第133話 なりきり師、送る。

 〜とある少年〜



「ハァハァハァハァ……」


 大きなリュックを背負った一人の獣人の少年が森の中を走っている。



〈ブモーーー!〉



『バキバキバキバキ……』



 その後ろから大きな猪が周りの木を無視して少年を追いかけている。



「ハァハァ……ヤバいッス!死んじゃうあっ…」


 森の中を全力で走っていたが、当然足場は悪い。その上大きな荷物を背負っている。そんな極限状態の彼は木の根に引っかかり転んでしまった。



〈ブボーーー!!!〉



「わぁあーーー!!ッ………」


 少年が最後に見たのは目の前に迫り来る大きな牙の生えた猪。

 命が刈られる恐怖から幸か不幸か少年の意識はそこで途絶えた……。








 〜マッピング直後 ユウキside〜



「ホーク少しとばすぞ?」


「うん大丈夫だよ!」


 若い子の成長速度は早いねぇ。ちょっと練習しただけでもう完璧に重心移動ができるようになってるよ…。



「リッシュもしっかり捕まってろよ!」



〈キュー!〉



 アイズダンジョンにいた時と違いあれからも幾度となく使ってきたミラージュバリアはもう完璧にコントロールできるようになった。


 どれ位完璧かと言うと前までは『ここからここまで』って感じで何度も張り直していたが、今は一緒に移動できるまでに操作できるようになった。だけど移動時の場合は油断してスキルを切らすと消えてしまうので注意が必要だ。

 この世界にはスキルレベルが無いけど自分の発想や操作次第でスキルの可能性が広がるようだ。


 このファンネル空中移動もその一つだ。ファンネルを操作して、ミラージュバリアを張り巡らせる。これを同時にやってその上で他の事にも対応するとても集中力がいる移動方法なんだ。



「ねぇユウキ!上からじゃ木しか見えないよ?」


「うんでもまだ少し距離があるから降りるにしてももう少し先だよ。」


 近付くに連れてバキバキと木の折れる音が響いて来る。

 でも戦ってる様子はマップ上からは見えない。



「う〜ん…これってピンチなのか?どっちなんだろ?」


 今は空でマッパーに転職できないからマップ内検索で罠を調べる事もできない。

 良かれと思って助けても狩りの邪魔したとか言われたら嫌だなぁ……

 逆恨みしてくる奴の思考回路は理解できないもんな…まぁとりあえず様子を見てから決めよう。



「ホーク、そろそろ降下するぞ?しっかり捕まってバランス保つんだぞ?」


「うん!」


 森の上空を一直線にそれなりのスピードで進んだから割とすぐに近くまで来れた。



〈ブモーーー!〉



 モンスターの鳴き声だろう低い声が空にまで響き渡った。ブモーってなんだ?何の鳴き声?



「まぁいいや。とりあえず降りよう。」


 近くにあった木の一本に触れ、インベントリにしまい込む。これで即席の着地地点は確保できた。

 おれたちはそこから下に降り、様子を伺って見る事にする。



〈ブボーーー!!!〉



「わぁあーーー!!」


 だけどどうやらそうも言ってられないようだ。モンスターは完全に興奮しているし、追いかけられた人の叫び声も聞こえた。


 うん。これは間違いない襲われてる。ここで会ったのも何かの縁だ。助けよう。

 おれは即座に動き出し救助へと向かった。



「アイツか!ヘイトキャッチ!」


 木々を交わし姿が見えた相手は猪だった。その前方には倒れてる人がいる。マップではまだ両者が接触したようには見えてなかった。


 もしかして死んだふり?だとしたら愚策だ…ヘイトキャッチを使い、こちらにヘイトを向かうように仕向けた。


 倒れてる人に向かってた猪は急ブレーキをかけこっちに振り向いた。



「ホーク!戦闘の邪魔になるからあの倒れてる人を連れて離れてくれ!」


「わかった!」


「行くぞリッシュ!」



〈キュー!〉



 ここはダンジョンじゃない地上の森だ。ダンジョン以上に戦い方を考えないとな…。



〈ブボーー!!!!!〉



 ヘイトキャッチをしたせいで完全におれにターゲットを絞った猪が少し後ろに下がって助走を付けてからおれに突進してきた。



『バキバキバキ!』



 周りの木なんてお構いなしだ。全部吹き飛ばしながらこっちに来る。



「う〜ん。まだアイズダンジョンの方が迫力はあるな。これ位ならまだ余裕みたいだな…。」


 武器をファンネルから大剣に変える。



「地流斬!」


 重戦士の熟練度6で覚えた地流斬は地面を駆け巡る斬撃だ。その際に削り取った地面も巻き込み斬撃+石つぶてによるダメージが発生するスキルだ。



〈プギー!〉



「リッシュ火はダメだからな!上から狙うんだ!」



〈キュー!〉



 リッシュもやる気みたいだしおれも負けてられないな。今度は大剣から杖に装備を変えた。



「ガトリングウォーター!……リッシュ今だ!」


 ガトリングウォーターってそこまで強いスキルじゃ無いけど相手を狙いやすいし連携も取りやすいからつい使っちゃうんだよな。



〈キュー!〉



 空から急降下したと思ったら弧を描くようにまた上空へと飛び立った。



〈プギャーー〉



「えっ!?」


 リッシュが通ったであろう場所が猪から削り取られている。大量の血を吹き出しその場で倒れピクピクしてる。



「スゲー流石エンシェントドラゴンだな…あっ!あの食いしん坊め!」


 リッシュを見るとご機嫌そうに空で肉を食ってる…。まだ戦闘は終わってないのに!後でちゃんと教えないとな……



「仕方ない。こっちはおれがトドメを刺すか。サンダーウィップ。」


 おぉ!使わない間に射程距離伸びてる!魔力の上昇って色んな効果か増えるから面白いよな。



〈ピッ…〉



【空間支配者の熟練度が3に上がりました】

【スキル グラビティプレスを覚えました】


【テイムモンスター リッシュのレベルが2に上がりました】

【スキル ドラゴンネイルを覚えました】



「おっ、そう言えば転職してなかったな…空間支配者の熟練度が上がっちゃったよ…ってそれよりリッシュのレベルアップもおれに知らされるの?」



〈キュー!キュキュ!キュー!〉



 リッシュにもレベルアップの音は聞こえてるのかおれの前を興奮して鳴きながらパタパタ飛んでいる。



「リッシュやったな!初めてのレベルアップだな!」



〈キューーー!〉



 よっぽど嬉しいのかおれの頭上をクルクル回りだした。



「ユウキ〜!」


 あっ、そうだ!倒れた人をホークに任せっきりだったんだ……

 おれは急いで猪をインベントリに入れホークの元へと向かった。



「ごめんホークこっちは終わったよ。」


「うん、おれもレベル上がったからわかったんだ。でもこの子気を失ってるから全然起きないんだ。」


「この子?」


 ホークが避難させた人を見ると獣人の子供?だった。少なくとも見た目的には大人じゃない。

 でも今までも見た目子供の年上を見てるからこの世界では判断に難しい。



「う〜ん…逃げ回ってたしここで起こしてもしょうがないよな…置き去りにもできないし仕方ないかぁ。街まで運んであげようか。」


「そうだね。こんな所で寝てたらモンスターに食べられちゃうよ。」


「じゃあホークとリッシュはここで休んでて。おれが空からパパっと行ってくるよ。そんなに時間はかからないと思うから戻ったらすぐにダンジョンに行こうな。」


「うん!わかった!ユウキ、この子をよろしくね。」


「任せとけ。んじゃ行ってくる!」


 この子の大きな荷物をインベントリにしまい、おんぶして再び出したファンネルに乗り来た空の道をまた戻った。








 〜クルーシェ 東門〜



「門番さん。この子が森の中で倒れてました。気を失ってるようなので保護してやってください。」


「おぉそうか、ありがとう。君一人か?もう一人とドラゴンはどうしたんだ?」


「森で待ってますよ?って事でおれはまた戻りますね。あっ、それとこれはこの子の荷物です。起きたら返してあげてください。

それじゃおれは急ぎますので失礼します。」


「えっ、あっ、ちょっと…」


 悪いけど見ず知らずの子にそこまでガッツリ関わるつもりはない。この子がもし街から逃げてたとしても責任を取るつもりなんてない。

 これは単なるおれの気まぐれ。あの時助けなかったら間違いなく猪に食われてたし、もし怒ってきたらそれでおあいこにしよう。


 完璧な作戦だ。よ〜し早く戻ってダンジョンに行くぞ!


 おれはまた門から離れさっきの方法でホーク達を迎えに行き、空を移動してようやくゼーベルダンジョンへとやってきた。




 〜ゼーベルダンジョン 入り口前〜



「ここがゼーベルダンジョンかぁやっぱり今回も地下なんだな…。」


 岩に囲まれた地下へと続く階段がある。その横側に簡易テントで冒険者が受け付けをする所がある。

 冒険者は先ずここで受け付けをしてからダンジョンに入るらしい。



「ユウキ早く!は〜や〜く!」


「わかってるからそんなに押すなって!ホーク、今日は軽い下見だって忘れてないよな?」


「忘れてないから!」


 ワクワクが勝っちゃってるなぁ…まぁおれもワクワクはしてるけどな…。さぁ第二のダンジョンのお手並み拝見だ。

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