第114話 なりきり師、窒息しかける。
〜シュラフの武器〜
「いらっしゃいませ~!………ユウキさん、ホークさんお待ちしてました。ご注文の刀は完成してますよ。」
リッシュを見て少し間ができたがどうやらスルーしてくれたみたいだ。
そう言えばシュラフさんにはリッシュを会わせるのは初めてだったな…ちゃんと紹介しておこう。
「シュラフさんこんにちは。この子はおれの従魔のリッシュです。リッシュ、シュラフさんに挨拶して。」
リッシュを頭から外し手に持って挨拶するように促した。
〈キュー!〉
お決まりの片手上げをしながらキューと鳴くリッシュ。相変わらず素直ないい子だ…。
「従魔?ユ、ユウキさん?ドラゴンを使役してるんですか?確か戦士でしたよね?どうなってるんですか?」
戦士と名乗ったつもりはないんだけどな…まぁ装備が戦士だし勘違いしても仕方ないか。おれがそう仕向けてるんだし……。
「アハハ…一緒にいるのはこの子の善意ですよ。詳しく話すと長くなるし話したくない事もあるんで辞めときますけど、この子が生まれた時からの付き合いなんです。だから従魔登録もできたんですよ。
そうじゃなかったらドラゴンを連れる事なんてできないですよ。」
ホークの武器でお世話になったシュラフさんにも嘘をつかないといけないのは忍びないが、ギルマス達と違っておれが転生人だって知らないからな…
知ったせいでシュラフさんの重荷になってしまうかもしれない。ここは自分の都合のいいように優しい嘘って事にしておこう。
「そ、そうですよね……普通は無理ですもんね…ん?でも普通じゃなくても無理なんじゃ…」
「シュラフさん!ホークの武器ができたんですよね?早く見せてくださいよ!」
「あっ、はい!そうでしたね。ちょっと待っててください。取ってきますね。」
危ない危ない…設定がガバガバだってのは自分でもよくわかってる。深く考えられる前に話題を変えてしまおう。
「お待たせしました。こちらがご注文の双剣士用の刀です。素材が良かったので通常よりいいものができましたよ。ご確認ください。」
「ありがとうございます。ホーク見てみなよ。」
「うん!ありがとうシュラフさん!わぁ〜これがおれの新しい剣なんだ〜。」
作って貰った剣を手に取って感触を確かめるホーク。いつかおれの鍛冶士が育った時はもっといい素材で装備を作ってあげよう。
「ユウキ!この剣すっごく軽いよ!これなら休憩しなくてもずっと戦ってられるよ!」
「そっかそれはよかったな…。でも休憩はちゃんとするよ?ホークがバトルジャンキーになったら困るからね…。」
「えっ?何それ?」
「知らなくていーの!シュラフさん、追加料金は必要ですか?」
「必要ないですよ。それよりも余ったアイアンスコーピオンの素材を売ってほしいのですが…」
あっ、あの素材余ったんだ…言わなかったらわかんなかったのに正直者だなぁ。
「あ〜そうですね…おれたちこの後隣の防具屋さんに行こうと思ってるんで紹介して貰えればあれは差し上げますよ。別に持ってても今の所は使い道ないんで。」
「いえ、商売をしている身で素材をタダで貰う事はできません。ユウキさんはそんな事をする人ではないと思いますが、あの時素材を提供してやっただろ?って言われて無理難題を押し付けられてはたまりませんからね…。
商売はあくまでも売り手と買い手。店が善意でサービスをする事はあってもお客さんが店に施す必要はありませんよ。
僕が欲しい物は僕のやり方で手に入れますから。」
あぁ確かにそう言う奴もそりゃいるか…。おれが大嫌いなタイプだ。
前世でもいたなぁ…あの時〇〇をしてやったから今度は君が〇〇をして。って言う奴…。
そっか。商売人のシュラフさんは警戒して当たり前だよな…。ただ今の会話だけでシュラフさんが信用するに値するドワーフだってのはおれの中で証明されたな。
「そうですよね…わかりました。じゃあ素材は売ります。ただ適正料金がわかんないんでシュラフさんが決めてください。
色をつけてくれてもいいし、ぼったくっても構いません。おれはシュラフさんを信用します。
…それとおれも恩着せがましい奴は大嫌いです!」
「ユウキさん…」
「ヘヘッ。」
「わかりました!しっかり査定して買い取らせて頂きます。それとチェスの店にも案内させてください。きっと妹もお客さんがきてくれて喜びます。」
「「お願いします!」」
〈キュー!〉
〜防具屋 チェスの防具〜
シュラフさんに連れられ武器屋の中で繋がってるドアから隣の防具屋さんに入った。
「あら兄さんまた何か用事?2日続けて珍しいわね?それとその人達は…?」
これが女ドワーフ…イメージと全然違ったな。なんかもっと筋肉バキバキだったり、究極的なのだと髭がボーボーなのを想像してたけど、この子もトゥルントゥルンじゃないか!
薄ピンクの長い髪をツインテールにしてるとてもカワイイ女の子だ。
シュラフさんが茶色の髪だからてっきり同じ色で想像してたよ…。
双子でも全然違うんだな…あっ、でも顔は少し似てるかな?
「こちらは僕の店で刀を買ってくれたユウキさんとホークさんと従魔のリッシュさんだよ。」
「あっ、はじめましてシュラフの妹のチェスです。兄の店で買ってくれてありがとうございます。」
「はじめましてユウキです。」
「おれホークです!」
〈キュー!〉
「カワイイ…」
「えっ?」
「あっ、ごめんなさいなんでもないです!」
サナさんもそう言えば最初同じ事言ってたな…ドラゴンでも小さかったら怖いじゃなくてカワイイになるんだな…。
「抱っこしてみすか?」
「いいんですか!?」
「この子が嫌がる事をしなければ大丈夫ですよ。リッシュ、チェスさんが抱っこしてくれるって!」
〈キュー?〉
「リッシュちゃん抱っこしてもいい?」
〈キュー♪〉
「アハハ…カワイイ!キャッ!くすぐったいよぉ〜。キャハハ…」
仲睦まじいな…癒やされる。決してロリコンではないけど。
「いいなぁ…僕も触ってみたいです。」
「シュラフさんも抱っこしてあげてください。リッシュも喜びます。リッシュ」
「わぁー!思ってたより軽いし柔らかいんですね?わっ!アハハ…」
リッシュは誰彼構わず抱っこしてくれた人の顔を舐めちゃうな…怒った人はまだいないけど怒られる前に辞めるように教えないとな…
う〜ん…シュラフさんの見た目が子供って事もあってこれもチェスさんに続き癒やされるな…。
「チェスさん防具を見て回ってもいいですか?」
「あっ、はい!どうぞ…。兄さん次は私の番よ!おいでリッシュちゃん!」
ハハ…リッシュに夢中で接客が適当になっちゃってる…まぁいいけどね。
「ホーク、じゃあ見て回ろうか?気に入ったのがあったら教えてくれ。」
「うん!おれもユウキみたいなカッコイイマントが欲しいな!」
「あっ、わかる!マントってカッコイイよな…」
そう言いながらおれたちが店の奥の方へ行こうとした時…
〈キュー!!!〉
「ん?ブエッ!」
〈キュー!キュー!〉
リッシュが普段とは違う鳴き方でおれの方に飛んできた。
丁度その鳴き声に振り返った所だったので顔面キャッチしてしまった。
「んんーん!ん!」
ヤバイ!しがみついて離れない…息が……
「リッシュどうしたの?ユウキが苦しそうだよ。離れてあげて!」
〈キュキュ!キュ?〉
「プハッ!はぁはぁ…ありがとうホーク…」
おれの顔にしがみついてるリッシュをホークが引き離してくれた。あぁ苦しかった危うく窒息する所だったよ……
「どうしたんだよリッシュ?シュラフさんとチェスさんに遊んで貰ってたんじゃないのか?」
〈キュー!キュウキュー!〉
なるほど、わからん…。まさか自分がこれを言う日が来るとは……
ってホントにわかんないんだけど…どうしよう……
「あの〜多分ですけどリッシュちゃんはユウキさん達がいなくなって寂しかったんだと思います。
ユウキさんとホークさんがリッシュちゃんから少し離れたら急いで飛んで行きましたから…。」
「あぁなるほど…そうでしたか。なんだリッシュ寂しかったのか?」
〈キュー!〉
「うおっと…」
今度はおれの胸にしがみついてきた。
そう言えば今まではおれかホークが一緒にいたからな…2人共が離れたのはジフに甘えに行かせた時だけだ。
そっかリッシュはまだ赤ちゃんだもんな…遊んで貰って喜んでたとは言えおれかホークのどちらかが一緒にいないと不安になっちゃうのか……
これは地味に深刻な問題だ…。リッシュを連れて街に来た時以前の設定も色々変更しないといけないな……
おれたちは最初2人だけで街に入っちゃってるんだよな…王都から連れてきたって辻褄が合わなくなっちゃうもんな…。考えないと……
「チェスさん、シュラフさん、遊んで貰ってたのにごめんなさい。どうやらおれたちが離れちゃうとダメみたいですね…。」
「いえいえ、とんでもないですよ!リッシュさんを触らせて頂けただけで僕達は大満足です。普通はそんな事できませんから…。気にしないでください。」
「そうですよ!私達の方こそすいませんでした。リッシュちゃんが可愛くてついお客様をないがしろにしてしまいました…。商売人として失格です。」
「そんなの気にしないでください。じゃあおれたちはこのままリッシュも連れてお店を見せて貰いますね。」
「はい。ごゆっくりどうぞ。」
「それでは僕は素材の査定に行ってきます!すぐに戻って来ますね。」
「わかりましたお願いします。」
と言う事でおれたちは改めてリッシュを連れて欲しい防具を探す事になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます