第124話 なりきり師、騙される。

 〜翌日〜


 宿も無事に取れてクルーシェでの初めての朝だ。久々によく寝てゆっくり休めたので3日間歩き旅の疲れはもうない。



「ホーク、リッシュ、そろそろギルドに行こうか。朝のピークも多分過ぎただろうし面倒な挨拶はさっさと終わらせちゃおうぜ!」



〈キュー!〉



「そうだね!クルーシェはどんな依頼があるのかな?」


「それもちゃんと確認しないとな!前にサナさんに怒られた事もあったし。」


「アハハ…あの時のサナさん怖かったよねぇ〜」


「一度スイッチ入ったら止まんない人なんだろうな?この街のギルドの人達もいい人だったらいいな。」


「そうだね。」


 そうしておれたちは宿を出てクルーシェの冒険者ギルドへと向かった。


 道中はやっぱり好奇の目に晒されている。おれの頭の上にいるリッシュを見て怖がる人、チラチラと見てる事が気付かれてないと思ってる人、睨みつける人、挨拶してくれる人、ゲスな笑みを浮かべる人、人間も亜人も関係なく本当に様々だ。


 まぁ見てるだけで何もして来ない限りこっちから何かする事はない。できればその距離感を保ってくれるとありがたい。



「なぁホーク?ドラゴンを仲間にするのってそんなに珍しいのかな?テイマーって職業がある以上中にはいると思うんだけどな?」


「うーん…どうだろ?ギルマス達も驚いてたし、貴族も狙う位だから珍しいんじゃない?」


「あぁ…そう言われればそうだったな…。おれは慣れてたからいいけどホークはジロジロ見られて大丈夫か?」


「平気だよ!別にやましいことしてないもん!」


「そっか。ホークは凄いなおれは昔慣れるまで結構時間かかったんだよ?

はぁ〜あこうなっちゃったんだからもう冒険者として名を上げて逆に手を出させないようにしちゃおうか?」


「あっ!それいいかも!おれたちS級になっちゃう?」


「それもいいけどおれたちがS級で止まっちゃったら2度とS級が現れなくなっちゃうぞ?ギルドにS級以上を作らせないとな!」


「アハハ作ってくれるかな?」


 大袈裟でも何でもなくこれは事実だろう。転生人の、おれのステータスアップ率はハッキリ言って異常だ。それもレベルが上がるに連れて上昇値はふえていく。

 もちろん今現在ではトップにはなれないがレベルを上げてさえしまえば周りを置いてけぼりにしてしまうだろう。

 しかもおれはレベル上げに割と貪欲だ。そう遠くない未来にはSランクに到達してしまうだろうな…。


 ホークにしてもリッシュにしてもそうだ。常人よりステータスの上昇値は大きいし何より他の人には無い称号によるステータスアップもある。

 まだ全員レベルは低いが、長い目で見ると絶対にホークは強くなる。



「僕ちゃん達、楽しそうな会話してんじゃなぁい!」


「S級がなんだって!?冒険者舐めてんのか?」


「ちょっと面貸せや!特別に教育してやる。おれたちが冒険者の現実を教えてやるよ!」


「……ギルドはきっと作らざる負えなくなるよ。時間の問題だよ。」


 ホークここは無視が一番だぞ。バカの相手はするだけ時間の無駄だ。



「…うん!一杯依頼受けてランクあげないとね!」


 おっ!どうやら何も言わなくても伝わったようだ。ナイスホーク!



「おい!無視してんじゃねぇぞ!!!」


「お前らはおれらのサンドバッグに決定したんだよ!」


 折角無視して見逃してやろうと思ったのにこう言う奴等って何で諦めないんだろうな?

 ホークとの会話を楽しんでいるといかにも頭の悪そうな男が3人絡んできた。

 どうやら話が聞こえてたらしくそれが気に食わなかったようだ。

 前にやられた新人イジメの時も勝手に絡んて来て返り討ちだったな…はぁ、この街でもか…仕方ない。



「はぁ…ホーク、リッシュをお願い。1分で終わらせる。」


「1分?わかった!」


 リッシュをホークに渡しコイツらの相手はおれがしよう。



「ブハハハハ…『1分で終わらせる』だってさ!」


「自分が強いと思ってんのか?バカすぎだろ!サンドバッグは抵抗する権利すらねぇんだよ!」


「安心しろ1時間はボコってやるぜ!」


 絡んでくるのに3人じゃなきゃいけないルールでもあんのか?群れなきゃイキれない雑魚が!喧嘩売るならせめて路地裏とか人気の無い所にしろよ…


 まぁいいやさっき開き直って名を上げる事に方向転換したからな。転生人だってバレなきゃ戦う姿を見られたっていいや。


 ただこれだけ目撃者がいるんだし殺さないように注意しないとな…。よし!あれで行くか!

 やった事ないし見様見真似のぶっつけ本番だけど見るからに量産型モブだしまぁ問題ないだろ…。


 んじゃ、さっさと終わらせますか。



「カッ」


「ハッ」


「クッ」


「ふぅ…流石に1分は長すぎたか……」


 やってみたら出来ちゃうもんだね。俊敏をフルマックスに使って後ろに回り込んでからの手刀の首トン一発で5秒とかからずに終わっちゃった…。



『オオォォォ!!!』



 パチパチと拍手と歓声が辺りに鳴り響いた。どうやら思ってた以上に見られてたようだ…。

 そりゃここは街のど真ん中だし人も一杯いるけどさ…


「凄いねアンタ!今のやりとり見てたけどスカッとしたよ!」


「ボウズこれ持ってきな!冒険者頑張れよ!」


「あっ、どうも。あっ、ありがとうございます。」


「カッコよかったわよ!応援してるわ!」


「何したのか全然わかんなかったぞ!どうやったんだ?」


「お兄ちゃん凄かったね!」


 なんで喜ばれてんの?通報されてもおかしくない出来事だよ?

 そう言えば決闘の時も周りでわーわー騒いで盛り上がってたな…

 やっぱりこの世界の人とは価値観が違いすぎる……5年やそこらじゃ日本人が抜けきらないな…。



「ご、ごめんなさい!おれたち急ぎの用事があるんで失礼します!行こうホーク!」


「う、うん!」


 なんとか周りに集まって来た街の人達をかいくぐり走っておれたちはその場を後にした。








 〜クルーシェ 冒険者ギルド前〜



「はぁはぁ…あんなに騒がれるなら目立つのも考えないといけないな……」


「凄かったね!前の決闘の時もそうだったけど皆戦いを見るのが好きなのかな?」


「あっ、やっぱりホークも思った?街の人達であれなんだからそりゃ冒険者は血気盛んだよな…

まぁとりあえず冒険者ギルドには着いたしさっさと紹介状渡してダンジョン攻略の許可を貰って準備しようぜ!」


「そうだね。」


「あっ、そうだ!ホーク、リッシュ、もし挑発されても乗っちゃダメだよ!

いくら相手から仕掛けてきてても多少の煽りもスルーできない我慢0の奴なんて嫌われる以外の未来はないんだからな。

それでも我慢できない時は仕方ないけど、やるならちゃんと条件を整えてからだよ。」


「条件?」


「そう。ちゃんと自分が悪くない事を証明できるように目撃者を作ったり、逆に誰もいない場所に誘導したりしてからだよ。

なんでも噛み付いてるだけのバカには普通の人は味方してくれないんだよ。

要は喧嘩するにしても怒りに任せて喧嘩するんじゃなくて考えてからしようねって事だよ。」



〈キュー!〉



「ん〜頑張る!でもユウキこそ大丈夫?」


「おれは大丈夫!知り合いですら無い奴等からの悪口なんていくら言われても1ミリたりとも響かないよ。

まぁもし攻撃してきたら完膚なきまで叩きのめすけどね。

それに今回は秘策もあるし絡まれても多分大丈夫だと思うよ。」


「へぇ〜いつの間に?秘策ってなんなの?」


「まだ内緒。使わなくていいならそれに越した事は無いんだよ。それよりとにかく行こっか!」


「え〜気になるよぉ!待ってよユウキ!」


 そうしておれたちはクルーシェのギルドへ入った。









 〜クルーシェ ギルド〜 



「メルメルとそんなに変わんないな…。」


 入り口の大扉を抜けると大きなロビーがある。正面奥にはカウンターがあって買取所はカウンターから左に行った所にある。


 建物を支える太い石の柱の周りもベンチとして利用してたりして広いのに無駄なスペースが無いように作ってるようだ。

 もしかしたら過去の転生人が助言したりしてたのかもしれないな。



「やっぱり初めてのギルドってワクワクするね!早くカウンターに行こうユウキ!」


 どうやらホークの興味がおれの秘策からギルドに移ったようだ。

 入る前まではあんなに聞いてきたのに今はもうスッポリ頭から無くなったようだな。



「受付は逃げないからそんなに急がなくても大丈夫だよ。」


「いいからいいから!」


「ったくしょうがないな…。」


 ホークに手を引かれカウンターへとやってきた。ここでもヒソヒソ話は相変わらずだ。



「ようこそクルーシェの冒険者ギルドへ!初めての方ですね?冒険者登録ですか?」


「あっ、いえ。もう登録は済んでます。これおれたちのプレートです。ダンジョン攻略の許可を貰いに来ました。」


「ふぇ!?赤のプレート……ってDランク?子供なのに!?」


 サナさんと違ってクルーシェの受付嬢は大分元気だなぁ…



「成人の儀は終わらせてますよ。それとこれメルメルのギルマスからの紹介状です。クルーシェのギルマスに渡してもらうように言われてます。」


「紹介状ですか?」


「あれ?ユウキ、ギルマスからの伝言は伝えなくていいの?」


「いいんだよあんなの。地雷臭しかしないだろ。あの時は納得しちゃったけど、今なら絡まれても秘策があるから大丈夫だ!」


「地雷臭の伝言…気になりますね!誰にも言わないので教えて下さい!」


 あっ、この人ゴシップ好きなんだ…。正直苦手かも……



「絶対言いますよね?まぁメルメルのギルマスの伝言でおれたちが思った事じゃ無いんでいいですけど。」


「早く!早く!」


 うわー下世話を隠そうともしなくなったな…。



「はぁ…えっと確か『ギルマスのババアに渡してくれ』ですよ。」


「ヒッ!!!」


「えっ?なに?」


 受付のお姉さんが驚いた声を出したと同時に周りもシーンしてギルド内から音が消えたぞ?



「ヤベー逃げろ!」


「誰だアイツ!死にてぇなら一人で勝手に死ね!」


「ふざけんじゃないわよ!」


「終わりだ…もう間に合わない…。」


「えっ?ちょっと何これ?あれ受付の人は?」


 周りの人達が慌てふためいてる…。おれに向かって暴言を吐き捨ててるし間違いなくおれが原因だよな?

 って事は………やられた…。あのクソギルマス覚えとけよ!



「だ〜〜〜〜れ〜〜〜〜が〜〜〜〜」


「ホーク!リッシュを頼む!少しの間向こうに離れてろ!」


「わ、わかった!」


 マップ内で高速でこっちに向かって来る白い点。聞こえてくる『だれが』の声。周りの騒ぎよう。

 総合的に考えてこれはもう間違いない。何が『器の小せぇ女じゃねぇ』だよ!激おこじゃねぇか!お猪口の器すらねぇじゃねぇかよ!



『ドゴォーン!!!』



「キャーーー!」


「あぶねぇ!」



 奥からロビーへと繋がるドアが凄い音を立てて粉々になって飛んでいって近くにいた人が叫び声をあげた。


 砂煙が舞いその中に人影が見えたと思えばそれはすぐにこっちに向かって飛んで来た。



「ババアだゴルラァァァァ!!!」


「ビッグシールド!!!」


 ビッグシールドを使い盾を大きくして防御を試みる。


 はぁ、どうやらクルーシェの街でも穏やかには過ごせないようだ……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る