第122話 なりきり師、鳴り響く。
「キャーーーー!」
あれから2分もしない内に盗賊の叫び声が聞こえてきた。
「どれどれ?ちゃんと捕まえてるかな?鷹目!遠目!おっ!いたいた。」
自分の魔法ながら有能だなぁ。鮮やかに盗賊を捕まえてるぞ。
おれは鷹目を使い今いる場所を上から見て、更に遠目を使い盗賊にピントを合わせた。
女盗賊2人組はウッドゴーレムに首から下を木で覆われてしまい首だけが木から生えてる状態だった。
「あんな器用な捕まえ方よくできるなぁ…感心感心!」
さて、じゃあお仕置きの時間といきますか。おれは盗賊の元に叫び声を聞いた体で駆けつけた。
「あの〜大丈夫ですか?」
「あっ、助けて!急に木の化け物が!お願い助けて!」
「助けてって言われても…どうしたらいいんですか?それに化け物って言うかそれただの木ですよね?」
「えっ?何言ってるの?」
「だってトレントとは違うし…僕が近付いても攻撃して来ないし……
モンスターや化け物とは違うと思いますよ?」
「今はそんな事どうだっていいんだよ!早く助けろよ!」
なんだコイツ立場わかってんのか?なんで上から命令してんだよ!
「ヒッ!」
「ごめんなさいお願い待って!カサあなたも謝って!」
おっ!怖がったフリをして逃げ出そうとしてると焦りだしたぞ…。
「ッチ…悪かったよ…」
「ね?この子少し口が悪いだけで悪気はないの。お願いだから行かないで!」
「はぁ……」
「見ての通りの状態で魔法が使えないの。この木を何とかできないかしら?」
「魔法を使えるんですか?」
「えぇそうよ。私魔法使いなの。でも今の状態で魔法を打つと暴発してしまって使えないの。」
はい嘘〜!魔法は確かに持ってたけど、お前は元魔法使いだろ?職業はしっかり盗賊だったんだよなぁ。
「助けてくれたらお姉さん君にいい事してあげる。どうせまだ経験無いんでしょ?私凄いのよ!」
ハニトラ系盗賊か?随分自分に自信あるんだな。方向性さえ間違ってなければいい事だけど間違ってるよそれ。バキバキに砕いとこーっと。
まぁ実際この世界ではこの女の言う通りまだ童貞なんだけどね……
「いや、母さんより年上はちょっと…僕オバサンに興味無いんで…。」
「オバ!……」
「ガハハハハ…オバサンだってよモーナ!お前まだ20代だろ?」
「えっ!!!嘘でしょ?20代!?」
「ガハハハハ…ヤベー!ガハハ…」
コイツ仲間じゃねぇのか?庇うどころか笑ってるぞ…最低じゃね?
「そ、そうよね…私じゃイヤよね…。はぁ〜可愛くなりたい…。自分の顔ブス過ぎて死にたい…私ブスなオバサンだから……」
えっ!?何?今日ご褒美デーなの?全然予想してない角度からとんでもないご褒美が目の前に現れたんだけど……おれのオバサン発言を遠回しに責めてる悲劇のヒロイン現れちゃったよ。
ギルマスとのコメント欄ごっこは不発に終わっちゃったけどまさかこんな所でおれの大好きな勘違いブスまで登場してくれるとは…
うっしゃー!それじゃあ日本でやってみたかった事シリーズパート2!開始しまーす!テンション爆上がりだー!
「そ、そんな事ないですよ!」
「えっ♪そぉ?そうよねわかっ…」
「はい!僕もその顔だったら死にたくなるのもわかります。でも人間は顔じゃない最終的に行き着くのは性格かお金ですよ!性格さえ良ければブスでもきっといい事はありますよ!」
「は?」
「おれこんな言葉を聞いた事があるんです。『ネガティブスよりポジティブス』って。同じブスなら明るい方がいいですよ!
そんな周りを不愉快にさせるだけの分かり切った事を口にするより、そのブスを活かして周りを愉快にさせる方が絶対いいですって!
それにおば…お姉さんの顔はよくて中の下。まだまだ下はいます。だからそこまで卑屈になる必要はないと思いますよ!」
はい!やってやりました!頭の中でファンファーレが鳴り止みません!!!
日本で芸能人がやったら炎上間違いなし、下手したら訴えられるレベルの勘違いブス退治!やっちゃいました!
そんな事無いよ待ちの構ってちゃん勘違いブスに事実をお伝えしましたー!ガッツポーズを我慢するのに必死です!
「グググ……ざけんなよ!クソガキ!私は顔も性格もいいんだよ!アンタにそんな事言われる筋合いないから!私が普段どれだけ男にチヤホヤされてると思ってんのよ!
自分がちょっと綺麗な顔してるからって調子のんなよ!さっさと私を助けろ能無しが!」
あ〜あ…猫被って演技してたなら何言われてもキャラ守んないと一流にはなれないぞッ☆
化けの皮が剥がれて本性ダダ漏れだよこの三流ペテン師が!
お前がどんだけチヤホヤされてるかなんて知らねぇよ!盗賊に落ちるような事しておいてその上おれたちを狙ってた癖に普通に助かると思うなよアバズレが!
勘違いブスはネットで見るから面白いだけであって目の前でやられると相当面倒くさいんだろうな。
友達だったり波風立てない系の人はコイツ痛い女って心の中で見下して精神衛生保つしかないだろうし…。
全身ガチガチに固まってるこの状況の中で顔ブスで死にたい発言する根性は凄いけど、死にたく無いから必死におれを引き止めたんじゃないのか?
キャラがブレブレなんだよ!設定から練り直して出直して来い!あっ、もう死ぬんだった…。
「ガハハハハ…腹痛ぇ……あ〜ハハハハハ…」
この女絶対この女の事嫌いだろ…。顔しか出てないありえない状態でもさっきから笑い止まんねぇじゃん…口悪くても今まで我慢してたのかな?
さてと、公開処刑はこれくらいにしてさっさと済ませてホーク達の所に戻ってご飯食べよ。ちゃんとカワイイリッシュもお腹空いてるだろうし。
「遺言はそれでいいのか?死にたいんだろ?丁度いい殺してやるよ。」
「「えっ!?」」
「ちょちょちょちょちょ!嘘よね?まさか今のに怒ったの?冗談よ!本気にしないで。ね?」
「おれはお前と違って積んできた経験が違うんだよ。あんなので怒るわけないだろ。その他大勢の暴言なんて土の奥深くの微生物並に気になんねぇよ。」
「じゃ、じゃあ何で剣出したの?ねぇ…」
「そうだ!しまえよそれ!」
「あ゛?」
「ッ……しまってください…」
「無理!お前らがおれらを付け回すから悪いんだよ。メルメルからコソコソとご苦労なこった。」
「な、何言って…」
「気付いてなかったと思ったか?おれはリッシュを狙う奴は許さねぇんだよ!」
「ッチ…」
「どの道お前ら盗賊だし生憎おれはDランクだ。この意味わかるよな?」
「な、なんでそれを…えっ?なんで……」
「狙う相手を見誤った自分を恨むんだな。ウッドゴーレム角度を変えろ!」
ウッドゴーレムがウネウネ動き身体は完全に木の中に入れたまま盗賊の顔が下を向くように地上1メートル位でうつ伏せ状になるように形態変化した。
「何よこれ!イヤー!」
「安心しろギルマスとの約束だから楽しむ気はない。一瞬で終わらせてやる。はぁ…慣れって怖いな…。」
「くっここまでか…」
「スラッシュ!スラッシュ!」
おれは女盗賊の首を2つ跳ね飛ばした。そして…
【アーチャーの熟練度が10に上がりました】
【アーチャー専用スキル
【アーチャーの熟練度が限界まで上がりました】
【アーチャーの上位職 ガンナーが開放されました】
【アーチャーと魔法使いをマスターした事によりマジックアーチャーが開放されました】
【なりきり師のレベルが8に上がりました】
【奥義 スターライトノヴァを覚えました】
【転職可能職業が増加しました】
おぉいつもより長い!こっちもこっちで鳴り響いてんじゃん。それに今回はいつもと違うアナウンスがあるな…。
戦士と魔法使いも魔法使いとヒーラーも出なかったから複合職って無いと思ってたけどやっぱあったんだ。
しかも奥義まで覚えたぞ!てっきりプライの言ってたレベル10で喜ぶってのは奥義の事だと思ってたけど違ったんだ……
スターライトノヴァ…直訳すると『星の光の新星』まさかの星被りだよね?
どんな奥義なんだろ?自分の名前が入ってるってのもちょっとどうかと思うけどホークの奥義があれだけ凄かったんだから期待してもいいよね?
「おっといけねぇ!さっさと死体を回収して合流しないと。詳しく調べるのは後にしよう。」
ウッドゴーレムを解除して女盗賊の死体をインベントリに入れおれはマップを頼りにホーク達に合流した。
〜合流後〜
「「ごちそうさまでした!」」
〈キュー!〉
ホーク達が見付けた道から逸れた所にある草も木も生えてない場所でおれたちは夜飯を済ませた。
人工的に作られたであろうこの場所はもしかしたら他の冒険者もこうやって野宿した跡なのかもしれないな。
「腹も一杯になったしおれが見張りをやっとくからホークもリッシュも寝てていいよ。クリーン。」
「えっ?でもユウキ昨日もそんなに寝てないんでしょ?朝も訓練してたじゃん!」
「あ〜うん、まぁそうだけど大丈夫だ。こんな場所だと危ないから全員では寝れないしおれは朝方に少しだけ寝させてくれれば平気だよ。」
「えっでも…」
「いいかホーク、春と夏と夜はバカが湧きやすいんだよ。それにゴースト系のモンスターがもし出てきたら物理攻撃が効くかわかんないだろ?
心配しなくていいからゆっくり休んで。今日は一杯歩いて疲れただろ?」
「うん…」
「次の街ではベットを先に注文しような。野宿でもダンジョンでも快適に寝れるようにしよう。」
「うん!ギルマス達に聞かれたら怒られそうだね?」
「ダンジョンで熟睡してんじゃねぇぞ!とか言いそうだな?」
「アハハ…似てる!ねぇユウキ明るくなったら絶対起こしてね!?」
「うんわかった。おやすみホーク、リッシュ。」
「おやすみ。」
〈キュー。〉
「物理結界」
結界師も上げないとな…便利な職業なのにあれから全然上げてないや…。
まぁ次はテイマーなんだけどね。さて、長い夜を乗り切りますか!
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