第113話 なりきり師、嘘と真実。
〜ギルド 食堂〜
「いらっしゃいませ~。」
「お昼はもう食べちゃったんですけど飲み物だけでもいいですか?」
「もちろんですよ!オススメはリンゴラかオララの実の100%ジュースです!それともお酒にしますか?」
リンゴラは日本で言うリンゴでオララはオレンジだ。
この世界は15で成人なのでおれもホークも酒を飲んでも問題ない。
ただリーイン村は酒を作っていなかった。たまにやってくる行商人から買うしか酒を手に入れる方法は無かったのでまだこの世界で酒を飲んだ事はない。
それに家は両親共が酒を飲まない人なので益々縁がなかった…。
おれは日本人の時は酒が好きだったのでその内飲めたらいいなぁって思ってたけど今じゃない。今は作戦の本番中だ。ここはジュースで我慢しよう…。
「ホーク、リッシュ、リンゴラでいいか?」
「うん!」
〈キュー♪〉
「じゃあリンゴラのジュースを3つください。あと専用カップも3つ買います。」
「承りました。専用カップが3つとリンゴラジュースが3つですね。あちらの席で少々お待ち下さい。」
ギルドの備え付け食堂で使える専用カップは初めに買って次からそのコップを持って飲み物を頼むと飲み物だけ5%オフにしてくれる木のコップだ。
この世界のギルド共通らしいので何処のギルド食堂でも使えるコップだ。
ただ一度忘れてしまうと処分されてしまいまた買い直さないといけないらしい…。そして忘れ物率が非常に高いらしい…。
リッシュの為のお皿はガルーダの止まり木のポポさんが譲ってくれたから問題ないが、コップは持っていなかった。
従魔と言えどリッシュはモンスターだ。『同じ食器を使わせるな』とかいつどんな理由で難癖をつけてくる連中がいるかわからないから最初から専用の物を用意する事にした。
「リッシュ騒いじゃダメだぞ?」
〈キュー。〉
お昼の時間は過ぎてるのに今日のギルドの食堂は人が多いな……。
それもおれたちが入ってから続々と客がやってきてる…。
まぁそれもそうだろう。だって今入ってきてる奴ら皆リッシュを狙ってるんだから……
ギルマスの部屋で色んな方法でマップ内検索をしてみた。
リッシュを狙う貴族、リッシュを狙う貴族の手下、リッシュを狙ってる奴、おれたちを狙ってる奴、盗賊、刺客…
などなど条件を色々絞ってやってみたらまぁいるわいるわギルド内にまで入り込んできていた…。
そいつら全員にマーキングを付け作戦通りに食堂に入ったらそいつらも客として入り込んできた。
偶然なのかそれとも予想して先読みしてたのかわからないが、先に客として入ってる奴もいたりして相当気合が入っているようだった…。
「お待たせしましたー!リンゴラジュースと専用カップになります。専用カップは忘れますと処分致しますのでご注意ください。ごゆっくりどうぞ。」
日本のように忘れ物として預からず処分すると宣言してる辺りはかなり潔いな…客としては凄く困るけど……
さて、飲み物も届いた事だし頃合いかな…。作戦開始だ!
「ユウキ!これ美味しいよ!」
「うん。美味いな!」
〈キュー♪〉
「リッシュも気に入ったみたいだな。はぁ、それにしても今日は散々な目にあったな…」
「! そ、そうだね。」
『今日は散々な目にあったな…』これが演技スタートの合図だ。ホークもちゃんと覚えてたみたいでちょっと不自然だけど反応してくれた。
さぁここから前半パートの始まりだ……。
「なんかギルマスにはめちゃくちゃ怒られるし、それにまさか貴族がリッシュを売れなんて言ってくるとは思わなかったよ…。そんな事できるわけないのにな。」
「そうだね。」
「おれらの事も調べたとか言ってたけどどこまで調べたのかな?」
「うーん…」
「まぁ調べられた所で新人のおれたちの情報なんて大した事ないのにな?」
「そうだね。」
「あっ、でもそのせいで
「大丈夫じゃない?最初の登録で書かなかったし…」
「それもそっか。バレる理由がないよな…。」
ちゃんと聞いてるか?畜生共が!嘘の情報で踊れ踊れ!
「そうだね。」
「それより心配なのは龍の里が見付けられちゃう事だよな…大勢で探せば見付かっちゃうかもしれないよ…。
おれたちも森で迷子になって訳もわからず着いただけだし、あそこにはリッシュの親もいるし他のドラゴンも一杯いる…怒らせたら世界ごと滅ぼされちゃうよ…。」
「う〜ん…でも行き方わかんないよ?」
「問題はそこなんだよね…リッシュとおれの繋がりが断たれたら親ドラゴンはわかっちゃうだろうし、かと言って貴族に売れって言われたって言いにも行けないし…」
「そうだね…。」
「なぁリッシュ?行き方わかんないか?」
〈キュー?〉
おぉ!賢いぞリッシュ!作戦をちゃんと聞いてたんだな。首を傾げるカワイイ仕草までやっちゃうとは中々女優だな!
「だよな……せっかく最弱のアイズダンジョンから冒険者としてスタートしようと思ったのに封鎖してるし、貴族には目を付けられちゃうし最近ついてなさすぎるよ…。」
「そうだね。」
「それにもしリッシュが怒っちゃったらおれたちじゃ止められないんだよな…」
「リッシュって強いもんね。」
「前にリッシュを怒らせた盗賊が消し炭になった事あったじゃん?あれ本当に盗賊でよかったよ…
この子にとって人間は盗賊も貴族も関係ないから冷や冷やするよ…。」
「さっきは寝ててよかったね。」
「本当にそうだよ…普通に接してればこんなにカワイイんだけどおれたちの敵ってこの子が判断しちゃうとヤバイんだよね…。」
〈キュキュー!〉
「あっ、別にリッシュの事を悪く言ってるんじゃないよ!被害者がでないかどうかの心配してるだけだよ。そうだ!ブラッシングするか?」
〈キュー♪〉
「そっか。ホーク、カバンからブラシ取ってくれる?」
「わかった!」
さてさて?どれだけ釣れてるかな?
奴らは自分が話を聞いてる事がバレてるとは思ってないだろう…。
つまり今おれが嘘を付く理由が全く無いこの仲間内の雑談って状況の話は限りなく真実に近いと思うはずだ…。
実家が王都?龍の里?そんなもんねぇよ!
リッシュはまだ戦った事も無いし消し炭になんてしてない。だけどする力は持ってる。
嘘の中に真実も紛れ込んでるから信憑性が増すんだよ。
〈キュー♪〉
「ほらほら〜。気持ちいいか?」
「ねぇユウキ、おれもやりたい!」
「いいよ。リッシュ、ホークの方に行って。」
〈キュー!〉
「リッシュ、どう?」
〈キュー♪〉
「ハハッ喜んでる!」
「あんまりやり過ぎちゃうとまた寝ちゃうから程々にしとくんだよ?」
「わかった!」
ここでちゃんと子供らしさも出しておく。成人したとは言え15歳は15歳だ。
ちゃんと周りに迷惑をかける年頃ってのも表現しないとな…。
「じゃあそろそろ行こっか?ギルドに貴族が入って来ることはないと思うけど、貴族に見付からないように注意しような。」
「そうだね。」
「すいませ〜ん!お会計お願いします!」
「は〜い!ただいま参りま〜す!」
お金を払い食堂を出た。さて、これから次のフェーズに突入だ…。
〜屋台街〜
「ホーク見て美味しそうだよ?これとこれとこれ3つ買っちゃおうか。」
「そうだね。」
肩を組みマップを使い不自然にならない角度で指をさしホークに状況を教える。ついてきてるマーキングは3個。
他の奴等は報告に行ったのかおれたちが食堂を出た途端に散り散りに散っていった。
この残った3人はグループでいた奴等の残りだ。だけどおれたちには付かず離れずを徹底してる。
その内2人は近い距離だから尾行してる事をお互いが気付いてると思う…。
尾行者同士で争ってくれないかな…?
「まいどあり〜!」
全く、不必要な買い物をさせるんじゃないよ!食べるけど…。
しかしこうやって改めて見ると警戒してないとわかんないもんだな……
もしかしたら昨日の夜にリッシュの噂が回って今日の午前中からずっとつけられていたのかもしれない…。
まぁ街中で正体がバレるような事はしてないから何にも問題はないけど。
はぁ〜あ貴族かぁ…リッシュを連れてる限り付き纏う問題だよな…。さっきの芝居で諦めてくれないかなぁ……
「よし、じゃあ準備もできたしモンスターと戦ってみよう!リッシュ頑張ろうな?」
〈キュキュー!〉
さっきの嘘を本当にする為の最後の仕上げはリッシュが鍵を握る。
まだリッシュは戦った事が無いが、あのステータスだ弱い訳がない。
ギルドを出てからは完全におれのアドリブだがうまいことやってくれよ…
〜クルーシェ側 フィールド〜
見物客は5人か…もうちょっと増えると思ってたんだけどな…まぁいっか。
少し少ないがコイツらには証人になってもらって嘘を本当だって広めて貰おう…。
「リッシュ出たぞ!クックマだ!頑張れるか?」
〈キュー!〉
「よ〜し!周りの木を焼かないように注意するんだよ!リッシュ、ファイアブレスだ!」
〈キュー!〉
『ゴォォォ』っとけたたましい音と炎をあげそれがクックマを襲う。
そしてその場には何も残らなかった…。
ジフのブレスよりは小さいがおれのメガフレイムより何倍も大きな炎をリッシュは吐いた。
なんじゃこれー!完全にオーバーキルだ…。初めてリッシュのブレスを見たけどとんでもないな……
おっといけない今は本番中だった…。呆気に取られてる場合じゃない演技に集中しないと!
「うはー!リッシュ凄いぞ!クックマなんか相手にならないな!」
〈キュー!!〉
「リッシュ凄いよ!最強だね!」
〈キュー///〉
ちゃんと見てたか?貴族の犬共が!本当の情報で乱せ乱せ!
「あっ!そう言えばホークの武器を取りに行く時間を忘れてた!ヤバイ急いで戻ろう!」
もうここに長居する必要はない。耳で騙し、目で騙し、これだけやれば少しは時間を稼げるだろう。
いささか強引ではあるが、これで街に戻る事にする。
リッシュの実力は証明できた。スパイ達も今自分の目で見た事が真実であり、これ以上安易に付け回すよりおれたちに見付かる恐怖の方が大きいだろう…。
もしリッシュに自分がおれの敵だと判断されたらさっきの攻撃が今度は自分に向くんだ。
100%リッシュが自分を敵と判断しないと誰が言い切れる?リッシュの能力に関しておれはほとんど言ってないが、盗賊を消し炭にした話はした。
これだけ根拠と証拠を示せば接触してくる奴はぐっと減るはずだ。
後はこの噂が出回るのを待つだけだ。尾ヒレがついてる場合は必要な人にはおれが訂正すればいい。関わりのない相手ならそのまま放置だ。
『嘘の真実』と『真実の嘘』を巧みに使ったこの作戦…わかってなかったら全部が真実に思えるだろ?
敵のお前達はおれたちの演技によっておれたちの掌の上でコロコロ転がるがいい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます