刀でスライムの核をサクッと刺した。それだけでスライムボディは溶け出しドロップアイテムへと変わった。

 なんともあっけないがスライムなんてまぁそんなもんなんだろ……



「はぁ〜あつまんないの……終わったよユウキ!はいこれ。」


 その気持ちはわかんなくは無いけど余りにも緩みすぎだよホーク……



「…ありがとう。これってスライムの外身だよな?何に使うんだろ?」


 スライムのドロップアイテムはスライムゼリー。手で持てる位には硬さがある。しかし使い道が全くわからない。



「何だろうね?食べるのかな?」


「流石にこのままでは食う気はしないけどな…まぁいいや。後で完全鑑定しておくよ。それよりマッピングを続けよっか。」


「うん!」






 迷路だって言うからすぐに行き止りにぶつかるカクカクなダンジョンを想像してたけどマップを見る限りどうやらここはウネウネタイプの迷路ダンジョンのようだ。

 枝分かれした道が幾度となく出てきて知らない間に元の道に戻ったり、選んだ道によっては階段とは全然関係ない方向に向かわされるようなダンジョンだった。



「こりゃ地図が無いと危険だってのもわかるな…。」


「だね。おれたちはマップが見えてるからわかるけど、戦ったりしたら地図持っててもどこまで進んだか忘れちゃいそうだよ。」


「多分それで迷子になるんだろうな。書き込んだりしたらまた地図を買い換えなきゃいけないし最後まで行けるパーティーならそれが二十五層分だから費用もバカにならないからな…」


「まっ、ユウキがいれば大丈夫だよね。」


「大丈夫っちゃ大丈夫だけど、もしかしたら転移トラップとかもあるんだからな。あんまりおれのマップに頼り過ぎるなよ?」


「ヘヘッ…わかってるって!余裕余裕!」


 本当にわかってんのかなぁ…最低限のフォローは勿論するけど四六時中100%ホークとリッシュを見てるなんて無理だからな……


 チート能力者のおれが言っても説得力ないかもだけど余りスキルに頼り過ぎて当たり前になるのもよくないよな……



「よし!ホーク、決めたぞ!」


「ん?何を?」


「今回のダンジョン探索はホークがリーダーだ!ホークの力で二階層まで攻略しよう!」


「何で?」


「アイズダンジョンでギルマス達ともやったんだろ?それの復習みたいなもんだよ。」


「ん〜〜〜そっか。わかった!任せてよ!」


「うん。じゃあ全部任せるよ。じゃ、よろしくな。」


 そしておれはパーティーマップをそっと閉じた。



「あれ?ユウキ、マップが消えちゃったよ!」


「消したからな。普通の冒険者パーティーはマッパーを入れれば守らなきゃダメなんだ。マッパーは戦えないからな…。

それにマーガレット所長がパーティーマップは伝説並に使える人がいないって言ってただろ?って事は使ってない今が本来の状態なんだよ。


おれがマッパーをやるなら戦いはホーク一人でやらなきゃいけないんだ。

おれは今テイマーだからリッシュに頼んだ戦い方しかしないよ。」


「えぇ〜何で急に…」


「言っただろ?全部任せるって。ホークの力で攻略するんだよ。おれはスキルを持ってるけどここでは使わない。

おれのスキルを当てにしてそれがホークの当たり前になっちゃったら今後ホーク自身が困る事になっちゃうからな。」


「でもマップを消されたら迷子になっちゃうよ!」


「そうだな。何回も同じ所を通るかもしれないし、全然検討外れな方に行っちゃうかもしれないな。だけどそれが普通の冒険者なんだよ。


どうすれば迷わなくて済むか、どうやって知らない敵と戦うか、どうやって仲間を危険に晒さないようにするか一杯考えるんだ。

皆自分にできない事を補い合ってダンジョン攻略をしてるんだよ。…って事でこれも復活だ。」


 おれはインベントリからある程度のアイテムを入れたホークの肩掛け鞄とおれも手に入れてた大きめのリュックを背負ってスライムゼリーを手に出した。



「えぇ〜!カバンがあったら邪魔で戦えないよ!」


「それならおれの職業はインベントリを使える空間支配者にするか?そしたらマップは使えないし、リッシュが戦いに参加できなくなるぞ。」


「何で急にそんな意地悪するの!今までやってくれてたじゃん!」


「やってたよ。でもそれはおれにも必要だったからだよ。

だけどそのせいでホークがおれのスキルがないと冒険できないなんて事になったらホークはいつまでたっても立派な冒険者にはなれないよ。」


「でも…」


「どうする?今から戻って地図を買ってもいいし、おれがマッパーになってマップ埋めをしてもいい。

インベントリを使いたいなら空間支配者になるし、鑑定したいなら鑑定士になるよ。どうせならまだやった事のない職業をホークが選んでくれてもいいよ。」


 少し酷だけどそれが普通の冒険者だ。イージーモードの冒険も悪くないけど何らかのトラブルでホークがもし一人になった時が心配だ…

 勿論おれ自身も自粛しないといけないけど二階層ならなんとかなるだろ…。



「でもそうなったらマップ埋めができないよ!それにインベントリが無かったら荷物が増えちゃって冒険の邪魔になるよ!」


「ホーク、問題をすり替えちゃダメだ。今回大事なのはそこじゃない。マップ埋めなんて今回じゃなくてもできるし、荷物が増えるなら必要な物だけを選んで持って行けばいいんだ。

楽したいのはわかるけど今はおれが転生人って事もなりきり師って事も忘れるんだ。何でも自分に都合良く回る世界なんて無いんだよ。その事だけは忘れちゃいけないよ。

今回はホークがなんと言おうとおれは職業を一つに絞る。使えるスキルはその職業の種類だけだ。」


「そんなぁ……」


「因みに二階層を攻略するまでの手助けもその職業でできる事だけだ。

自分に何ができて、何ができないのか。おれがどんな能力ならダンジョン攻略を確実にできるのかを一生懸命考えるんだ。」


「うぅ…ユウキの鬼!意地悪!」


「フッフッフッ…ホーク、長い付き合いだから知ってるだろう?こうなったおれは意地でも考えを変えないぞ!

残された選択肢は限られている。ホーク君、君が自分で決めるんだ。さぁ精一杯考えるんだ!はぁ〜はっはっはっ!」


 今回はホークを甘やかす事はしない。いつか絶対にホークにも必要な経験だったと思える日がくるはずだから……

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