第126話 なりきり師、墓穴を掘る。

 クルーシェのギルマスに担がれ知らない部屋へと案内された。死んだふりはそろそろ解いても大丈夫だろう。



「さて、聞きたい事が山程あるんじゃが?」


「クリーン。おれは言いたくない事が山程あるんですけど?それよりメルメルのギルマスから手紙を預かってるんです。

何が書いてるのかは知りませんが紹介状だって言ってました。それをまずは読んでください。」


 ポーションを出し傷口に振りかける。



「あの小僧が紹介状?偉くなったもんじゃな。どれ見せてくれるか?」


 子供の見た目で小僧って言われるオッサン…違和感半端ないな。

 あっ!でもプライからすればこのギルマスも小娘なのか…不思議な世界だねぇ。



「これです。これを受付嬢に渡して……うん、とにかく読んでください。」


「これをババアに渡せって伝えろと言われたんじゃな?あのイタズラ小僧め…」


「本当は言うつもりなんて無かったんですよ。あの下世話な受付嬢が催促してくるから…しかも自分は真っ先にいなくなってるし……」


「下世話な受付嬢か。ポアラじゃな後で叱っておこう。どれどれ…」


 そう言って手紙を読み始めた。その為おれたちはしばらく黙って見守る事になった。



「ほう…なるほどのぉ。ここには君達に協力してやれ的な事が書いておる。自分達で読んでみなさい。」


「えっ?いいんですか?」


「もちろんじゃ。儂もどこから処理すればいいのかわからんからのぉ。」


「? わかりました。とりあえず読みますね。」


 ギルマスから手紙を受け取り読んで見る。



『おぅババア!相変わらずババアやってるか?』



 何この冒頭酷すぎない?思わずギルマスを見ちゃったが構わず読めって目をしてきてる…。



『おれのギルドから面白い奴等がババアのギルドに行く事になった。

見てて飽きねぇが頭痛の種でもある。ってのも間違いなくそいつらは毎日問題を起こす。それもかなり大きい問題をだ……


理由は話せねぇがユウキとホークはとにかく特殊だ。特にユウキだけは本気で怒らせるな街が滅ぶぞ…。


その2人は訳あってダンジョンの攻略をしなきゃならねぇ。進めずの扉の先の事を知ってるなら2人に教えてやってほしい。頼む。

頼み事ばかりで申し訳無いがそいつらが嫌がったら素性の詮索はしないでやってくれ。

おれたちは無理矢理聞き出した事を後悔した。無神経にも脅迫的にその2人が抱えてる過酷な運命を話させてしまったんだ…。


昔散々迷惑をかけたし虫のいい話だとも思うがおれからの願いだその2人に協力してやってほしい。

協力と言っても頼みたい事は2つだ。ゼーベルダンジョン最下層までの攻略許可と出元がわからないように素材を秘密裏に買い取ってやってくれ。

それ以外はその2人が自分達でなんとかするはずだ。よろしく頼む。


メルメル ギルドマスター グリード=シートス』



「う〜ん…キャラじゃないねぇ…。」


「そうだね。最初の方はともかく最後はいい人全開だよね。珍しい…。」


「あの小僧がこんな風に儂にお願いしてくるとはよっぽど君達が気に入ってるようじゃの。」


「いや、それならあんなデストロイな伝言はさせませんよ。騙されちゃダメです!」


「ほっほ。そう言う事にしておこうかの。しかしそこには君達の事は詮索するなと書かれておるが儂は君達の事を知りたいとも思っておる。」


「…はい。」


「ウッドゴーレム」


「えっ?」


「ディフェンシブ、肩代わり、回転蹴り、ライトニングボルト、バインドプラント。どれも剣を使う職業じゃ使えないスキルばかりじゃ。」


「………」


「儂は耳がいいんじゃよ。安心せぇこの部屋の会話は外には漏れん。」


「はぁ…考えてみりゃそりゃそうか。受付で話してたおれの声を聞いて襲って来たんだもんな……」


「スキルの書を理由にするには少し多すぎるからのぉ。しかも無詠唱での魔法使いの高レベル中級魔法ウッドゴーレムの5連発…そしてこの部屋で使った無詠唱のクリーン。」


「あっ!しまっ!!って最初からお見通しなんでしたね…。隠しても無駄なようですね…。」


「儂の予想では君は転生人かの?そう考えればあの小僧の手紙も君のでたらめなスキルの数々も納得できる所が増えてくるんじゃが。」


 あっさりバレてんじゃん…いきなりこんなハイスペックエルフが襲ってくるなんて想像できねぇよ。

 命があっただけましだと思って覚悟を決めるか…。


「他言無用でお願いしたいんですけど人の口に戸は建てられませんからね。別に話したければどうぞご自由に。

おれたちはもう名を上げる事にしたんです。転生人だってバレるにはまだ早いですけどドジったおれが悪いんで諦めますよ。

だから脅しが通用すると思わないでください。

あと一つ言っておきますけどおれは街を滅ぼしたりしませんよ。やるにしても関係の無い被害は出したりしません………多分。」


「何か勘違いしておるようじゃの。儂は君達の事を誰かに話すつもりはないぞぇ?」


「えっ?」


「君達の事を知りたいのは個人的な興味じゃ。そして何も知らん相手に協力する程儂はお人好しじゃない。」


「でも転生人はバレたら色々利用されるって…」


「なるほどのぉ…それは否定できん。底意地の悪い奴に見付かればどんな手を使っても囲い込もうとする輩はいるし

儂もこの街に脅威が迫ったら君達に頼み事をするかも知れん。そう言った意味では利用される事も多いじゃろうな。そうだのぉ…ちょっと待っておれ…。」


 そう言ってギルマスは机の引き出しをゴソゴソしだした。



「あったあった!心配ならこれを使うといい。」


 ギルマスが差し出して来たのは前に見た事がある紙だ。



「これは契約を結ぶ為の紙じゃ。ここに…」


「あぁこれもういいです。メルメルで経験済みですから…。それにこんな紙が無くても自分でコントラクト使えますし。」


「そうか、それは失礼した。ならば君が自分で契約を結ぶといい。」


「いや、契約はいいです。転生人だってバレてなくてもリッシュを連れてる事でおれたちは常に狙われてるんです。

正直今更転生人だってバレた所で降りかかる火の粉を払うことに変わりはないんですよ。

ある程度の偽装工作はもうメルメルでやってきたんで家族にも迷惑がかからないと思います。


それにおれは転生人って知って絶対に利用しないって言う人より、困ったら利用するかもって言う正直な人の方が少しは信用できると思うタイプの人間ですから…。聞くかどうかは別ですけど。」


「ほっほ、君も中々ひねくれておるのぉ。」


「なんとでも言ってください。」


「ところで手紙に書いてなかったがそのドラゴンの子はどうしたのじゃ?ドラゴンを連れている事もかなり珍しいのじゃが?」


「この子はこの子の親から預かったんですよ。怪我を治す間育ててくれって。

手紙に書いてないのは多分この子が仲間になる前にでも書いてたんだと思いますよ。

リッシュ挨拶して。舐めちゃダメだよ。」



〈キュー!!!〉



 お決まりの片手を上げてリッシュが挨拶をした。



「フフッ。カワイイのぉ…。抱っこしてもいいかの?」


「どうするリッシュ?」



〈キュー♪〉



 あっ、自分から飛んでいった。ハハ…警戒心全く無いな……



「ほぉ、硬さもありながら中々の柔らかさ。初めての触り心地じゃ。」


 うんうん。わかるよ。そのなんとも説明しずらい感触。



「まだ全体的に色素が薄いのかほんのり金色がかった色。」


 そうなんだよね。ジフと違ってリッシュってまだ色が薄いんだよね。外側の鱗はパット見金ってより薄黄色だもんね。



「まだ子供ながらに備え持つ神秘的な気品と鬼気迫る迫力。」


 おっ!このギルマスわかってるな。リッシュってカワイイもんね。それにリッシュはステータス的におれたちより全然強いもんな。



「かつて見た幻の古代龍エンシェントドラゴンの子にそっくりじゃ。」


「………へ?」


「儂がまだ若かった頃1度だけ古代龍エンシェントドラゴンの親子を見た事があるんじゃよ。

確かあれは220年程前じゃったかの?この子は違うのかぇ?」


「いや、何歳だよ!そんだけ生きててその見た目であの動きって…あなたも中々の道化ですね。

それにまさかエンシェントドラゴンの事まで知ってるとは…あなたに隠し事はできそうに無いですねぇ。」


「騙してなどおらんよ。それは君が勝手に人間を基準にして考えておるからじゃよ。エルフなんじゃから長く生きておるのは珍しい事ではないぞ?

そうじゃのぉこれも年の功と言うものじゃ。生きてきた時間の経験値が違うんじゃよ。」


「それならババアって言われただけであんなに怒んなよ…で、ダンジョンには行っていいんですか?」


「まぁそんなに結果ばかりを求めなさんな。まだまだ話す事はたくさんあるじゃろ?」


「もういいです。帰りたいです。あなたと話しててもおれたちばっかり情報を引き出されてる気がしますから…。

未熟者は尻尾巻いて逃げたいんですよ。ダンジョン攻略の許可を貰えれば万々歳です。」


「おや、随分警戒されてしもぉたようじゃのぉ。そんなに嫌われるような事はした覚えがないんじゃが?」


「あんだけ暴れといてよく言うよ…」


「まぁよい。ではグリードの小僧も手紙に書いておった進めずの扉の話でもしてやろう。」


「何か知ってるんですか?」


「儂もマミーに聞いただけだから実際に自分で知ってる知識訳ではないがな。それに忘れてるか間違っておる部分もあると思う。それでもよいか?」


 このギルマスのマミーって事は何歳だ?何年前の話だ?

 まぁ何も情報が無いよりも全然いいだろう。聞かない以外の選択肢はないな。



「よいです!お願いします!」


「お願いします!」


「全く、現金な子達じゃのぉ…。」


 おれたちは帰るのを辞め、ギルマスの話を聞くことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る