第118話 なりきり師、解除する。
ミラージュバリアを解除するとシルバさんが寄ってきた。
「もう君達を狙ってる連中はいないんだね?」
「そうですね。今の所近くにはいませんね…。とりあえずは安心していいと思います。シルバさんありがとうございました。」
「ありがとうございました!」
「お礼はまだ早いよ?依頼は明日の朝までだろ?とりあえず朝までは僕達が護衛してあげるから君達は明日に備えてもう寝るといいよ。」
「そうですね…。お言葉に甘えてそうさせて貰います。じゃあ行こっかホーク。」
「うん!」
「それにしても呆気なかったな…。ってか首トンって本当にできるもんなんだな?」
「首トン?何それ?」
「ほらさっきギルマス達がやってただろ…」
そんな話をしながらおれたちは来た道を戻り宿へと帰った…。
〜翌日〜
〈キュー!〉
「う〜ん…ん?」
〈キュー!〉
「おはようリッシュ…朝から顔を舐め回すのは辞めようか…。」
うわっビッチャビチャじゃん…どんだけ舐めてたんだ?
「んーー!クリーン。…今何時だろ?」
伸びをして生活魔法クリーンでベタベタになってる顔をきれいにする。
昨日は部屋に帰り念の為部屋を囲うように物理結界を張ってから寝たがあれから何もなかったようだ。
〈キュー!キュキュ!〉
「どうした?腹減ったのか?」
〈キュー!〉
違うようだ…ブンブン顔を振り違うと言ってる。
「ん?じゃあ何?」
〈キュー!〉
窓の方を指差し何かを訴えてくる。
「窓?まさか敵!?」
〈キュー!〉
これも違うようだ…
「うーん…難しい…。窓になんかあんのか?」
そう思って窓を開けてみるとリッシュが飛び出して行ってしまった。
「おい!リッシュ!どこ行くんだよ!?」
初めて逃げられ飼い主の気持ちがわかったかも知れない…こんな風に一瞬窓を開けただけで動物って飛び出しちゃうんだ…ってそんな場合じゃない!
リッシュは窓を飛び出すとそのまま地面へと向かっていた。
「あっ…」
下にはシルバさんがいた。まさかずっと外で見張っててくれたのか?
〈キュキュー!〉
お馴染みの片手を上げて挨拶するリッシュなりの挨拶でシルバさんに挨拶してる…
「おはようリッシュ。でもどうしてここに?」
「ごめんなさいシルバさん!窓を指差して鳴くから開けたら飛び出しちゃいました。」
「そっかリッシュ挨拶しに来てくれたのかい?」
〈キュー!〉
羽をパタパタさせてまた部屋へと戻って来た。
「えっ?本当に挨拶に行っただけなの?」
〈キュー。〉
どうやらそうらしい…。コクンと頷きおれの頭の上に乗った。
「へ?その為におれ起こされたの?」
〈キュー?〉
「いやいいんだよ?挨拶する事はいい事だしいいんだけどさ…」
まじかぁ…昨日ずっと寝てたリッシュは知らないだろうけどおれ結構夜遅くまで一度も寝ないで頑張ってたんだよ?
昨日の昼間からずっと神経尖らせて結構疲れてたんだよ?
はぁ、赤ちゃんの朝ってこんなに早いの?寝てらんないじゃん…世の親は凄いね……
「ふぅ…まぁいいや目も覚めちゃったし少し訓練でもするか…」
〈キュウキュー!〉
訓練と聞きリッシュがホークも起こそうとしてる…
「あっ、リッシュ!ホークはまだ寝かせててあげて昨日は少し夜遅くに起きてたんだ。」
〈キュー?〉
「今日はこの街を出発するだろ?疲れたままだと道中しんどいからね。休ませてあげて。」
まだ普段なら寝てる時間だろう。朝の感じが違うもんな…
〈キュー!〉
聞き分けのいい子で助かるな…。グズっちゃう子だったら手に負えない所だったよ……
そんなことで手放したりはしないけどね……
「じゃあ行こっか?リッシュついておいで!」
〈キュー!〉
〜玄関前〜
ガルーダの止り木の1階に置いてある時計を見るとまだ5時だった。
昨日寝たのが確か2時すぎだったから3時間程しか寝てないようだ。
日本人の時は3時間寝れれば大丈夫だったけど15歳の健全な男子には3時間睡眠では足りないんじゃないか?
「おはようユウキ君。随分早いね?」
「おはようございます。リッシュに起こされてしまって…シルバさん昨日はありがとうございました。
もう明るくなってきたし人通りも増えると思うんで依頼達成と言う事で帰ってもらって大丈夫ですよ。報酬はギルマスから受け取ってください。」
大金が手に入って気が大きくなってた事もあって3人に依頼するのに100万プライをポーンと出してしまった。
まぁギルドでトップクラスの実力であろうこの3人だし、このギルドに来てからお世話になりっぱなしだったから妥当な金額としておこう。
「いや、一応君達が街を出るまでは警戒しとく事にするよ。このまま何もなければそれでいいし何かあるなら僕達が対処するよ。」
「シルバさん…」
「君に好きに行動させたらまた何か問題が起きそうだからね…」
「えぇ〜酷いですよシルバさん!今おれ感動しかけたのに…問題なんて起こしませんって!」
「アハハ…どうだろうね?今までが今までだからね出発するまで僕達も安心できないよ。」
「相変わらずシルバさんは心配性ですね。わかりました。おれから何かする事はないって約束しますよ。」
「おっ、言ったね?ゴロズ所長との約束で痛い目にあったのに僕と約束を交わしていいのかい?」
「もちろん大丈夫ですよ?なんなら契約しますか?」
「いいよ。せっかく無くなったのにそんな事で縛る必要はないよ。」
「フフッそうですか…。」
〜前日 ギルマスの部屋〜
「作戦は以上です。相手が何人で来るかによって作戦が変わってくるのでその時はお願いしますね。」
「わかった。相手が2人までならシルバとユウキが部屋で拘束、3人以上ならお前達が囮になって部屋の外におびき出しておれたちが捕まえるって事だろ?」
「簡単に言えばそうですね。」
「しかしそんなのでうまくいくか?」
「任せてください。おれは相手の感情を揺さぶるのが得意なんです。
弱者を装って油断させる事も、嫌な奴を演じて相手を怒らせる事も、強者になって相手を震え上がらせる事もできるんです。
狙ってくる奴を惑わすなんて訳無いですよ…。スキルを使ってうまいことやります。」
「その能力がある事を知ってるだけにタチ悪いなお前…」
「何とでも言ってください。殺されるかもしれない相手に対して慈悲を与えるつもりなんてないですからね。
自分が襲われてるのに相手にも事情があるから仕方ないとか思う奴の方が異常者なんですよ。
相手も殺す気で来るなら殺されたって文句ないでしょ。」
「ったく、お前頭に血が登って攻撃したりすんなよ?おれたちが明日の出発までにどんな情報が飛び交ってるのか尋問してやるから殺したりすんじゃねぇぞ!」
「わかってますよそれ位…。おれが考えた作戦なんですからそんな事するわけないでしょ!」
「はんっ!だといいがな…」
「それより明日の出発までにやっとかなきゃいけない事がまだあるんです。これ覚えてますか?」
インベントリから一枚の紙を出した。
「これはあの時の契約書だろ?これがどうした?」
「これをこうです!」
おれは契約書をビリっと真っ二つに破った。
「おい!なにやってんだ!」
「更に…コントラクト解除!」
身体の中から空中にコントラクトの光が現れそして弾けて消えた。
多分サナさんの方でも同じ事が起こってるだろう。ビックリしたかもしれないな…。
「ユウキ君!これは君を守るために必要な事なのにどうして…」
「おれ前に言ったんですよ。あなた達を信用できなくなったって…。それでこの契約を結んだんです。
だから今はもうこの契約は必要ないんですよ。信用してるし、おれが転生人だって事が皆さんからバレてしまってもおれはそれを受け入れます。
こんな契約がなくてもいいんだっておれが皆さんの事を信じたいですから…。」
「ユウキちゃん…」
「おれたちがもし話したらどうするつもりだ?」
「言ったでしょ?受け入れますよ。それに狙われたって相手が手も足も出ない位強くなりますから平気です。」
「全くお前は大口を叩くのはあの時から変わらねぇな…」
「知ってるでしょ?おれの場合大口じゃなくて実現できるが故の発言なんですよ。」
「ったく口の減らねぇガキだな…」
〜現在〜
「それよりどうして外に?」
「シルバさんに依頼達成を言い渡しにきたのと訓練ですよ。目も覚めてしまったので軽く身体を動かしとこうと思って。」
「そうか。あんまり無茶な事はしないようにね。」
「わかってますよ。その辺で軽く剣を振るだけです。」
さて、もう出発だ。新しい街、新しいダンジョンに向けて気合いを入れないとな。
邪魔が入らないといいけど……。
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