なりきる職業、なりきり師。

第129話 なりきり師、ネタバラシする。

　〜ユウキ達脱出後　ギルド〜

「何やってんだアイツら？」

「さぁなんか急にカウントダウンしてるんだよな…」

「円になって手を繋いで目ぇ瞑ってるぞ、バカなのか？」

「０でなにかするんじゃね？」

「あたしも混ざろっかニャ〜なんだか楽しそうニャ！」

「ヤメとけヤメとけ恥を晒すな！」

「おっ！そろそろだぞ！」

「何が起こるんだ！？」

『３、２、１……ババア〜♡』

『！！！！！』

「馬鹿かイカれてんのかこいつら！」

「逃げろー！今すぐだ！」

「あっ……イヤーーー！」

「なんだ！？どうした？」

「おい…あれ……」

「あれ？…ヒッ！と、とにかく逃げろー！」

「何やら楽しそうな事が起こると思って待ってみれば…

はぁ、まさか１日の内に何人もババアと言う輩が現れるとは……」

「あっ♡ギルマス！近くにいたんですね？おれたちの愛、伝わりましたか？」

「愛ぃ？愛じゃと？」

「そうです！私達愛に目覚めたんです！愛があればどんな事も愛に包み込まれて許されるんですよ！

現に今もギルマスは怒っていない。私達に愛が無ければいつものようにギルマスは破壊の権化と化していたはずです！」

「僕達の愛は本物です！身代わりの魔石も消えなかった上に１００秒かけて心も一つにしました！ギルマスにも伝わったんですよね？だってギルマスと話ができでるんだもん！」

「儂が怒っていないのは怒りを通り越して嘆いておるからじゃ。長い時間をかけて徹底してきた簡単なたった一つのルールすら守れないとは……」

「愛があればルールなんて必要無いんですよ！それどころか愛がルールです！」

「はぁ、よもやこんな危険思想な物を作り出すとは…。全くグリードの小僧め…本当に厄介な子を寄越したのぉ……

貴様らの愛は確かに受け取った。じゃから今度は儂からの愛を受け取ってくれるかの？」

『ギルマス〜♡はい、喜んで！』

「そうか。それは良かった。それじゃあ遠慮なく受け取るが良い……死に晒せぇぇぇえ！！！」

　〜ユウキside〜

『ギャーーー！』

　遠くの方から叫び声が聞こえる。バカだな…本当に言っちゃったんだ…。ギルマスあの場にいたのに…

　マップで確認したから間違いない。もちろんマーキングもしてるから他の人と間違える事もない。自分の目で姿を見たわけではないけどね。

　おれたちが盗賊を渡してる時にはもうロビーにいたんだよな…。

「ねぇユウキ！ギルドの方が凄い騒がしいよ！」

「ホーク、今ギルドは愛の修羅場なんだ。愛のせいで人が死んだんだよ。」

　死んだかどうかは知らないけど……

「ふーん。ユウキはこうなる事がわかってたの？」

「うーん…わかってたって言うよりあの手この手を使ってそうなるように誘導したんだよ。」

「あっ！あの身代わりの魔石とか？でもあんなのよく持ってたね！」

「身代わりの魔石なんて持ってないよ。あれただのアイアンスコーピオンの魔石だもん。」

「えっ！？でも消えちゃったよ！」

　ホーク君はなんてピュアボーイなんでしょう。悪い人に騙されないか心配だよ…。

「そろそろネタバラシしようか。ホーク、おれがアイテムバッグからアイテムや盗賊を出してる理由はわかる？」

「うん！スキルだと目立っちゃうもん！」

「そう。名を上げる事と悪目立ちする事は違うから隠してるんだ。

で、実際にこれはアイテムバッグじゃないただの袋だ。つまりこんな袋が無くても出し入れ可能なんだよ。」

「そうだね！」

「おれの場合は持ってた魔石が消えたとしても消える＝無くなるじゃないんだよ。もうホークなら魔石が何処に行くかわかるよね？」

「あっ！インベントリ！！！」

「そう。ただインベントリに戻っただけだよ。まぁインベントリのスキルを知らなければ自分が触ってる物体が急に消えるんだから本当に身代わりの魔石だって信じるだろうね。

だからおれはそれを利用したんだ。蓋を開けてみればマジシャンもビックリの種も仕掛けもないただのスキルだったんだよ。」

「なーんだ本当に１００万プライでコッソリ買ってたのかと思ったよ。」

「ァハハ…そんな魔石が売ってれば買うかも知れないけど、あんな馬鹿げた奴等の為に使うなんてもったいないだろ。」

「うーんでもユウキは優しいから平気で使っちゃう気もするよ？」

「ないない。敵としておれの前に立ったなら見合ったやり方でやり返すだけだよ。そこに慈悲はないよ。」

「そうかなぁ？」

「そうだよ。おれは自分に関係の無い人が目の前で苦しんでても自分からは関わるつもりがないような人間だよ？

ホークがおれをいい人に見過ぎなんだよ。」

「ふーん…まっユウキがそう言うならそう言う事にしとくよ。」

「なんだよそれ…」

「ねぇユウキ！でもギルマスは耳が良いのになんで怒って来なかったの？」

「露骨に話変えたな……まぁいいや。実は今も使ってるんだけどこれだよこれ。」

　おれが手にとって見せたのは一つの指輪だ。

「あっ、これってチェスさんの所で買った指輪だよね？」

「うん。範囲は狭いけど防音効果があって話が外に漏れないようにするアイテムだよ。」

「えっ？でもさっき着けてたっけ？」

「着けてたよ。足の指にだけどね…。」

「足？」

「うん。アイツらが動いた時にインベントリから足の親指に指輪を装備したんだ。

足に指輪なんてした事なかったからめちゃくちゃ違和感あって気持ち悪かったんだよね…。」

「へぇ〜。」

「だからおれたちの会話はギルマスどころかあの周りの連中にも聞こえてなかったんだよ。」

「だから皆最初の時と違って騒がなかったんだ…」

「周りには聞こえてないんだもん。慌てる理由がないのと同じだよ。

でもアイツらが離れそうになった時はちょっと危なかったよ。

このアイテムってマックスで半径３メートルまでしか効果ないからさ…。」

「そう言えば逃げてはいけません！って大声出して止めてたね。」

「あの時は平和主義者の愛の伝道師になりきってたからな。あのまま逃しててもよかったんだけど何も起きなかったらそれはそれでまた絡んで来そうだからちょっと張り切っちゃたよ…。

途中から楽しくなっちゃって悪徳販売士になりそうになっちゃったけど、まぁちゃんと軌道修正したし大丈夫だろ。

ってかあの調子ならアイツらから金を騙し取るのは簡単だったろうな…。やらないけどね……」

「生温い聖水とか言うから笑いそうになっちゃったよ。普通の聖水でよかったじゃん！」

「ヘヘッおれも自分で言ってて笑いそうだった。なんかわかんないけど急に生温いってつけちゃったんだよね……

まっ、何事もなく切り抜けられたしもう終わった事だ気にする必要はないさ。そんな事より気分を変えて早くベットを買いに行こうぜ！」

「そうだね。ねぇユウキ！どんなベット買うの？」

「それは見てからだよ。どんなのがあるかわかんないからな。

長く使う物だし頻繁に買う物でもないから少し高くても良い物を買おうと思ってるんだ。

だからホークも好きなの選んでいいからな。」

「ホント！？」

「ホントだよ！」

「やったー！早く行こうユウキ！」

「わかったわかった！わかったからそんなに引っ張るなって…」

　クルーシェ１日目の朝から街で絡まれ、ギルドで絡まれ、ギルマスに絡まれと中々穏やかには過ごせなかったが、まぁまぁ及第点だろ。

　揉め事は解決しちゃぇば揉め事じゃなくなるんだ。ポジティブにいこう……。