クルーシェ、襲撃編。

第121話 なりきり師、野宿する。


「皆さん本当によかったんですか?こんな所まで来ちゃって…仕事あるんじゃ無いんですか?」


「なぁに見送ったらすぐ戻るさ。お前達を見送る少しの時間位で文句言う奴なんてウチのギルドにはいねぇよ!」


 ギルマス達は皆仕事を抜け出しおれたちを見送るためにわざわざ門まで来てくれた。



「いや、いるでしょうよ…反感かっても知りませんからね……

でも来てくれて嬉しかったです。ありがとうございました。」


「ありがとうございました!」


「ユウキちゃん、ホークちゃん、立派なマッチョになって帰って来るのよぉ〜!」


「ユウキ君、ホーク君、ありがとう。君達のおかげで僕も少し前に進めるかもしれないよ。本当に感謝してるよ。」


「ユウキさん、ホークさん、リッシュちゃん、怪我には気を付けてくださいね!またこの街で待ってますから!」


「はい!皆さんお世話になりました!」


「ユウキこれを持っていけ!」


 渡されたのは一通の手紙?



「なんですかこれ?」


「クルーシェのギルマスへの紹介状みたいなもんだ。クルーシェの冒険者ギルドにも行くんだろ?」


「そうですね。行きます。」


「それを受付嬢にこう言って渡せ!『ギルマスのババアに渡してくれ。』ってな。一言一句間違えんなよ!?」


「ちょ、ちょっとギルマス!」


「まぁ黙ってろサナ。」


「いや、怒られるでしょそんな事言ったら…言いませんよ?」


「バカ、ユウキ話は最後まで聞け!これはお前達の為なんだ。」


「おれたちの為?」


「お前最初にこの街の冒険者ギルドに来た時の事覚えてるか?絡まれただろう?」


「そうですね。」


「それはお前達が冒険者をするには幼すぎる見た目だからだ。15歳の新人なんてのは大体何処のギルドでも絡まれるもんなんだよ。」


「それがわかってるなら職員が助けてやってくださいよ…。」


「大抵は新人が折れるんだよ!それで満足して何も起こらねぇんだよ普通は!お前達がイレギュラーだっただけだ!」


「いやいや、まず辞めさせろよ……」


「お前達は間違いなく次のギルドでも喧嘩を売られるだろう。そして性格上お前は絶対に引かない。

しかも結果は簡単に予想できる。他のギルドとは言えそれは避けたいんだ。

そこでさっきのセリフだ。仕掛けられる前に相手をビビらせてやれ!」


「効果ありますかそれ?」


「そりゃあるだろうよ!このギルドでもあったと思うぞ?

心配するなクルーシェのギルマスはそんな小さな事で怒るような器の小せぇ女じゃねぇよ!」


「はぁそうなんですね……」


 クルーシェのギルマスって女なんだ?血気盛んな冒険者をまとめるギルマスをやるなんて相当強いんだろうな…。



「うん!わかりました!おれたちもまた決闘するのはゴメンなのでギルドに着いたら言ってみます。」


 知らない人相手にちょっと失礼かも知れないがおれたちも新人イジメは受けたくないもんな。

 ギルマスの言う通り相手をボコボコにしちゃうとおれも思う。

 只でさえリッシュがいて目立つんだから喧嘩売られる可能性も高そうだし…

 クルーシェのギルマスがいい人そうでよかった。もし怒られたら後から謝ればいいや。



「そうか。喧嘩売られないように着いたらすぐに受付に行くんだぞ?

散々いがみ合った仲だが、いざいなくなると思うとやはり寂しいな…。

ユウキ、ホーク、リッシュ、お前達は世界の希望だ。死ぬんじゃねぇぞ!」


「「はい!」」



〈キュー!〉



「じゃあ行ってきます!」


「おう!」


 こうしてメルメルの街をおれたちは旅立った…。








 〜クルーシェ側 フィールド〜


「ユウキ!クルーシェってどんな街なんだろうね?」


「どうなんだろうな?おれも楽しみだよ。」


「早く着かないかな〜!」


「メルメルを出たばかりなんだからまだまだかかるよ。馬車に乗らなかったから2日はかかるらしいぞ。」


 馬車に乗ってビューンと行っちゃおうかなとも考えたが、周りに誰かいると無闇にスキル使えないから徒歩で自分達だけで行くことになった。



「2日かぁ!楽しみだなぁ!」


「ホーク?わかってると思うけど道中楽しい事バッカリじゃ無いからな?あんまり気を抜きすぎないでくれよ?」


「わかってるって!ねぇリッシュ!」



〈キューキューキュッ!〉



「ユウキ!聞いた?今リッシュがねぇホークって言ったよ!」


 いやいや、言ってないよ…飼い主特有のアレ出ちゃってんじゃん…

 まぁジフも喋ってたしいつかはリッシュも喋れるようになるとは思うけど…さすがにまだ早いんじゃないか?



「そうだね。リッシュは賢いなぁ!」


 言えない…こんなに純粋に目をキラキラさせて喜んでるのに言ってないなんて言えない……


 聞こえない汚れた心のおれが悪いんだ…。



〈キューキューキュッ!〉



「ほらぁ!今度はねぇユウキって言ったよ!」


 なんておれの心は穢れてるんだ…全然聞こえないよ……



「リッシュは凄いなぁ!この調子でどんどん覚えていこうな!」



〈キュー♪〉



 リッシュも喜んでるしホークの言ってる事はあながち間違って無いんだろうな…。はぁ…落ち込みそう。








 〜クルーシェ側 フィールド 夜〜



「辺りも暗くなってきたし今日はこれくらいにして野宿の準備でもしよっか?」


「あれ?途中の村まで行くんじゃなかったの?」


「そのつもりだったんだけど意外と遠かったみたいだ。多分まだ2時間は歩かないと到着しないと思う。」


 辺りは街頭もないような道だ。今はまだ薄暗い程度だが2時間後には真っ暗闇なのは確実だ。

 ロール村って村で宿を取ろうと思ってたけどこれじゃ間に合わない。


 狙われてる身だけど対策さえちゃんとしてれば野宿でも大丈夫だろう。



「へぇ〜そうなんだ。おれは別に野宿でもいーよ!」


「じゃあ決まりだな!休めそうな場所を探そう。その前におれは邪魔者退治してくるよ。ホークとリッシュで良さげな場所を探して貰っててもいいか?」


「あっ、あれ倒しに行くの?一人で大丈夫?」


「鑑定!……うん、雑魚だからおれ一人で大丈夫だ。ちゃちゃっと倒してくるから戻ったら飯にしようなリッシュ。」



〈キュー♪〉



「じゃあ行ってくる!寝床探しよろしくね!」


「わかった!」


 街を出てからの追跡者が2人。鑑定したら職業は盗賊。コソコソと隠れながら頑張ってついてきてたようだけどマップがあるおれたちにはバレバレなんだよね。


 夜になったら襲ってくるつもりだったのか、ただの偵察なのかはわかんないけどおれたちを付け回してるのは間違いない。早急にこの世からご退場頂こう。



「もう換金所がメルメルのギルドじゃないから遠距離攻撃があるのに近付いて剣で倒さないといけないんだよな…時間もかけたくないし首スパでいくか。」


 ホークの為にもテイマーの熟練度を上げたいんだけど多分アーチャーがあと1で終わるんだよな…。


 道中のモンスターで上がるかなって思ってたけどそんなにモンスターが出なかったんだ。ホークには悪いけど先にアーチャーを終わらせちゃおう。



「ウッドゴーレム!」


 数はそんなに必要ないので5体だけ出るように魔力を抑えてウッドゴーレムを出した。



「ここに盗賊が2人いるんだけど捕まえてきてくれる?あっ、捕まえるだけで殺さなくていいからな。」


 シュビっと敬礼をしてヤーって感じでトコトコ走って行った。


 意志ある魔法って不思議だねぇ…ウッドゴーレムはどこまでおれから離れられるんだろ?

 頼んだら街から街に届け物とかしてくれるのかな?



「木に隠れてると木に捕まるよ?まぁこれだけ遠いと聞こえないか…。」


 ウッドゴーレムが盗賊を捕まえるまでその辺でモンスターを警戒してるフリでもしときますか…。

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