第112話 なりきり師、ご褒美を渡す。

 〜冒険者ギルド ギルマスの部屋〜



「なぁユウキよぉ?おれはそんなに難しい事を言ってるか?転生人だってバレない為に大人しくして気を付けろって何回言えばわかるんだ?

何でお前達は毎日毎日次から次に問題事を起こすんだ?おれにわかるように教えてくれよ…。」


「そんなのおれが一番知りたいですよ…前世の時から問題事がおれの方にやってくるんですよ!呪われてるんですかおれは!」


「知らねぇよ!何で逆ギレしてんだよ!はぁ、次は貴族と揉めただぁ?何考えてんだお前は!」


「ギルマス!ユウキは悪くないよ!アイツら酷いんだよ!リッシュを売れって急に言ってきたんだ!

それに隷属アイテムをリッシュに使うって言ったんだよ!」


「だからって貴族の家にメテオを大量に降らせるって?バカかお前達は!そんな事してみろこの街諸共大惨事だろうが!」


「だってアイツらが……」


「だってじゃない!はぁ、シルバがその場にいてくれて本当によかったよ…あ〜頭痛ぇ…。」


「そうだ何でシルバさんがあんな所にいたんですか?いつもならギルドにいる時間ですよね?」


「あぁ君達のスキルの書の取引の帰りだったんだよ。通りがかったのは本当にたまたまだよ。だけど通りがかってよかったよ。僕が現れた事ですぐに撤退したようだしね…。」


 確かに言われて見ればそうだな…。シルバさんが来た途端にあの執事は引いた。

 シルバさんの事も知ってたみたいだし貴族もギルドとは争いたくないのかな?



「でも絶対アイツらリッシュの事諦めてないですよね?なんかおれが喜んで渡すみたいな事を言ってましたし…あれは絶対嫌がらせしてきますよ。」


「それに関しては僕も同意見だ。間違いなく何かしてくるだろう…。」


 おれがリッシュを喜んで渡すわけがない。だけどあの自信たっぷりの言い方…地上げ屋みたいな事でもするつもりか?

 …ってそんな事になったらお世話になってる人達に迷惑かかっちゃうじゃん……



「あ〜面倒臭ぇ!貴族なんかと関わるつもりなんてなかったのに……

大体テイムや従魔登録してるモンスターの受け渡しなんてできるんですか?」


「それは主人の同意があれば可能だ。金銭だったり従魔同士の交換だったりな…

だが従魔が次の主人に従うとは限らない。そんな時に隷属アイテムを使うんだ。」


 従魔同士の交換…そう言う風な言い方をされると似たようなゲームは知ってる。

 でもあれはゲームだからできることだ。現実だと情が移ってできたもんじゃない!

 まだ出会って2日目のリッシュですらそう思うんだ。大切に思ってたら尚更交換なんて発想はでないだろ……。

 なによりジフはおれたちだからリッシュを預けてくれたんだ。リッシュを誰かに渡すなんてありえない!



「なんですかそれ…モンスターの意思は完全無視かよ…そんな事する奴らにリッシュを渡すつもりなんてない!やっぱ潰すか…。」


「だから辞めろつってんだよ!こうなった責任はお前にもあるんだからな!」


「なんでですか!おれは何もしてないですよ!」


「ドラゴンを連れてんだろうが!そんな大っぴらに連れてて目立たねぇはずねぇだろ!

今回はゴウロット家が接触してきたが他にもリッシュを売ってくれと言ってくる連中もいるだろうよ。その貴族全部と戦うつもりか?」


「それもやむなし…」


「バカかお前は!なにカッコつけてやむなし…とか言ってんだよ!人を殺したら盗賊落ちするって教えたばかりだろうが!なんでもう忘れてんだよ…」


「忘れてませんよ!でもそれじゃあ他にどうすればいいんですか?」


「こうなる事はある程度予想してたからいい方法を考えておいた。

お前のその空気を読めない行動と得意の嘘でなんとかしてみろ。」


「ちょっと!人聞きの悪い事言わないでくださいよ!それだとおれが超絶糞野郎みたいじゃないですか!

言っておきますけどおれ程空気の読める人間はいないですからね!読めるけど読む気がないだけです!

そう言う気を使う事は前世で嫌と言う程経験して疲れたからこの世界では少し自由に生きてるだけです!

それに嘘じゃなくて演技です!演技!おれの中の別人になりきってるだけです!そこを勘違いされると困っちゃいますねぇ。」


「おれはお前の前世は知らん!だがこの世界での非常識さは知ってる。お前が何を言おうとおれの評価は変わらん!

それよりどうするんだ?おれの策はやるのか?やらないのか?」


「……話を聞きましょう。」


 確かにこれまでを振り返るとほんのちょーーっとだけ思い当たる節がない事もない。

 あれこれ突かれて説教される前にここは大人しく引いておこう……。ほら空気読めてるでしょ?



「まずはリッシュをどの位の人数が狙ってるのかの把握からだな……」


「わかりました。色々検索してみます…」








 おれたちはギルマスの考えた作戦を聞き、その作戦を実行する事にした。

 一時しのぎでしかないのかもしれないがやらないよりはマシだろう…。



「当然ながらおれは完璧にできるけどホークは大丈夫か?」


「う〜ん…自信はないけど頑張る!」


「そっか。まぁおれがフォローするから気楽にいこうぜ!」


「わかった!」


「リッシュは騒がないで大人しくしといてくれよ?」



〈キュー!〉



 作戦を聞いてる内にリッシュも目を覚まし途中からだが一緒に聞いていた。

 どこまで伝わってるのかわかんないけど大人しくしててくれれば支障はない。



「じゃあ行こっか!あっ!その前に…ギルマスとシルバさんとマーガレット所長にプレゼントがあるんです。」


 今はギルマスとシルバさんしかいないけどプライのプレゼントを今渡しちゃおう。



「「プレゼント?」」


「はい。ダンジョンを鎮静したご褒美だってプライが言ってました。今出しますね…」


 意識はぼんやりしてたけどちゃんと覚えてる。プライの奴初めて友達ができて嬉しかったとかカワイイ事言ってたな…

 いつかホークもリッシュも一緒に行けてプライと友達になれたらいいな。



「ちょ、ちょっと待て!プライ様からのご褒美?お前急に何言い出してんだよ!」


「えっ?」


「えっ?じゃ無いよ!ユウキ君?プライ様が僕達にプレゼントをくれるのかい?」


「そうですけど?」


「ばばばばバカ!お前そんな事急に言うんじゃねぇよ!はぁはぁ…心の準備をさせろ!」


「ゴロズ所長を呼んできます!!!」


「えっ?シルバさん?あっ、行っちゃった…もぅ大袈裟ですよ!

ご褒美を貰えるんだから『やったー』でいいじゃないですか!」 


「バカ言ってんじゃねぇ!神からの贈り物なんて普通に生きてて貰えるわけねぇだろ!ユウキお前感覚バグってんのか?」


「失礼な!おれは正常ですよ!」


「ねぇユウキ?おれには無いの?……」


「あぁと…ホークにもちゃんとあるよ。」


「本当?」


「うん。だけどホークに渡すのはおれのテイマーがマスターできた時なんだって…

だから今は渡せないんだ…ごめんな…。」


「ううん大丈夫!そっかおれにもあるんだぁ!」


「きっと喜ぶって言ってたから良い物なのかもしれないな?」


「本当?ヘヘッ楽しみだなぁ!ユウキ頑張って熟練度上げようね!」


「わかった。できるだけ早くテイマーを上げるようにするよ。リッシュにも関係ある職業だもんな。」


「うん!」


「はぁはぁ…ゴロズ所長を呼んできました!」


 早ッ!さっき出ていってもう?



「シルバちゃん?一体なんなのぉ〜?そんなに強引にあたしを連れ去って…まさか!あたしと2人っきりになりたくて…」


「そんなわけないでしょう!早く入ってください!」


「あらユウキちゃん、ホークちゃん、リッシュちゃんこんにちは。」


「「こんにちは!」」



〈キュー!〉



 切り替え早ッ…マーガレット所長って一人寸劇を地でやってるみたいな人だな…



「ゴロズとにかく座れ!」


「なぁに?グリード貴方まで…まさか何かあったの?」


「一大事だ。いいか落ち着いて聞けよ。」


 全く…皆大袈裟だなぁ……



「プライ様からおれたちにご褒美があるらしい…。ダンジョンを鎮静した事による神からの贈り物だそうだ。」


「何だと!?それは本当かグリード!」


 出たー!スーパー地獄声のゴロズ所長!今回は他の2人の反応からして出るだろうなって予想してたからビックリしなかったぞ。



「ユウキちゃん!!!」


「ひゃい!」


 いつにも増して迫力がある。まさかそんな勢いで話かけられると思ってなかったので結局驚いてしまった…



「嘘じゃないんだな?本当にプライ様からの贈り物があるんだな?」


「は、はい。あります!落ち着いてくだざいゴロ…マーガレット所長!」


 危ない!思わずゴロズ所長って言いそうになっちゃった。この状態で怒らせてしまったら怖すぎる…

 今回は『カッ!』って顔にならなかったからセーフだよな?



「じ、じゃあ全員揃ったし出しますね…。実はおれも中身は知らないんですよね……」


 ご丁寧に全員分をわざわざ箱に入れてるようだ。そのせいでインベントリの中でも『プライの贈り物』としか表示されず中身は見れない。



「まずはこれがシルバさんの分で、これがマーガレット所長にこれがギルマスのです。」


 それぞれの前にプライから預かった箱を置いた。



「お、おい誰から開ける?」


「あたしまだ…」


「ぼ、僕も恐れ多くて…ギルマスからお願いします。」


「な、なんでおれからなんだよ!」


「だぁー!もう!早く開けてくださいよ!おれだって気になってるんですからね!3人一緒に開けたらいいでしょ!」


「バカ!おま、バカ!緊張するに決まってんだろ!そんな急かすなよ!」


「そうだよユウキ君!僕達にとってこれがどれだけ特別な物かわかってるのかい?」


「ユウキちゃんと違ってあたし達はプライ様の存在を身近に感じることができた初めての経験なんだぞ…」


「そんな事言ってたらいつまでも開けられないでしょう!おれたちまだやる事あるんですから早くしてください!

はい全員フタ持って!ホーク、リッシュ手伝って!」


「わかった!」



〈キュー♪〉



 仕方ないのでおれたちが全員の手を取り箱を持たせた。



「ちょ、バ!」


「いきますよせーの!」


 おれはギルマスを。ホークはマーガレット所長を。リッシュはシルバさんをサポートして無理矢理箱を開けさせた。

 シルバさんは渋々自分で開けたけど最初から全員そうしてくれたらよかったのに……



「「「これは……」」」


 フタを開けたら箱から眩い光が溢れ出し…なんて事が起こる事もなくただ普通に箱が開けられた。



「全員スキルの書?ですか?なーんだ…」


 中身は全部スキルの書だった。なんか期待してただけに肩透かしをくらった気分だ…



「これがプライ様からの贈り物…」


「感動で震えてきました。」


「ユウキこれはおれたちが本当に貰っていいのか?」


「そうですね。使ってもいいし売ってもいいんじゃないですか?まぁ直接渡す位だからハズレではないと思いますけど…」


「売るなんてとんでもないよ!でも使えないよ…」


「じゃあおれたちが使いましょうか?」


「「「絶対ダメだ!!」」」


「冗談ですよ。そんなに怒んないでください。でも使わないとプライが贈った意味がなくなっちゃいますから使ってくださいね。

じゃあホーク、リッシュそろそろ行こうか。作戦開始だ!」


「うん!」



〈キュー!〉



 スキルの書の内容も気になるけどギルマス達中々使いそうにないもんな…

 また後でギルドには来るし、その時に結果を聞こう。流石にそれまでには使ってるよね?………

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る