第120話 なりきり師、コロコロする。
「ユウキ!ミラージュバリアで隠れろ!」
「いえ、おれが話を付けますよ。貴族相手なんで皆さんは絶対に関わらないでください。飛び火したら大変ですから…。
ホークここはおれに任せてリッシュをしっかり守っててくれ。」
「わかった!」
『ドンドンドンドン…』
そう言っておれはギルマスの部屋の扉を開けた。そこには チビ デブ ハゲ ブス 四拍子が揃った逆パーフェクトスペックのオッサンがいた。
あぁ…そう言えばあん時のガキもこんな顔してたな…DNA仕事しすぎじゃね?残念遺伝子が爆烈してんじゃん…
「おれが冒険者ユウキです。何か御用ですか?」
「貴様か下民!ドラゴンを渡せ!」
あぁ…この親あってのあの子供か…第一声で残念貴族だってわかるなんて嘆かわしいねぇ…。
親子揃ってバカなのか?渡すわけないだろ。話を聞く価値もない。こんな奴は早々に退場してもらいますか。
「嫌でございまする。どうぞお引取りくだされ。」
貴族に対しての敬語ってどんなのだっけ?わかんないから適当に雰囲気でいいや。
「貴様下民の分際で貴族様に逆らうのか!誰のお陰で暮らせてると思ってるんだ!わかったらさっさとドラゴンを渡せ!」
「嫌でございまする。どうぞお引取りくだされ。」
「貴様ー!大体貴族様に対して立ち話をさせるとはなんたる無礼な!まずは部屋へと案内せんか!これだから下民は…常識と言う物を知らんのか!」
面倒くせぇ…帰れつってんだからさっさと帰れよ!
それにコイツら親子の顔ってなんか絶妙に腹立つんだよな…帰らないんだったら貴族だけど少し遊んじゃおうかな…。
そうだなぁ…設定は多重人格者にしようかな。
「ここは余の部屋ではないでおじゃる。
そのような勝手を申されても困るでございまする。
それにこのような下民に貴族様のような高貴な方の常識を求められても拙者は存知上げない無いでござる。
だがしかーし!直ちに確認を取りますゆえ少々お待ちを……回れー右!
ギルマス?コイツ中に入れていいっスカ?」
一文一文でキャラ変えてるからもうメチャクチャ。でもやってみたらやってみたで楽しいかも……
ギルマス達ポカーンとしてるけどまだまだこれからだよ?
「こ、こ、こ、コイツ!?貴様今私の事をコイツと言ったのか!」
「滅相もナイネ!
聞き間違いなんだからね!
あっ☆勝手に入られたら困っちゃうぞ〜!」
「えぇいうるさい!貴様覚悟はできてるんだろうな!」
「あっ、もうお仕事戻って貰って大丈夫ですよ。このバカはこっちでなんとかしますから。
お姉さんが不敬罪になる事も無いですから安心してくださいね。」
「えっ、あっ…」
「貴様!私を無視するな無礼者!処刑だ!即刻処刑だ!」
「それじゃ!」
ギルド職員のお姉さんに笑顔でそう挨拶して扉を閉めた。
そう、閉めちゃったんだ。これでもうこの密室は音も漏れない好き放題できる空間になったんだ。
「ギャーギャーうるせぇんだよ!出来損ないのポンコツ貴族が!」
「なっななな……」
わぁ顔真っ赤…人間ってここまで顔赤くなるんだ…勉強になります。
「どうしたんですか?顔真っ赤ですよ?何かあったんですか?」
多重人格がこの世界で認知されてるかわからないけど元超一流俳優の百面相をしっかり堪能させてやろう。
「ププーッ!ブスに磨きがかかったなり〜!
おいハゲコラ!迷惑なんじゃ!さっさと帰らんかい!
わぁ〜!チビでデブなおじさんがいる〜!
シシシシシ…死死死死死……」
「ななな、なんなんだ貴様ー!」
まぁこれだけコロコロ人格代わってたら気持ち悪いを通り越して恐怖だよね…。
わかるよぉ!おれだってもしこんな奴が目の前に現れたら全力で逃げるもん。でも終わらないよ…。
「僕はこの世で一番美しい冒険者ユウキさっ!
さっき自己紹介しよったやろが!
頭と一緒で脳みそまでツルンツルンなんでチュね〜!
///バカ…」
「さっきから好き勝手に発言しよって!頭が高い!跪け!」
「面悪い!顔隠せ!髪薄い!ズラ被れ!
いや〜だよ!僕が跪くわけないじゃん!
我、誰ニモ屈サズ…
ファチョォォォー!ハァァァ!」
「何故だ!何故跪かない?貴様何をした!」
なんか言い方変だな?跪かせるスキルでもあんのか?
「何にもしてないよ〜〜〜ん!
フッ…愚か…フッ…
下民が跪かないってどんな気持ち?ねぇどんな気持ち?」
「死ねぇぇぇ!!!」
うわっ!何だコイツいきなり装飾品まみれのナイフ出して刺し殺そうとしてきたぞ…貴族ってナイフにまで金かけるんだ?
まぁブクブク太ってる貴族の攻撃なんかあたるわけないけどね。
普通にかわして更に続ける。
「オラにそんなの当たんないッペ!
貴様冒険者をなめてんのかゴルラァァ!
私が地獄の深淵へと招待してやろう!」
「ユ、ユウキもう辞めろ。おれたちまで頭がおかしくなりそうだ……」
「え〜まだまだこれからなのに……まぁ仕方ないですね…。
おい豚!お前おれたちに手を出したんだただで済むと思うなよ!」
「きさ、貴様ー!さっきから私の事をチビだのブスだのハゲだのデブだの豚だのと好き放題言いよって!私を誰だと思ってるんだ!」
「欠点パラダイスのポンコツ貴族だろ?」
「貴様ー!」
「さっきからそれしか言えないのか?バカの一つ覚えみたいに貴様貴様って…
いいかよく聞けブス。ブスがひねくれて性格までブスになったら終わりなんだよ!
世間はブスに厳しいがそれに屈して性格まで歪めたらもっと辛い目にあうんだよ!
顔は無理でも性格だけはネガティブスじゃなくてポジティブスだったらいつかいい事はあるはずだ……多分…きっと…
まぁ性格まで歪み切ってしまってるお前はもう手遅れだけどな!」
「グヌヌ…何をしているギルドマスター!さっさとアイツを殺さんか!」
「い、いや…」
「人に頼んなよ!テメェがこいや!大体なんで貴族が一人でこんな所に来てんだよ。お付きの者はどうした?
大方子供相手だと思って貴族には手が出せないから自分一人で大丈夫だとか余裕ぶっこいて外に待たせてるんだろ?
バーカ!ここに一人で来た時点で勝負にすらなんねぇんだよ!覚悟しろよ!」
「それはこちらのセリフだ!貴様貴族様に向かって許されない数々の非礼!ただで済むと思うな!
フッフッフッ私の全権力を使い貴様を惨たらしく殺してやろう!」
「だからその全権力はどうやって使うんだよ?ここから無事に出れると思ってるのか?バカなのか?」
「バカは貴様だ!私がここにいる事は部下は全員知っている!もし私に何かあれば貴様が何かしたと思い全世界が貴様を狙うぞ!
貴様は私に手を出そうと出さなかろうともう処刑が決まっているんだ!貴族様に逆らうとはそう言う事だ!わかったならさっさとドラゴンを渡せ!」
「お前バカか?どっちにしても処刑なら手出すに決まってんだろ!」
「なっ…」
「まさか大見得切っといて気付いてなかったのか?ご都合主義で生きてると怖いねぇ…周りにイエスマンしか置かないからそんな事になるんだよ。」
おれは剣を引き抜いた。
「ま、まて!」
「待て?お前さっきおれをナイフで刺そうとしたよな?仕掛けてきておいてそれは無いだろ…」
「私を殺す気か?貴族殺しだぞ!わかっているのか?重罪だぞ!」
「だから何?こっちは覚悟できてんだよ!それでおれの仲間を狙った事が許されるとでも思ってんのか?死ねぇぇ!」
「や、やめろぉーー」
「ユウキ!辞めろ!」
「ユウキ君!」
「なーんちゃって!誰が貴族殺しの十字架背負って生きるかってんだよ!
さっき約束したばかりなのに破るわけねぇだろうが!
ギルマス達も心配しなくても大丈夫ですよ!ちゃんと考えてますから。それとも本当に殺しちゃうと思いましたか?」
「はぁ…お前なぁ…」
「フーフー……キサマァ〜!絶対に許さ〜ん!」
「許さなくて結構。おれがいつお前に許してほしいって言ったよ?」
「そんなに強がった所で貴様は私に手が出せないんだろ?何もできなくて結局はビビリ上がってるくせに!そこをどけ!全部下を使い貴様を殺してやる!」
「おれが何もできない?笑わせるな!じゃっじゃーん!これなーんだ!」
おれはインベントリからあるアイテムを全員に見えるように出した。
例えるなら500円玉サイズのボタンだな。
「あっ!あれって…」
「何だそれは!」
「ここで使うのはちょっと勿体ないけどまぁ別に持ってても仕方ないからお前にやるよ。せっかくだしつけてやるよ!」
「なっ…辞めろ!私にさわ…」
「クリーン。さぁどうなるかな…」
「ホークあれは何だ?知ってるのか?」
「えっ、うん。あれはジフに勇者パーティーが使った隷属アイテムだよ。」
「「「「なんだって!?」」」」
「ユウキ様なんなりとご命令を…」
「さすが勇者パーティーが使うアイテムだな…あんだけ喚き散らしてたのに効き目抜群じゃん!
でもこれに逆らって動いてたジフってやっぱ凄かったんだな…。」
「ユウキまさかお前貴族を奴隷にしたのか?」
「そうですよ?これで静かになりますね。さて、仕上げといきますか!
ゴウロットお前は奴隷じゃない貴族だ!」
「はい私は貴族です。」
「だからおれの言う事を絶対に聞くな!」
「わかりました。」
「お前はこれから寄り道しまくって家に帰るな。」
「はい。」
「そして家族とオザン以外を家から決して出すな!」
「はい。」
「いいか決してその時自由を奪ったりするんじゃないぞ?」
「はい。」
「絶対家の周りに住んでる奴に見付かるなよ!」
「はい。」
「屋敷に火をつけたりして一家心中するんじゃないぞ?」
「はい。」
「いつもと違って謙虚になってここに残れ!」
「わかりました。」
そう言って残念貴族は帰って行きましたとさ。めでたしめでたし。
「よし!ホーク、リッシュ、次の街に行こっか!」
「待て待て待て待て!行かせられるか!何とんでもねぇ事してんだよ!」
「えっ?」
「えっ?じゃねぇよ!説明しろ!」
「見てたでしょ?説明いります?」
「当たり前だろ!」
「アイツが今から周りに目撃者を作って一家心中します。なのでおれは殺してません。
隷属アイテムが奇跡的に残ったとしても勇者パーティーの物なので疑われるなら勇者パーティーです。以上説明終わり!」
「まさかユウキ君最初からこうなるように…」
「んなわけ無いじゃないですか!この方法を思い付くまでどうやって切り抜けようか遊びながら考えまくりでしたよ。」
「あ、あの〜ユウキさんってそんな人でしたっけ?確かに口が悪くなる時はありましたけど、あんなに人格が変わるとは知らなくて…」
「演技ですからね。喋り方も性格も訛りも変えれますよ。」
「本当にあなたどうなってるんだ?あたしもビックリしたわ。」
「人は本当の実力を隠すものですよ。」
「何カッコつけてんだ!バカ!はぁ…どうすんだよ貴族が一家心中なんて騒ぎになるぞ…」
「それは任せました!おれたちは次の街に行くんでまた戻って来た時にでも愚痴聞いてあげますよ。」
「はぁ、頭痛ぇ…」
「じゃあホーク、リッシュ、今度こそしゅっぱ〜つ!」
「おー!」
〈キュー!〉
サイコパス案件でリッシュを狙う貴族も撃退したし本当にこれで次の街クルーシェにおれたちは向かう…。
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