第116話 なりきり師、依頼する。


 何度見ても凄いなこれ。どういった原理でこんな事になるのかサッパリわかんないけど、これでスキルが覚えられるんだもん。異世界様々だよ。



「リッシュ綺麗でしょ?次はあの魔法陣がシューって身体の中に入るんだよ!」



〈キュー?〉



「そうだよ!そしたらねスキルを覚えてるんだ!」



〈キュ〜〉



 ホークがリッシュに説明した通りに魔法陣がそれぞれの身体の中に入っていった。

 これで無事に全員新しいスキルを覚えただろう。



「どうですか?」


「とても不思議な気分だ…。今ならアイズダンジョン攻略もおれたちで出来そうな気がする。」


「スキルの書…いいえプライ様と一つになれた感じよ。」


「感激で言葉も出ないよ…。ありがとうございますプライ様……」


「なんか宗教の強烈な方の信者みたいですね…気味悪いですよ。そんな事より何のスキルを覚えたんですか?」


「お前には感動する心は無いのか!それに本人を目の前にしてよく人の事を気味悪いとか言えるな…どう言う神経してんだ?」


「いやだってマジでヤバめな事言い出したんで本格的に沼に嵌る前に気付かせといた方がいいかなって…むしろ怒られるより感謝される所なんですけど……。

ってそれよりもスキルですよ!スキル!何だったんですか?ずっと気になってたんですから教えてくださいよ!」


「そう慌てるな!ちゃんと説明してやるよ!まずはおれが覚えたスキルはこれだ。ウェポンチェンジ!」


 ギルマスがウェポンチェンジを使うと両手に武器が現れた…。



「これがおれの新しいスキルの武器だ!見た事ない種類の武器だが使いこなしてやるぜ。」


「えっ?この世界にトンファーってないんですか?」


 ギルマスの新しい武器はトンファーだった。木でできたトンファーを両手に持ってたんだ。



「トンファー?ユウキこの武器知ってんのか?」


「持った事も使った事も無いですけど見た事はありますよ。なんかクルクル回す感じで遠心力を利用して戦ってたと思います。

で、インパクトの時にしっかり握って骨を砕くって武器だったと思います。漫画知識なんで間違ってるかもしれないですけどね……」


「ほぉ…それは興味深いな。遠心力を利用した武器か…実践が楽しみだ。」


 色んな武器を使えるギルマスならすぐに使えるようになるだろうな。



「じゃあ次はあたしの番ね。あたしが覚えたスキルはエアホッパーってスキルよぉ〜。」


「エアホッパー?どう言うスキルなんですか?」


「一度の発動で回数制限はあるみたいだけど空中で移動できるスキルみたいねぇ〜。」


「マーガレット姐さんが空中で動けるようになったの?凄いね!」


「流石プライ様よねぇ〜!あたしにピッタリのスキルだと思うの!」


 確かにマーガレット所長の戦闘方法で空中移動のスキルがあれば立体的に戦えるようになるだろう。

 今までは地上からジャンプしてそのまま落ちていくだけだったのが前後左右上下好きに移動できるんだ。戦闘の幅が広がるだろうな…。



「最後は僕だね。僕は新しいスキルは覚えなかったけど鑑定能力が上がったみたいだ。」


「へぇ〜そうなんですね。おれの鑑定士の時は鑑定能力あっぷは3段階あったけどどの熟練度の時の…」



 【完全鑑定阻害が発動しました】



「フフッ……残念でしたね。それでもおれたちは見れないようですね。」


「どうやらそのようだね。ユウキ君ごめんね急に…。」


「悪いと思ってませんよね?」


「そうだね。最初から見れないってわかってたからね…。」


「「プッ…ハハハハハ…。」」


 前にこの部屋で鑑定された時と違い殺伐とした空気は流れない。

 それだけの関係性がおれの秘密を明かした事、ダンジョンを一緒に攻略した事でできた。


 あの時はおれが剣を抜こうとしてマーガレット所長に止められたんだっけ…最近の出来事なのに懐かしいな。



「皆さんが喜んでくれてプライも喜ぶと思います。後は換金分を受けっとたらこれでおれたちはこの街を出ようと思います。」


「おいおい急だな?もう出るのか?」


「そうですね。リッシュが狙われ始めたんでおれたちも急いでレベルアップして強くならなきゃいけなくなりました。

今ならアイズダンジョンでもそこそこ戦えるようになってるかも知れませんが、先に他のダンジョンに行ってきます。」


「そうか…」


「ただ出発は明日にしようと思ってるんです。それで冒険者ユウキとして頼むのではなく依頼人として3人に指名依頼をしたい事があるんですけど受けてくれますか?」


「おれたちに依頼?」


「はい、まずは説明しますね……」










 〜ガルーダの止まり木 食堂〜



「「「カンパーイ!!」」」


 あの後依頼内容を話したらギルマス達は快く引き受けてくれた。

 そして明日旅立つおれたちに送別会をしてくれるそうでガルーダの止まり木でギルドの皆さんが集まってくれた。



「皆さん今日はありがとうございます。まさかこんな風に食事会をする日がくるとは思ってませんでした。」


「気にするな元々飯会はするつもりだったんだ。ここはおれたちの奢りだ。どんどん食えよ!」


「「はーい!」」



〈キュー!〉



 換金も無事終わっておれたちは1200万プライを超える現金を手に入れた。

 スキルの書が手数料を引かれて1200万プライ、盗賊を倒した分が全員で40万プライ、ダーゴバットが20万プライで打ち止め、鉱石類が10万7000プライになった。


 合計1270万7000プライだ。スキルの書一つを売っただけでおれたちは当分お金に困らないようになった。チート能力バンザイ!



「リッシュちゃんもう会えなくなっちゃうのね〜。寂しい〜!ユウキさん今日リッシュちゃんを連れて帰ってもいいですか?」


「ダメです。えっ?サナさん酔っ払ってます?」


「私は酔ってません!いいなぁ私もこんなカワイイ従魔が欲しい〜。」



〈キュー?〉



「キャー!カ〜ワ〜イ〜イ〜!リッシュちゃんうちの子にならない?」


「ァハハ……」


 完全に酔ってるよね?まだ1杯目だよ?いつもの受付姿からは想像できない変わりっぷりだ。受付ってやっぱりストレス溜まるのかな?



「なーんか意外だね!サナさんって酔うと性格が変わるんだね?」


「うーん…まぁ酔い方は人それぞれだからな…ホークもあんまり飲みすぎるなよ?」


「うん!おれあんまりお酒の味好きじゃないや!これユウキにあげる!」


「そっかわかった。おれが飲むよ。」


 今日出されてる酒はワインっポイ酒だ。初めて飲むホークには少し飲みにくかったのかもしれないな。

 おれは日本の時から酒は強い方だったのでこの世界の酒も問題なく飲めた。

 この世界のおれの身体も酒には強いようだ今の所全然酔いそうな気配はない。

 なんだったら店の仕入れ次第で酒の種類が全然無いから物足りなさを感じる位だ…



「ユウキお前もあんまり飲みすぎるなよ?明日朝起きれないぞ?」


「大丈夫ですよ。そんなに飲むつもり無いんで。」


「それならいいが…それにしてもお前達がもう旅立つとはな……」


「あぁさてはギルマス寂しいんでしょ〜?」


「冗談!頭痛の種が減ってせいせいするよ!」


「またまたぁ〜強がんなくていいですよ。相変わらず素直じゃないですね!」


「お前こそどうなんだよ!」


「おれですか?おれは寂しいですよ?でもやらなきゃいけない事がたくさんあるんで仕方ないです…。

初めて会ったギルドの人が皆さんでよかったと思ってますし、凄く感謝してますよ。」


 これは嘘偽りの無い本心だ。なんだかんだ言って喧嘩したっておれは皆が大好きになってたんだ。


「なんだよ調子狂うな…お前そんなしおらしいキャラじゃねぇだろ!」


「何言ってるんですか?おれの心は繊細なんですよ。寂しすぎて泣いちゃいそうです。」


「それなら少しは泣きそうな顔しろよ!なんで半笑いなんだよ!」


「ヘヘッあの時の仕返しですよ。」


「ったく相変わらず可愛げのねぇガキだな!」


「そのセリフそのままお返ししますよ!ギルマスこそ少しは可愛げを持った方がいいですよ?その調子で年取ったら老害まっしぐらですよ。」


「んだとこのクソガキ!」


「あ?やんのかオッサン!」


「もぅ!2人共やめなよ!なんで今の流れで喧嘩になるの?」


「だってギルマスが!」


「お前が原因だろ!」


「ウフフ…この2人は最後まで喧嘩しちゃうのねぇ〜。」


「一回締めてやるよ!表出ろ!」


「望むところだ!返り討ちにしてやる!おれがいつまでも弱いと思うなよ!」


「ユウキ君、ギルマス、少し落ち着こうか。それともまた指導が必要かな?」



『ビクッ!』



 あの闇シルバさんが顔を出してる。危険だ殺されるぞ…



「必要ないです。食べます!頂きます!」


 このシルバさんが出た時は素直に引き下がるのが吉だ。これ以上怒らせてはならない。



「リッシュちゃ〜ん!はいあ〜ん!キャーカワイイ〜!」


 サナさん酔っ払い過ぎだよ…リッシュしか見えてないじゃん…。










 〜ガルーダの止まり木 部屋〜


 色んな意味でカオスになった食事会が幕をおろしおれたちはいつもの部屋に帰ってきた。

 明日は出発だ。ホークとリッシュはもう寝た。さてさておれの依頼が無駄になってくれる事を願うばかりだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る