第128話 なりきり師、愛を伝える。

「ねぇユウキ!次は何処に行くの?」


「そうだなぁ。メルメルに文句を言いに戻りたい所だけどさすがに面倒だしベットを買いに行こうか。でもその前にまだギルドでやる事があるんだ。ちょっとだけ待ってもらえる?」


「いいよ。何するの?」


「おれのせいでギルドは余計な依頼料が発生しちゃったからな。足りるかわからないけどこないだ仕留めた女盗賊を渡してくるよ。」


「あぁそう言えば倒してたんだったね盗賊。」


「うん。2人分だけだけどね。ホーク、この先多分さっきの事で絡まれる可能性もあると思うから挑発には乗らないようにね?」


「うん!わかった!」


「よし!それじゃあ行こうか!」


 ギルドの奥に繋がる廊下からロビーへと戻った。







 〜ギルドロビー〜



「うわーもう綺麗になってるね!」


 壊れたドアや穴の空いた地面はそのままだが大方元に戻っていた。



「これだけの人がいる上に生活魔法のクリーンがあるからな。覚えてる人からすれば楽に臨時収入が出たって感じかもしれないな。掃除が魔法一発でできるなんて便利な世界だよな。」


「そうだね。おれたちも覚えてよかったよね!」


「だな!ホークが生活魔法の話を聞いてくれたおかげだよ。」


「でしょ!?へへへ…」


「逆に覚えてなかったであろう旨味を得られなかった奴からはすっごい睨まれてるけどな…」


「あっホントだ…。めちゃくちゃ睨んでるね……」


 報酬が一人いくら出たのかは知らないがあからさまに不服そうな顔をしてこっちを睨んでる奴は複数いる。


 ギルマスは掃除したら報酬を出すって言ってたのに魔法が無いからやらなかったんだろうな…



「ん〜まっ!ほっとけばいいさ。おれにかかれば何の問題も無いよ。それよりホーク今がチャンスだ!買取所に誰も並んでないぞ!」


 おれたちが今出てきたのは入り口からみて右側面にある扉だ。扉はないんだけどね…。

 ただでさえ時間くっちゃったしこの睨んでる冒険者達に時間さきたくないなぁ…。どうやって買取所まで行こうかなぁ?


 う〜ん…よし、ここはプランBだな!



「ホーク行こうぜ!アイツらはおれに任せろ!」


「うん!」


 おれたちは普通に歩き出した。恐らく十中八九絡まれるだろう。だけどそれは許そう。

 おれが原因を作ったってのも少しは自覚してるし仏の心で受け入れよう。


 今のおれは平和主義者だ。これ以上のいざこざは自重しよう。


 おれたちが移動を始めたと同時にやはりと言うべきか睨んでた冒険者達も動き出した。



「おいクソガキ!テメェのせいでおれたちまで死ぬところだっただろ!どう責任とるつもりだ!」


 血の気が多いねぇ…あ〜やだやだ。全部で7人かぁ。まぁ何人いたってやる事は変わんないけどね…。



「まぁ、なんて汚い言葉使いでしょう!それにこんな大勢で寄ってたかって……フフッそれでも私は貴方達を許しましょう。」


「は?何言ってんのよアンタ!自分が何したかわかってんの?」


「確かにあの時の私はどうかしていた。このギルドでの禁句と知らなかったとは言え女性にあんな酷い言葉を吐いてしまうとは……

それにそのせいでたくさんの冒険者達にも迷惑をかけてしまいました…。

そして思い知りました。この世には怒らせてはならない方がいるのだと言う事を…。」


「何が言いてぇんだよ!関係ない話すんなよ!」


「そうだ!バカにしてんのか!」


「バカにはしています。…ッだけど勘違いしないでください。私は貴方達も救いたいのです。」


 あっ、ヤッベ。つい本音が出ちゃった…。



「はぁ?何言ってんだテメェ!ふざけんなよ!」


「ふざけてなどいません!私は本気です!先程ギルドマスターと意見交換をして気付いたのです。

まるで雷に打たれた時の衝撃でした…いえ、あの時の雷の衝撃以上に私の心は痺れました!

私には愛が無かった。愛があればあの禁句を言ってもギルドマスターは許してくれたのでしょう。

貴方達も愛を持てばこのギルドで怯える事なく過ごせるのです。」


「あんたバカなの?そんな事であのギルマスが許すわけないでしょ!」


「いいえ、それは違います!愛を持ってさえいれば許してくれます!それを今証明しましょう。怯えないで愛を持って待っていてください。ババア!」


 おれは必殺技風に祈るポーズをとりながらババアを唱えた。



「嘘だろコイツ!また言いやがった!」


「逃げろ!死ぬぞー!」


「逃げてはいけません!!!」


「うるせぇ!」


「冗談じゃないわよアンタ!」


「今!何も起こってなどいないでしょう!」


「「「「「えっ!?」」」」」


「よく周りをご覧になってください。先程とは違い誰も取り乱したりしていないでしょう。」


「本当だ…」


「でもなんで?」


「これが愛の力です。私は愛を持って貴方達にババアと言いました。するとどうでしょうこのギルドで禁句とされているババアと言う言葉は愛を持つ言霊となりました。」


 何言ってんだろおれ……自分でもわけわかんなくなってきた…。



「愛が言葉を包み込んでくれたのです!これを私は貴方達にも伝えたい!!!もう恐れなくて良いのです。怯える事なくこのギルドにいれる日々を、冒険者が冒険者として生きていける日常を、それがどれほど素晴らしい事かを……。」


「冒険者として怯えない日々…」


「愛…」


「今なら私は身代わりの魔石を持っています。本来なら100万プライと凄く高価な代物ですが今日はこれを使いましょう。」


 アイテムバッグ風に見せた袋からアイアンスコーピオンの魔石を取り出した。



「さぁ皆さんこれに触れてください。」


 戸惑いながらも全員魔石に触れた。



「皆さん恐れないで愛を持ってババアと言いましょう。いきますよ。せーの!」



『ババア!』



 しゅんと魔石が消えた。



「あっ…」


「魔石が消えた!」


「まだ誰か恐れているようですね…。身代わりの魔石があってよかった……

愛を苦痛に思わないでください。愛に『く』が足されてしまうと悪意になってしまいます!

皆さん悪意に負けないで!さっきの私のようになってしまいますよ。

まだ魔石はあります!もう一度いきましょう。皆さん触れてください。」


 もう一度袋から魔石を出す。



「どうしておれたちの為にそこまで…」


「高いんでしょこの魔石?」


「皆さんの幸せの為ならこんな魔石いくら無くなったって高くありませんよ。さぁいきますよ!せーの!」



『ババア!!!』



 今度は魔石が消えない。



『おぉ!』



「愛の量は目に見えない物…もしかしたらまだ恐れていた人がいたかもしれません。だけど貴方達は一人じゃない。互いが互いをカバーできるのです。

愛が不安な人は皆さんを頼って下さい。愛に自身がある人は分け与えて下さい。そうすればきっとこの世は素晴らしい世界になります。

本当ならこの魔石だけじゃなくブレスレットや水晶、御札やお守りや生温い聖水などを貴方達に安値でお譲りしたかったのですが、残念ながら私も愛に目覚めたばかりの身、この魔石以外持っていないのです…。」


「そんな…」


「あたし欲しい!」


「お、おれも!」


「ですが皆さんには愛を分かち合う人がいるじゃ無いですか!隣を見てください。魔石が無くても怖くないはずです!

手を繋ぎ目を閉じお互いの愛を均等にしてもう一度ババアと愛を持って言いましょう。そうすれば私のように魔石など必要無いのです!さぁ皆さんで100数えて集中して愛を均等にしてください。」


「わかった!」


「やってみるわ!」


「さっきは酷い絡み方して悪かったな…」


「構いません。その心が美しい。私は貴方達の事をきっと忘れません。途中で集中を切らさない為にも目を瞑り愛を感じてください。

100からカウントダウンでゆっくりいきましょう。いきます…。せーの!」



『100、99、98…』



「ご武運を…」


 ホークに指で合図しておれたちは急いで買取所に向かった。


 ただでさえおれに出し抜かれてイラついてるのに大勢でババアなんて言ったらこのギルド壊す勢いで暴れるぞあのギルマス。


 さっさとこのギルドから出ないとおれたちまで危ないからな。このバカ達には生贄になってもらおう。絡んできたアイツらが悪い。



「はじめましてこんにちは。」


「はい、こんにちは。」


「さっきギルドは掃除の報酬払いましたよね?あれちょっとはおれも悪いんでこの街に来る前に討伐した盗賊をプレゼントします。」


「盗賊をプレゼントですか?」


「はい、それと結構急いでましてここでアイテムバッグから出していいですか?あっ、ちゃんと血抜きは出来てるんで汚れる事は無いですよ!」


「あ〜そうですねぇ…本来盗賊のような大きな獲物の場合は別の解体場で出して貰うんですが、急いでるんですよね?それにギルドに提供してくれると言う事なので今回だけ特別に僕の権限でよしとしましょう。」


「本当ですか?ありがとうございます!じゃあこれお願いします。」


 アイテムバッグ風袋から盗賊の死体2体をカウンターに乗せる。

 インベントリから出してるから腐ってる事も無い。



「じゃあ急ぎますのでおれたちはこれで!またお願いしますね。」


「はい。次はモンスターの素材なんかも持ってきてくださいね。買取価格はおまけできませんけどね。」


「ハハッ!わかってますありがとうございました。」


「ありがとうございました!」



〈キュー!〉



「急げホーク!時間がないぞ!」


「うん!」


 こうしておれたちはギルドから無事脱出できた。

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