第119話 なりきり師、愚痴る。
訓練と称したただの運動も程々にあっという間に時間は経ちいよいよ出発だ。
ガルーダの止り木の皆さんにも別れを告げ、最後にギルドへとやってきた。
シルバさんと一緒にギルドに来たのでそのままギルマスの部屋に向かい。おれが転生人だって知ってる4人が集まってくれた。
「おはようございます!昨日は助かりました。ありがとうございました。」
「ありがとうございました。」
〈キュキュー。〉
「大した事じゃない。あれだけ隙だらけの敵を捕まえるなんて朝飯前だ。こっちも盗賊を駆除できて万々歳だ。」
「あっ、あれも盗賊だったんですか?よくわかりましたね。シルバさんはずっとおれたちの近くにいてくれたのに…」
「まぁな。うちの職員で鑑定できるのはシルバだけじゃないからな。」
「へぇ〜そうなんですね?それで何か聞き出せましたか?」
「あぁバッチリだ。ちょっと拷問したらペラペラ喋ってくれたぞ。」
ちょっと拷問?拷問にちょっととかあるの?何をしたか内容は聞かないでおこう。
盗賊を人と思ってないんだから予想するより酷い事になってそうだもんな…。
「あの盗賊はゴウロット家の執事に頼まれてリッシュを連れ去るつもりだったらしい。」
「あの執事か…」
「なんでもリッシュを連れて行くだけで500万プライの報酬が出たらしいんだ…。」
「それは知ってます。屋根の上で話してるのが聞こえましたから。」
「ユウキが怒っちゃって止めるの大変だったんだよね!もうちょっとで弓矢で全員仕留めちゃう所だったんだから…」
「ちょ、ホーク!そう言う事は言わなくてもいいんだよ!」
「ほ〜お…おれが考えた作戦なんだからなんだったっけ?あっるぇ〜?おれの聞き間違いだったか?なぁユウキィ?」
くっそーここぞとばかりにネチネチ言ってきやがる…でもホークにバラされた以上おれの方が分が悪いしな…
ネットの煽り厨にあってる気分だ…いや、待てよこれはあれができるんじゃないか?
「はいはいそうでちゅね〜。おれが言ったことを破ろうとしたんでちゅよ〜。ゴメンなちゃいね〜。でも謝ったんで許してくだちゃいね〜。」
「なんだその気持ち悪い喋り方…」
「前世での愚かなやり取りですよ。ギルマスのターンなんだから乗ってきてくださいよ!
こう言う時は顔真っ赤にしながら平然を装ってまた上から煽るんですよ。さぁほら!」
「お前自分で愚かって言ってる事を何でやるんだよ…」
「昔からやってみたかったんですよ!おれは前世で有名人だったんで知名度と好感度が邪魔してできなかったんです!個人情報の流出の心配がないこの世界なら思う存分できるでしょ?
あのバカで愚かなマウントの取合いの不毛で無益なやりとりは一人じゃできないんですよ!
コツとしては如何に相手を自分より下に見てバカにして煽るかです。さぁどうぞ!」
「お前それ楽しいのか?」
「楽しいに決まってるでしょ!やりたかった事なんですから!あ〜でも一つ欠点をあげるとしたら知らない奴とコメント欄でやりたいですね…。
まぁこの世界にネットが無いんで無理なんですけどね…」
「ユウキ君、コメント欄?とかネット?とか僕達がわからない言葉があるんだけど…悪いけどこの世界の出来事でわかるように説明してくれないかい?」
「あっ、ごめんなさいそうですよね…うーん…この世界の出来事でかぁ……あっ!あれだ!決闘です決闘!」
「決闘?」
「あれの言葉版です!気に食わない事があってまず仕掛ける奴が出てきます。絡まれた方も負けずに言い返します。それを周りでアイツらバカだって言いながら見てる奴がいるんです。
おれはいつもバカだって見てる方か好感度とスポンサーを犠牲にしてまで言い返せず口撃を受けるだけだったんですけど、この世界に来た事でその呪縛から開放されて反撃できるようになったみたいな感じです。」
「なんで君は前世で反撃できなかったの?」
「反撃したら面白がって敵が増えちゃうんですよ。それでおれ以外にも迷惑がかかるんです。おれがキレて言い返したって言う大義名分を得たらスタンピードの如く敵が湧いてきてフルボッコにされちゃうんですよ。
そして謝るまで嫌がらせが続くんです。まぁ謝っても続ける奴はいるんですけどね……」
「なんか君の元いた世界も殺伐としてたんだね…」
「そうですね。でもおれの住んでいた所は剣も魔法もなくてモンスターもいなくて死もこの世界ほど身近には無いけど、比較的安全な所で機械が発達してるようなこの世界より発展してる所でした。
だけどその代わりにこの世界ほど自由ではなかったんです。法律ってルールがあってそれを犯せば捕まったり罰金を払わされちゃうんです。
まぁそれに守られてた部分もあるんでそれはいいんですけど、問題は人間の方で自分の気に食わない事には表面上の薄っぺらい浅い情報だけでも文句だけは徹底的に言うって感じの世界だったんですよ…。
もちろん全員が全員そんな人間ではないんですけどね……
暴言なんて以ての外どんなに理由があったとしても許されないんですよ。暴言で批判されてるのにそれ以上の暴言が平気で全国から降り注ぎます。
だから如何に世間様を怒らせないように、不愉快にさせないように生きるかが大事な世界だったんです…。
しかもおれはその世界で表舞台に立って働いていました。普通の人より多くの人の目に触れてしまう仕事をしてたんです。
だからその分人の感情には敏感なんですよね…。前世で気を使って疲れたって話しましたよね?そう言う事だったんですよ…。今考えると便利になったことで不便にもなった世界だったんですよね…。」
「なるほどねぇ〜。でも喧嘩っ早いユウキちゃんが反撃をしないなんて信じられないわねぇ〜。今だとすぐに殴り飛ばしに行っちゃいそうよねぇ〜!」
「おれの事どう見てるんですか…それにネットのコメント欄は相手は見えてないんです。ステータス画面みたいな物が全国と繋がっていて文字だけでやりとりするんですよ。
万人に好かれる人間なんていませんから超人気俳優だったおれでもアンチはいたんで言われたい放題でしたよ。
まぁおれは悪口を見ながら美味しくご飯が食べれる位には慣れてしまったんで結局前世でネット民に反論した事は無いんですけどね…。
だからこそさっきのギルマスですよ!さっきのクソみたいな煽り方はまさに前世のそれでしたよ!ギルマス才能ありますよ!さぁ罵り合いの不毛なやりとりを始めましょう!」
「なんだかわかんねぇけどバカにされてるって事だけはよーくわかった。後で最後のゲンコツの刑だ。
それより大きく話がズレてしまったな…話を戻すぞ。」
「えっ…もう終わり?嘘でしょ!?たまにはバカになって騒ぎましょうよ!レッツパーリーですよ!」
「いいかユウキ。お前はいつもバカだ!……あの盗賊が多くの貴族が王都方面に調査隊を出したとの証言をしていた…」
うーん…こんな前世の話をする機会なんて滅多にないのに…せっかくのチャンスだったのに……
はぁ〜あ…まぁ話も元に戻っただけだしおれたちには重要な情報だもんな…。それにギルマスに前世のネットのやりとりを求めるのは無理があったか…
ってかサラッと酷い事言われてるぞおれ!
「これはお前達のあのデマ情報が信用されていると言えるだろう…。
龍の里、王都出身、例えなんの根拠がない話でも実際にドラゴンを連れたお前達の話は検証せずにはいられなかったようだな…。
だが昨夜のように直接リッシュを狙って来なくなった訳では無い。それは他の街に行った所で同じだろう。」
「あっはい。それはわかってます。昨日も行った通り例え相手の命を奪ったとしてもおれが2人を守ります。」
「ユウキおれもだよ!おれも2人を守るんだからね!」
〈キュキュー!〉
リッシュもおれたちを守るって言ってくれてるのかな?言葉はわかんないけどなんとなくそんな気がする。
「どうやら決意は硬いらしいな…。いいかユウキ、ホーク。今から大切な事を教える。心して聞け。」
「「? はい。」」
「決して人を殺す時に快楽を求めるな。決して悪意の為に人を殺すな。決して理由を持たずに人を殺すな。それができなかった時お前達は盗賊に落ちてしまう。」
「それって…」
「全国のギルドが調べた盗賊落ちの条件だ。本来は門外不出の重要機密だ広めるなよ?」
「ちょ、そんな大切な事おれたちに教えていいんですか!?」
「そうだよ!こんなの知られたら人を殺す人が増えちゃうよ!」
「なぁにお前達が話さなければいいだけの話だ。おれたちにもお前達の話せない事があるんだ…。同じ事をしてるんだからこれでおあいこだな。
いいかユウキ、ホーク。おれは人を殺す事を勧めてるんじゃない。人を殺す時は仲間の為であれ!仲間を守る為に人を殺すなら意地でも守り抜け!それを心にもっていれば盗賊に落ちる事はない。
そして絶対に見付かるな!盗賊落ちと警備隊に捕まる事は全くの別物だと言う事を覚えておけよ。」
「ギルマス…」
「わかったか!?」
「「はい!」」
「過酷な運命を背負ってしまったお前達が少しでも幸運に恵まれる事をおれはここで祈ってるよ。」
「私もです!」
「僕もだよ。」
「もちろんあたしもねぇ〜♪」
「皆さん…ありがとうございます!」
「ありがとうございます!」
〈キュキュ!〉
本当にいい人達に出会えたな。最初のアイズダンジョン攻略はうまく行かなかったけど、この街が最初の街で本当によかった。
「よしっ!ホーク、リッシュ、じゃあそろそろ次の街に出発しようか!」
「うん!」
〈キュー!〉
おれたちが立ち上がり出発を決めたその時…
『ドンドンドンドンドン…』
「ここに冒険者ユウキとホークはいるか!」
「ゴウロット子爵困ります!ギルドマスターの部屋は関係者以外立ち入り禁止でございます!」
「うるさい下民が!さっきから誰に向かって口を利いている!貴様など不敬罪で処刑だ!」
どうやら招かねざる客が来てしまったようだ…。
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